「このドスケベッ!!」
獏良は千年リングを力任せにベッドに叩きつけた。
それだけでは気が収まらず、大きく肩を上下させる。唇はわなわなと震え、白い額は赤く染まっていた。
親しい友人たちにもこれほど心を乱している姿を見せたことはない。
獏良が癇癪を起こしたのは、それなりの訳があった。
千年リングの中には、盗賊の魂が封じられている。獏良は最近までそれを知らずに、ただのアクセサリーとして首から下げていた。
千年リングに潜む魂――バクラはその間も意思を持って獏良の側にいた。片時も離れることなく。
獏良がバクラの存在を認めてからは奇妙な関係が続いている。
どうやら、バクラは獏良に対して並々ならぬ執着心を抱いているらしい。それも人間と比べてみれば、常軌を逸したものだった。
獏良は異性に好かれやすい。今まで何回も好意を向けられてきた。
しかし、それはすべて対岸から黄色い声を手前勝手に送ってくるだけで、獏良の元に直接届けられたことなど一度もなかった。
つまり、色恋沙汰に発展する気配すらなかったのだ。
バクラはいとも簡単に獏良の懐へ物理的にも精神的にも飛び込んできた。
打算も少なからず含んでいるのだろうが、熱烈な口説き文句の数々に、恋愛に関して免疫のない獏良はノックアウト寸前だった。
口では嫌だと拒絶してみるものの、迫られて悪い気はしない。
あれよあれよという間にバクラの手が服の中に忍び込んでいるということも度々あり、そのときにはすっかり抵抗する気を失くしてしまう。
受け入れる気持ちが多少なりともあるのだから、意地を張ってそっぽを向く必要はないのかもしれない。が、素直になれない事情もあった。
何年も獏良の胸元で大人しく過ごしていたバクラは、すっかり温もりも香りも堪能し尽くしていて、ちょっとやそっとの触れ合いでは満足できなくなっていた。
肌と密着している状態が常なので仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。
獏良にとっては大問題だった。恋愛経験のない初心な少年には刺激が強すぎた。
風呂の時間になれば、一緒に入れろと騒ぐ。着替えをすれば、身体の凹凸に指が這う。トイレに入れば、手伝うなどと言い出す。
休日の昼寝中にズボンと下着がずらされていたときには、さすがに猛抗議をした。
なぜか艶々としたバクラの肌を見て、何があったのか恐ろしくて訊き出せはしなかったが。
獏良の中に不満が少しずつ積み重なっていき、今朝とうとう爆発してしまった。
挨拶代わりにうなじを舐められたのが、どうしようもなく許せなかったのだ。
いつもなら最終的には折れて身につけてしまう千年リングをベッドに放置し、獏良はフンと鼻を鳴らして学校に向かった。
肉体から離してしまえば、バクラは手も足も出ない。二心同体である二人にとっては、いい冷却期間になる。
帰宅してから今後の付き合いについて、ゆっくり話し合えばいい。
ちょっとした罰のつもりでもあった。
まさか、この行動を後悔することになるとは、このときの獏良は知る由もなかったのだ。
オシオキ×ゴホウビ
久々の自由な時間は楽しかった。監視する者がいないので、好きなことが好きなだけできる。放課後に友人と長々と喋っていても、うるさく言われない。
すぐに帰宅してしまうのが勿体なくて、数駅先まで足を延ばし、品揃えのいいホビーショップと本屋に寄った。
思う存分散財し、両手に荷物を抱え、上機嫌でいられたのはそこまでだった。
童実野駅に向かう電車に乗り込み、異変はすぐ起きた。
西の空が茜色に染まり、社会人や学生たちが車内に増え始める時間帯。
それでもラッシュには程遠く、乗客同士がたまに肩と肩が触れ合うくらい。
獏良はドアの前に立ち、荷物が邪魔にならないように、学生鞄と買い物袋を身体の前でまとめて持った。
少し窮屈だが十数分程度の辛抱だ。本格的に混み合う前でよかったと思った。
電車はしばらく順調に走っていたというのに、次の駅へ辿り着く前に徐々にスピードを落とし、とうとうピタリと停車してしまった。
『前の駅で電車が停車しております。しばらくお待ち下さい』
車内アナウンスが淡々と告げる。
この路線では、よくあることだった。相互乗り入れの関係で混み合う時間帯にダイヤが乱れがちになる。十分程度の遅れは日常茶飯事だ。
それを知る獏良は事故でないことにむしろ感謝した。慌てず騒がず待っていれば、直に動き出すだろう。
荷物を握る手を組み直し、電車が発車するまで瞑想しようとして、目をぱちぱちとしばたいた。
臀部に当たる生暖かい感触。
車両の収容人数にはまだ余裕がある。身体が触れ合うのは少し奇妙だった。
『ご迷惑をおかけしております。電車間隔の調節のため、速度を落として運転を再開します』
アナウンスの通り、電車が再び動き出した。しかし、窓の景色はほとんど変わらず、もしかしたら徒歩の方が速いのではと思えるほど。
車体をガタガタと揺らしながらのろのろと前へ進む。
獏良の周囲には手すりも吊革もない。よろけないように足を肩幅に開いた。
振動に合わせるかのように、臀部の感触も小さく左右に往復した。感触からすると、どうやら当たっているのは手の甲のようだ。
しばらくしても、後ろの体温が離れる様子はなく、べたりと獏良に張りついたまま。もう偶然とは思えない。
獏良は周囲に気づかれないよう背後の人物にそっと視線を送った。
真後ろに立っていたのは、何処にでもいそうな中年のサラリーマン。
窓の外を真っ直ぐ見つめたまま口を真横に結び、とても迷惑行為をするようには見えない。目の前にいる少年のことなど眼中にないとでも言いたげ。
手の感触はしっかりと尻にあるのに、獏良の方が勘違いではと思わされそうになる。
他に該当する乗客はいない。
長髪のために女と間違えられることは今まで何度もあった。町中で後ろから声をかけられて振り向くと、「なんだ男か」と勝手に落胆されることも珍しくない。
しかし、今日は制服を着ている。性別を間違えようがない。
男であると理解して当然のように触っているのだ。獏良の背筋に悪寒が走った。
場所を移動したくはあったが、満員電車ほどではないとはいえ、混み合っている中を突き進むのは迷惑をかけることになる。
声や手を出して注目を集めることは、一番避けたい事態だ。「男が男を触るものか」と言われてしまうかもしれない。
見た目は真面目な社会人と世間的にはまだ子どもである高校生のどちらが信用されるだろうか。
それに、痴漢に遭っていることなど誰にも知られたくない。男のプライドが傷ついてしまう。
あれやこれやと獏良が思案している間に、手は尻の中心へと場所を移し、立てに走る隙間に沿うように上下に動き始めた。そして時折、ぐいぐいと奥にある窪みを目指す。
――キモチワルイッ。
獏良はその行為の意味をよく知っている。慣れれば快感になることも。
それは絶対条件として、相手が心を許している者でなければならない。この状況では、ぞわぞわと足元から鳥肌が立つだけだった。
赤の他人に触られることが、これほど気持ちが悪いものなのだと初めて知った。愛撫というよりも、虫がべたりと張りついている感覚に近い。
電車は相変わらず徐行運転を続けている。
童実野駅まで我慢しようか。両手の荷物を一時放棄して抵抗しようか。二択を迫られていた。
そんな獏良の迷いを見透かしたように、男の手がするりと足の間に滑り込み、前の膨らみを鷲掴みにした。
突然、急所を狙われ、獏良の思考回路がすべて停止する。
――え、あ、ウソ……。
手は容赦なく膨らみをぐにぐにと揉んでいく。
電車の中で男が男の局部を触っている――異常な光景だった。
他の乗客に知られれば、異常なことをする男と同類に思われるのではないだろうか。
――ヤダ……。
芽生えていた気勢が恥辱によってあっさりと萎えていく。抵抗という道は閉ざされつつあった。
こんなみっともない姿は誰にも見られたくない。ほんの少し耐えていれば、駅に着くはずだ。
水が高いところから低いところへ流れるように、現状維持という楽な方へ思考が逃げていく。
男の手は後ろからしっかりと膨らみを捉え、上下に撫でている。
太股の裏側に硬直したものが押し当てられた。
正体が何か考えなくとも分かる。
数日前だって相手が違うだけで同じようなことをされたのだ。
しかし、そのときはこんなに不快感はなかった。むしろ心地よくて、口では否定しながらも、身を任せてしまったくらいだ。
もし、ここにその相手がいれば、男の手を捻り上げてくれるだろうか。
自分でその可能性を打ち棄ててしまったのだから、儚い願いにしかならないのだけれど。
獏良の心を他所に、直接的な刺激は身体に作用する。しつこく擦られたそこはズボンの下で頭をもたげようとしていた。
――こんなところで……。
獏良は男の体質を呪った。身体が心を無情にも裏切ったのだ。
ますます他の乗客に知られるわけにはいかなくなった。同意の上の行為だと思われても、否定しづらい。
電車が分岐点を通過し、ガタンと激しく車体を揺らす。乗客たちは揃ってその場によろめいた。
男と獏良も例外ではない。バランスを崩し、前へと身体が傾く。男はその勢いのまま、獏良の身体をドアに押しつけた。
「――くっ……」
上半身が窓部に触れる。視界には外の景色が広がった。まるで醜態を披露しているみたいだった。
耳元に吹きかけられる激しい息遣い。背中に当たるのは、じっとりと生暖かい胸板。足の間に押しつけられる熱く滾ったもの。
嫌悪感と不快感が吐き気を引き起こす。口の中に広がる酸味がかった分泌液。気持ち悪い気持ち悪い。
濁った粘液がどろりと身体を覆ってしまったかのように上手く呼吸ができない。
なぜこんな赤の他人に好き勝手にされているのか。快楽を得られるどころか、不快でしかない。
ちぐはぐな心と身体が獏良をより一層追い詰めていく。
身体に触れられるというのは、洗い立てのシーツに包まれるような、心地のよいもののはずだ。
限られた者以外が、簡単に触れていいものではない。触れていいのは……。
そのとき、逆側の扉が勢いよく開いた。車内に流れ込む新鮮な風。淀みきった空気も、獏良を覆う粘液も、吹き飛ばす。視界が開けるようだった。
獏良は身体を反転させながら荷物を大きく振り回し、男の身体を押し退けた。
乗客の流れに乗って、ホームへ飛び降りる。目的の駅でなくても構わない。
不自然に見えないように、なるべく荷物で身体の前を隠す。階段を駆け下り、構内のトイレへ。個室に鍵をかけて閉じこもった。
そこでやっと身体の力が抜けて、便器に座り込んだ。
盛り上がってしまったズボンの一部分が目に入り、髪が顔を覆い隠してしまうほどに項垂れる。
――情けない……。
その一言に尽きた。
下半身が治まった後も、獏良はしばらく個室から出ることはできなかった。
胸にありとあらゆる負の感情が渦巻いて、その場を動けなくなってしまったのだ。
獏良は自宅へ辿り着くなり、制服の上下とも手早く脱ぎ、皺になるのも構わずに椅子の背凭れへ投げつけた。
帰りの道中でも制服に男の手垢が残っているような気がして落ち着かなかったのだ。先ほどのことを一刻も早く忘れたかった。
制服を脱いでしまえば、シャツに下着という間抜けな姿。
それでも、男にべたべたと触られたままでいることに勘弁ならなかった。
ベッドの上には千年リングが放置されたまま。身につけることは躊躇われた。
先ほどの災難を知られてしまう。今朝、あれだけ威勢よく飛び出しておいて、痛い目に遭ったとは間抜けな話ではないか。
輪の部分を両手で掴んでも、紐を首に通すことはできなかった。
『どうした?』
千年リングを介し、もう一人の声が聞こえた。
無下に扱われたはずなのに、心に染み入る落ち着いた声色。
獏良は肩を落としたまま何を話したらいいか分からず言葉を詰まらせていた。
『何かあったのか?』
バクラは責め立てるわけでもなく、もう一度同じ調子で問いかけてきた。
千年リングを身につけていない状態では、バクラの姿は見えない。
それなのに、獏良は優しく肩に手を置かれているかのように錯覚した。耳に届く声音はどこまでも気遣わしげで心が和らぐ。
そうだ。きっとあの場にいてくれなのなら、手を差し伸べてくれたはず。今も話を聞いてくれようとしてくれてるじゃないか。
獏良は縋るような目を千年リングに向けた。
『何があったか話してみろ』
穏やかな声が後押しをする。
「さっきさ――」
思い出したくもないが、すべて話して楽になりたい。縋る想いで先ほどの出来事を打ち明け始めた。
『なるほど』
獏良の説明が終わると、バクラはゆっくりと口を開いた。慎重に言葉を一つ一つ選んでいる様子。
『それは災難だったな。辛かったろ。お前が気に病む必要はない。悪いのは全部そいつだ。オレがその場にいれば、助けてやれたのにな。やりきれないな』
獏良にじんわりと浸透していく言葉の数々。すべてを優しく包み込まれ、打ち明けて良かったと救われるようだった。
「ありがとう……。今朝は酷いこと言ってごめんね。僕、もっと君を――」
『なァんて、言うと思ったか?オレ以外のヤツにほいほい触らせてんじゃねえよ。自分の身すら守れないでどうすんだ。案外喜んで腰振ってたりしてな。そのうちきったねーオヤジ共に掘られてアンアン喘ぎ出すんじゃねえのか』
一瞬にして獏良の頭が真っ白になる。刺々しい口調が傷を抉る。上手く言葉が飲み込めない。優しかったバクラはどこに行ってしまったのだろう。探しても見つからなかった。
千年リングの針が五本とも暴れ出し、先が一斉に獏良を捉える。
『ちょうどいい格好してるなァ』
あ、そっかと、獏良はどこか他人事のように思い出していた。
――最初から優しくなんてなかったじゃないか。
ベッドの上に寝かされた獏良の胸を見えない手が這い上る。抵抗しようにも、まるで磔にされたように身体が動かない。
『上はどんなふうに触られた?』
「触られてないよ。下だけ……」
獏良の脳裏に電車での行為が甦る。確かに上半身は触られてはいないが、窓に押しつけられた感覚は残っている。
冷たいガラスに押し潰される胸。背中には赤の他人の鼓動。吹きかけられる生臭い息。手も足も出ない屈辱感に苛まれる。
獏良の顔に苦悶の表情が微かに浮かんだ。
シャツのボタンが下から順にゆっくりと外されていく。
「やめてよ……。触られてないってば」
『どうだかな』
露出した胸の上を確かめるように滑る感触。左右に行ったり来たりしながら、徐々に先端へと進む。小さな二つの膨らみは、摘み上げられれば、たちまち勃ち上がってしまう。
白い胸板で主張し始めたそこは、本来ならば性が分岐するときの名残として存在しているだけで、必要のないものであるはずが、言い逃れができないほどに欲の象徴と成り果てる。
『触られてないと言い張るなら、どうしてこんなに簡単に反応するんだ?』
なおも執拗に周囲の柔肉ごと捏ねくり回された。
「ちがう……これは……っ」
獏良が言い終える前に両先端がぎゅうと押し潰され、
「ひっ、ン」
喉の奥から細い息が漏れた。
胸を弄り飽きたのか、バクラの手は胴を滑り下り、今度は下半身へと移行する。
下着の上から前の膨らみと後ろの窪みを同時に撫で始めた。
それこそ電車内で与えられた刺激と同じもの。
「んッ、ふ、ァ……」
両手両足を拘束されたままでは身動きが取れず、獏良の腰だけが跳ねる。
つい先ほどまでは気持ち悪いだけの行為だったはずが、今度は肉体の隅々まで敏感に反応してしまう。
下着と硬さを帯びてきた膨らみが擦れ合い、くちっくちっと耳にするのも恥ずかしい音が流れ出す。既に染みが広がっているに違いない。
『ほら、見てみろ。お前は見ず知らずの野郎にこんな端ねぇ姿を晒してたんだぞ』
「あっ、ヒッ、ゃ……ん」
獏良は懸命に紅潮した顔を横に振る。
『素直じゃねえな』
くに、と先端を圧迫され、
「ひあっ……ぁあン!」
顎を突き上げて大きく鳴いた。
唇の端から溢れ出た分泌液が口元を汚す。
前は下着の上からでも分かるほどに勃ち上がり、後ろは更なる刺激を期待して、きゅうきゅうと収縮を繰り返している。
けれども、責め苦を与えている張本人は姿を現さず、獏良だけがベッドで痴態を見せている。
一人で喘ぎ、一人で腰を振り、一人で身体の一部を硬くする。まるで自慰行為。
赤の他人には馬鹿馬鹿しく見えるだろう。独り舞台に観客がいないことが幸いだった。
「うっ、あぁ……触っ、て……」
獏良は頬を涙で濡らしながら、姿の見えないバクラに向かって叫んだ。
「おねがい、ちゃんと、さわってよぉ……!」
それに対する答えは酷く素っ気ないものだった。
『あ?人をスケベ呼ばわりした後はおねだりかよ。それは調子良すぎンじゃねえの?』
「ううっ、こんなの……。さわってくれなきゃ、やだァ」
めそめそと涙を溢す姿は駄々をこねる幼児のよう。さすがのバクラも刺激を与えるのを中断した。
『これくらいでビービー泣くんじゃねえよ。興醒めだ』
しばらく獏良はぐずぐずと鼻を鳴らし、嗄声で再び言葉を続けた。
「だって、他の人に触られても気持ち悪いだけだって分かった。こんなになるのは君だけなんだ……。だからちゃんと抱きしめてくれないと嫌だ」
睫毛に絡んだ水滴を拭うこともできずに、真っ白な天井に向かって心情を吐露する。
『ワガママめ』
バクラから投げられたのは否定の言葉だったが、嘲るような声音ではなかった。
その証拠に気がつけば手足が解放されている。
「よしよし。素直に言えるじゃねえか」
やっとのことで姿を現したバクラは、獏良の顔を包み込むように両手を添えた。その表情はどことなく上機嫌に見える。
「そんなに嫌だったのか?」
「……嫌に決まってる」
「オレ以外は?」
こくりと頷く獏良に、バクラはにんまりと笑った。
「ご期待には応えねえとな」
「あ……んっ……ああ……ふぅ」
二人は衣服をすべて剥ぎ取り、獏良の望みどおり抱き合っていた。
対面で身体を重ね、何度もキスを交わす。
既に充分な愛撫は加えられている。肌が触れ合うだけで小さな快感が得られた。
その上、硬くなった胸の突起や性器が擦れ合い、情欲が高められていく。
「気持ち悪いのなんて、今に吹き飛ばしてやるからな」
「……ん。あ……っ……忘れさせて……」
獏良は瞳を熱っぽく潤ませ、バクラに夢中でしがみついている。
濡れた二つの性器からクチュリクチュリと淫らな音がしていた。
このままでも満たされはするが、バクラは後ろ髪を引かれながらも身体を離し、獏良にうつ伏せになるように言った。
「こう?」
頭から爪先まで真っ直ぐにベッドに沈み、両手は顔の横に、枕を上胸のあたりに挟んで、マッサージでも受けるような体勢になる。
上から見下ろした獏良の後ろ姿は、どこを見ても汚れ一つなかった。きめ細かい肌、無駄な贅肉はなく、きゅっと引き締まった小振りの尻。
同性でも撫でたくなってしまうのは無理もない。
バクラは賛美の意味を込めて背中にキスをした。
「あっ」
背中がピクンと小さく跳ねる。
背後から髪を掻き分け、白い首筋と耳を顕にした。既に昂った身体からは、蠱惑的な香りが立っている。
バクラは痺れに似た感覚に陥り、鼻先で周辺を擽った。
「ン…………」
それから思うままにキスを落とし、ぴくぴくと震える獏良の反応を楽しむ。
「はあ……」
ベッドにうつ伏せになる体勢は、電車内でドアに押しつけられた体勢と似ている。
「なあ、こんなふうにされたんだろ?気持ち悪いか?」
「うぅん。きもちいい……」
獏良の声はうっとりとしていた。後ろから吹きかけられる息でさえも心地いい。赤の他人では生温く不快なだけだった。
尻を弄られても同様で、自ら少しだけ足を開いた。
バクラが優しく尻の肉を持ち上げると、奥にはまだ薄い色の窄まりが収まっていた。経験が少ないことが目に見えて奥ゆかしい。
性器から滲み出た分泌液が後ろまで滴り、テラテラと濡れている様子はなんとも卑猥で対照的。
奥がもっと見えるように押し広げると、小さく口を開き、まるで先の行為を待ち焦がれているようだった。
その中心を先端でちょんと突く。
入口はすっかり解れていて、申し分のない状態になっていた。
そのままズブズブと押し進めていく。
「く、はっ……ァ……ん……」
反射的に逃げそうになる背中に覆い被さり、上から肩を押さえ、根本まで挿入した。
「ハア……深いぃ……」
奥に挿れたまま腰を小さく回転させると、獏良が悦びの悲鳴を上げた。
「気に入ってくれたか?」
「ンッ、っうぅん、んん……」
腰に柔らかい尻が何度も当たり、理性が飛びそうになる。その感触をもっと味わうために中を掻き回す。
「……締まるっ」
放さないと言わんばかりに、バクラの強張りがキツく掴まれる。前からするよりも深く挿入できている分、強い刺激だった。
汗ばむ背中に吸いつきながら、狭い壁をノックしていると、外側と内側で混ざり合った液体で入口が泡立つ。
奥を突く度に悶える獏良を押し潰さないように抱きしめた。
獏良は枕に腕を絡ませ、打ち寄せる快楽の波に耐えていた。
熱く滾ったものを打ち込まれると、勃ち上がった性器がベッドに擦れ、すべてを吐き出しそうになる。
対して、背中を擽る唇の感触は優しい。与えられる刺激は真逆でありながらも、向けられる感情は同じ。
上と下を同時に愛されて、逃げ場がなかった。
電車で性衝動を乱暴にぶつけられていたときとは雲泥の差だ。
「ア、アッ、ンッ」
「や、どぬしっ」
大きく打ちつけられたと思った次の瞬間には、咥え込んだものがビクビクと中で暴れ出し、熱い滾りで満たされていった。
「――――――――ッ!」
押し出されるように、獏良の先端からも勢いよく飛沫が上がる。
互いに声にならない声で呻きながら、折り重なって同時に果てた。
有りっ丈の精を放って力を失った男根をバクラがゆっくり引き抜くと、中からどぷんと一筋の液体が溢れ出した。
「あっ…………」
獏良は恥ずかしそうにもじもじと尻を小刻みに揺すった。
後孔がどんな状態になっているのか想像をした途端にすべてが恥ずかしくなる。
行為中は我を忘れているだけ、その反動で体温が急上昇してしまう。
バクラはそんな獏良のうなじにキスをして、頭をやわやわと撫でた。
「もう誰にも触らせないからな」
「うん……」
「オレがずっと塞いでおいてやるし」
「もう……!」
ベッドの上で喧嘩の真似事をしながら、二人はしばらくまったりと過ごしていた。
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もう獏良の前に痴漢は現れませんよ。痴漢なんてできません。