ばかうけ

ずるる、ずるっ、ずず――。 獏良はコンビニで買ったラーメンを啜りつつ、正面の空席に視線を送る。その顔はどんよりと暗い。少し奮発して「人気店監修」「本格」と宣伝文句のついた割高のどんぶりのはずが何となく味気がしない。
用意したのは本来の二人分ではなく、一人分。そもそも普段は出来合いでは済まさずに、健康を理由になるべく手作りをしている。それを言い出したのは他ならない獏良自身だが、決め事を曲げたのには空席に理由があった。


月明かりの窓辺であなたとワルツを


千年アイテムや三千年の因縁から解放された後、獏良とバクラは二人で静かに暮らしていた。取り分けバクラは世界に仇なす存在ではなくなり、ただの人間と同じ生を歩み始めた。
身体が分かれても唯一無二の存在である獏良を大切にしたし、その扱いは宝物のようだった。すべて終わった後に残ったのが獏良だけだから、そうなるのも必然だったのかもしれない。
かつて仮宿であった少年は根が素直なこともあり、幾つか約束を交わした上でバクラのことを信用するようになった。宿主としての責任を感じていたこともある。二人の足並みが揃うのに時間はかからなかった。気づけばバクラは獏良に優しく口づけするのが日課になっていった。

甘くて擽ったくなる生活の中でも悩みはあった。恋人との触れ合いが初めてである獏良にとっては何もかも新鮮であると同時に戸惑いだらけなのだ。毎晩抱きしめられることには慣れてきたものの、どこまで進むものなのか分からなかった。
数えきれないほどキスはしてきたのに、今まで一度もバクラ自身を受け入れたことはなかった。後ろを触られたことはある。しかし、それ以降は経験したことがない。
獏良は乏しい知識で頭を捻った。男女ならば、もっと先があるのではないか。男同士だから終着点はある。手の中で果てたら終わりなのか。男女のことでさえ分からないのだから、男同士になるともっと分からない。バクラにそういう考えがあるのか、ないのか。
訊くに訊けないまま時間が経ってしまった。もしかしたら、このまま一生この触るだけの行為が続くのかもしれない。疑問はあるけれど不満があるわけではないので、それならそれで受け入れるつもりではある。獏良は生殺しのような状態で過ごしていた。

そんなとき海馬コーポレーションから連絡が入った。グールズの残党が貿易路を荒らしているという。バクラには関係ないことだったが、荒事には適役として声がかかったのだった。
はじめは断っていたものの、童実野町一帯を牛耳る企業に逆らうことは悪手であるともいえるし、エジプトの要人が関わっている案件なら恩を売って利になるとバクラは考えた。獏良を残して海外に行かなければならないのは苦渋の選択だったが、本人の後押しもあり最終的に受けることにした。
バクラは日本を経つ前夜にいつもよりたっぷりと獏良を愛撫した。予定なら一週間会えなくなってしまうから熱が入るのも無理はなかった。獏良も恥るのを忘れてしがみついた。送り出すことに賛成でも寂しくないわけがない。
バクラは白い首筋に唇を落とし、吐息混じりに囁いた。
「帰ってきたら最後までするからな」
全身の血が沸騰するとはこのことだった。獏良は顔を赤くしてふるふると震えた。聞きたかった答えを予期しない形で聞くことができ、喜びと驚きと恥ずかしさがごちゃ混ぜになった。そして、どう答えていいか分からずに、
「うん、待ってる……」
と、抱きつくことが精一杯。
それでもバクラは嬉しげに笑ったのだった。

闇組織の残党といっても頭を失ったただの悪漢の集まりに過ぎず、時間はかからないはずだった。しかし、窮鼠猫を噛むという言葉通り思わぬ反撃に手がかかり、一週間の予定が十日、二週間、二十日——と時間を延ばすことになった。
日にちが経つに連れて獏良の心配も募り、落ち着かない日々が続いた。趣味や家事にも手がつかず、そわそわと携帯を何度も見るばかり。帰宅の連絡があったときは久々に表情が輝き、有頂天になって買い物へ飛び出した。
バクラを迎えるために床をピカピカに磨き、喜びそうな料理を作っているところに玄関の扉が鳴った。獏良は廊下を走り、他人がいるか確認もせず、玄関のたたきに足を踏み入れようとしたバクラに飛びついた。
「おかえりっ」
飛びつかれた本人は少し後ろによろけつつ目を見開いてから獏良の背に腕を回し、
「遅くなって悪かった」
しばらく大切そうに抱えていた。

帰宅したバクラはシャワーを浴びてから、よほど疲れていたのか半日ほど眠った。今までそんな姿を見たことがない獏良は、話したいことを我慢してそっとしておいた。バクラが寝室から寝惚け眼で出てきてから作っておいた食卓に料理を並べた。海外では日本食が恋しくなるだろうと考えた献立だ。
予想は当たり、バクラの箸は作りがいがあったと思えるほど進んだ。食べながら何とはなしに溢した「お前の作る飯が一番だな」という感想に、獏良の口元がつい緩んでしまう。
バクラの苦労話に耳を傾けながら食事をした。力はないが悪知恵の働く下っ端に手を焼いたらしい。報酬は上乗せさせるなどと息巻いた。ネズミ捕りの方が容易いらしい。あまり食卓向けの話ではないはずなのに、獏良は久々に心から笑ってあたたかい気持ちになれた。

晩餐後に獏良が台所で皿を洗っていると、背後からするりと腕が伸びて抱きしめられた。思わず手が止まり、水が出しっ放しになる。口からは吐息しか出なかった。
「約束、覚えてるか?」
低くく掠れた声にどきりと獏良の心臓が跳ね上がる。
心の準備をする時間はたっぷりあったはずだが、どうしたって簡単に緊張は解けるものではない。知識を得るためにインターネットで調べてみたものの、同性ということが障害になり、上手くいかなかった。
肉体の準備をしようとしても、半端な情報では怖さもあってできなかった。つまり、充分な期間があっても何もできなかったのだ。
獏良は少し俯きつつ小さな声で、
「……もう少しで洗い終えるから……待っててもらえる?」
声としては頼りない音量だったが、バクラとしては満足の行く答えだったらしい。応と答えるとリビングへ戻っていった。
その間も獏良の高鳴る心臓の鼓動は止まず、真っ赤な顔をして半ば上の空で手を動かした。
すべての洗いものを終えると、冷えきった手を擦って温めてから、ソファで待つバクラの元へ恐る恐る近づいた。
「終わったよ……」
何を言ったら良いのか思いつかず、それだけを口にする。
続く言葉を考える間もなく腕を引かれ、とさりと背中にソファの柔らかい感触が当たる。いつの間にか押し倒される形でバクラを見上げていた。
唇が覆われる。舌がにゅるりと咥内に侵入し、中を舐る。
「んっ…………」
貪るという言葉が当て嵌まる荒々しさだった。獏良が応えようとしても追い詰められてしまうだけ。キスの仕方を忘れてしまうくらい翻弄される。息継ぎしようと口を開けると、さらに食いつかれて舌が潜り込む。
「んんッ……はあ……んむ」
懸命に舌を絡めていると、服を目繰り上げられた。露出した肌に直接触れられる。無遠慮に身体中を撫で回され、下半身に熱が籠っていくのを感じた。
「……はァ」
バクラの行為はすべて性急で、経験の少ない獏良には理解が追いつかない。ただその忙しさが求められていると実感になる。獏良の脳を蕩けさせるには充分すぎる刺激だった。
流されるまま受け入れてしまいたい。ここがソファということも、初めて身体を合わせるということも、余計なことはすべて忘れて愛撫を受けていた。
ジーンズの上から局部に触れられ、
「あっ」
ビクンと獏良の身体が揺れる。
とうとう今まで果たせなかったところまで辿り着いたのだ――。
唐突に身体を撫でていた手が獏良から離れた。
バクラはそのまま言葉なく身を起こす。いつになく呼吸が乱れている。獏良はぼんやりとそれを眺めていた。
「部屋行こうぜ」
へや?頭が回らない状態でその単語を飲み込むと、熱に飲み込まれていた思考を取り戻した。同時に行為が中断されたことを残念に思う気持ちに気づく。
「う、うん」
それまでのことが急激に恥ずかしくなった。どうにでもなってしまえ、とすら思っていたのだ。
飼い馴らされたペットのように大人しくバクラの後について寝室に行く。尻尾が生えていれば床に垂れていたに違いない。本能のままに求めてしまったなんて羞恥心で顔を上げられなかった。
バクラは先にベッドに腰かけ、立ったままの獏良を隣に座るように促す。
「さすがにソファではな」
その言葉には微かに自嘲めいた響きがあった。冷静になって再燃した緊張感で固まっている獏良を余所に自身は上着を脱ぎ捨てる。
「なんだ脱がせて欲しいのか?」
上半身だけ裸になった状態で銅像のように動かない隣の顔を覗き込んで意地悪そうに笑う。
「そういうわけじゃっ」
獏良は慌てて首を横に振る。男同士で恥じらう必要などないのだが、情欲を持って触れ合った直後で裸身を晒すことを躊躇うのは事実。まるでウブな乙女にもなってしまったかのよう。羞恥という点では、先ほど夢中で愛撫を受けていたときの方がマシだった。
獏良は恐る恐るといった様子で上着に手をかけて脱いだ。下はどうするか悩んだ一瞬の間にベッドに押し倒される。
「わっ」
唇が塞がれ、舌を押し込まれる。しかし、先ほどとは違い、ゆっくりと落ち着いた様子だ。肌を撫でられる感触も心地良い。大切なものに触れるような手つき。だから獏良でも冷静なままでバクラを観察できた。
自分と同じ作りのはずなのに、別人のような表情。透き通るように白い髪の一房がシーツに流れる。長い睫が意思の強そうな瞳に影を落としている。
バクラからはどのように見えているのだろうか――。
変な顔してなきゃいいけど、と確かめる術もなく頬を染めた。
くに。胸の先端を摘ままれ、ヒャッと情けない声が出そうになる。優しい愛撫が続き油断していた。
薄桃色の粒が指の間で形を変える。くにくにくに。
「硬くなってきた」
バクラが恍惚の色を滲んだ声で呟く。その言葉通りに小さな果実は芯を持ち始めていた。次第に獏良の中をゾクゾクと弱い電気のようなものが走っていく。
刺激によりぷっくり膨らんだそこに舌が当てられる。
「…………ヒッ」
とうとう我慢ができずに獏良から声が漏れた。膨らみきった先端は刺激を待ち望んでいるよう。感度が鋭敏になっている。
舌が絡められ、ちゅっちゅっと音を立てて吸われると、獏良に耐えることはできなかった。
「ヒ、だめ……」
バクラの頭を掻き抱き、イヤイヤをする。言葉とは逆の行動をしてしまっていることに本人は気づかない。
カリッ。合間に優しく歯を立てられる。それすらも甘い刺激に変換されて獏良の脳に届く。
「やっ」
獏良が不慣れな快感に見悶えている間に、下着ごとジーンズが下ろされていく。熱を帯始めてきた押茎がひょこと顔を出す。
外気に触れたところでやっと自身のあられもない姿に驚いて声を上げた。
「ちょ、ちょっと待って」
「待たねえ」
まだ柔らかい茎がバクラの手に包まれる。当人の意思とは無関係に上下に扱き上げられると、あっという間に上向いた。
「アッ、アア、ンッ」
小さく啼き始めた獏良の首筋をバクラの唇が宥めるように撫でる。
「気持ちいいか?」
自分で触るよりもずっと強い刺激に溺れかけながら、獏良は夢中でこくこくと頷いた。その証拠に透明な露が押茎の先端から滲んでいる。
バクラはその表情から悦びを感じ取ると、茎の根本の膨らみから延びる筋を辿った。会陰と呼ばれる部分の先には後孔がある。その周囲を丹念に揉む。
「えっ?!」
獏良は思わず困惑の声を上げた。知識としては知っていても、誰にも触られたことのない場所を暴かれては動揺せずにいられない。慌てて起き上がろうとさえする。
「落ち着け。悪いようにはしねえから」
バクラの声は低く穏やかで聞き心地が良い。子どもを宥めるような響きもある。獏良は自然と頷いていた。
「いい子だ。力は抜いてろよ」
くぷ。指が小さな窄まりに差し込まれる。中を柔やわと押し広げながら二本目。くぷくぷ。ゆっくりとした動きで慣らしていく。
「ふっ……ふぅ……ん」
獏良はその感触に驚いていた。二本も指が入ってしまったこともそうだが、バクラの手つきがとても優しいのだ。違和感はあれど痛みは感じない。これほど丁寧に扱われれば安堵さえ感じる。
三本目。すっかり柔らかくなった後孔は増えた指も何とか受け入れた。
「く、ふっ…………」
獏良は経験したことのない異物感に力が入りそうになるも、誰から教わることもなくシーツを握ることで耐える。口から息を吐き、内側で蠢く三本を締めつけないよう努める。ぎこちない行動だが効果はあった。若干苦しさはあっても痛くはない。

そんな健気な姿にバクラは喉を鳴らした。なんと愛らしいのだろうか。傷つけないように気を使うのは手間がかかることだが、その労力でさえ愛しい。
自分のモノになると自ら言ったのだ。
だから大切にしなくてはならない。一思いに手に入れることも可能だったのだ。しかし、そんなことをすれば多かれ少なかれ獏良は傷つく。心も身体も。
取り返しがつかなくなることは避けたかった。長い時を経て得たバクラの唯一なのだ。多少の我慢くらいどうということはない。三千年も待ったことがあるのだから、これくらい些細なことだ。
それにしても――。
バクラの刺激を受けて、滑らかな白い肌のあちらこちらがピンク色に染まり、所々が凝っている。身体が刺激を感じるとピクピクと揺れる。淫靡な光景に目が眩みそうだった。
獏良の足を持ち上げ、尻たぶを押し分けると、奥の窄まりが見えやすくなる。それどころか、硬く立ち上がった茎も、ピンと張った二つの粒も、恥じらう表情も一度に眺められて昂った。
「安心しろ。乱暴にはしない。大丈夫だ」
それを悟られないように平常心を装う。本当ならすぐにでもむしゃぶりついてしまいたい。しかし、獏良を怯えさせないように本心を見せるわけにはいかない。
己の分身を掴んで狙いを定める。先端を後孔に当て、ゆっくりと中へ押し進める。ずぶ。柔らかい内壁に包まれ、ぬるま湯に浸かったような心地良さに吐息が漏れる。
「んっ、んん…………」
誰も侵入したことのない場所がバクラの形に広がっていく。性的な快感からは遠いが自分のモノにしている、と達成感がある。すぐに動かしたいところだが、ある程度入ったところで止めた。
獏良は眉に皺を寄せて少し苦しげな表情をしている。抵抗したり嫌がったりする素振りは見られない。一物が馴染むまで待ってやる。
「大丈夫か?」
穏やかな声を作って問いかけると、獏良の目元が和らいだ。
「……うん」
「ゆっくりしてやるからな」
宣言通りに腰を徐々に動かしていく。手間がかかることだと思う。こんなことは他の誰であろうとしたくはない。相手が獏良だからしてやることだ。
ずっ、ずっ、ぐぷ。
バクラを受け入れ始めたのか、中が緩んで動きやすくなる。
「ん……ぁ……っん……」
その内に獏良の声に変化があった。甘い響きが混じり始めている。声だけではない。頬もほんのりピンク色に、整った顔に艶っぽさが滲み出ている。バクラの意識を釘づけにするには充分だった。

獏良は快楽の渦に戸惑っていた。何から何まで初めてなのだ。内側から湧き上がる熱も、勝手に口から出る媚びたような声も、どう対処していいか分からない。
「ぁあ……ぃや……ぁ」
無意識に助けを求めるように手が宙をさ迷った。すぐにバクラの手が伸びてしっかりと握りしめられる。
「落ち着け」
その温もりが獏良に安心感を与えた。約束通りにバクラはちゃんと気遣ってくれているのだ。手の柔らかな感触を頼りに経験したことのない感覚に身を委ねる。
「あっ、んっ、ああ、あ」
腰が更に持ち上げられ、太い雄の象徴が奥へと沈む。
「あ、あ、ヒッ、そこ、うっ、やぁ、ん」
抽送運動を繰り返す度に抵抗感が減って動きやすくなっていく。
ずぶ、ずぶ、ぐちゅ、ぐぷ、ずちゅ。
大きく足を開いた下半身に腰が打ちつけ、中を探り、押茎を入口近くまで抜く。
「あっ、ああ、んっ、はぁ、んん」
獏良が強く反応をする部分を見つけ、重点的に刺激する。バクラの額から汗の粒が流れ落ちる。
「もっ……と、もっと動いて、いいよ」
慣れない刺激に耐える獏良の目には涙を浮かんでいる。一物を受け入れるのに精一杯のはずなのに、笑みを浮かべてバクラを見上げる。
「……っ。気持ち良く、させて、やるからな」
バクラの下半身に血流が集まっていく。そこへキュウッと内壁が締めつける。
「ハッ、よく反応、しやがる、ッ」
抽送が速くなり、二人の肌がぶつかう合う。情欲に染まった声が獏良の口から何度も上がる。天井を向いた茎からパタパタと分泌液が溢れて下半身を汚す。
「ア、ァン、ア、も、だめ、だめェ……」
「フッ、はぁ、出すぞ」
内側から湧き上がる痺れに飲まれ、獏良の意識が飛びそうになる。
「あゥ、あああ、やあぁァ」
同時に後孔に包みこまれているものがビクビクと動き、中で熱い何かが広がる。
「ふぅ……ぁん」
反り立った先端から白い液が噴き出し、ヒクヒクと獏良の全身が痙攣した。
「はあ………………ぁ」
シーツに沈んで朦朧と荒い呼吸を繰り返していると唇を塞がれる。
「んむ……ん……」
汗が滲んだ肌が触れ合い、互いの熱をゆっくりと冷ましていく。二人は果てた後もしばらくそうしていた。

カーテンの隙間から漏れる光の眩しさに獏良は目を覚ました。
しばらくぼんやりと天井を眺めてから、ハッと目を見開く。昨晩の出来事が一度に甦ったのだ。布団の中で声にならない悲鳴を上げる。
行為が終わった後の記憶は曖昧で、夢と区別がつきにくくなっていた。断片的に残る記憶に間違いがないならば、後始末はバクラが済ませたはず。
獏良に着替えた記憶はないのに、しっかりとパジャマを着ているからその通りなのだろう。身体だってどこもかしこも綺麗だ。見た目だけは何もなかったようだが、身体に感じる所々の痛みが夢ではないと言っている。
——あああ……。
行為の最中も、終わってからも、どんな姿を晒してしまったのだろうか。獏良の頬に見る見る赤みが差していった。
布団の中で足をばたつかせていると、寝室のドアが開いた。
「起きたか」
早々と普段着に着替えたバクラが戸口に立っていた。
「お、おはよう」
視線を合わすことに難しさを覚えながら返事をすると、バクラはベッド脇まで歩み寄り、獏良の顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
「うん、ダイジョウブ」
笑顔を作ろうとしても浮かぶのは不自然に硬い表情。エヘヘと口角を無理やり持ち上げる。
「無理はすんなよ」
頬に口づけが一つ。髪をさらりと撫でられる。
「朝食は用意してある」
熟れた果実のように顔中を真っ赤にする獏良に、バクラは上機嫌に笑みを浮かべたのだった。

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※バクラはたくさん我慢をしていました。

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