両腕を天井に向けて真っ直ぐ伸ばし、そこから肩と腕が水平になるように振り下ろす。
水平の状態を保ったまま腰を限界まで捻る。右が終われば左。
肘を折り畳み、後ろに向かって肩を回す。後ろが終われば前。
最後にゆっくりと首を回す。時計回りと反時計回りに。
「んー……」
一通り首と肩のストレッチをしたところで、獏良の肩に乗った重りはまるで解消されなかった。
右肩に手を置くと、岩のように凝り固まった筋肉の感触が伝わる。
これは今日に始まったことではない。以前から肩も腰も悲鳴を上げていた。
全ては趣味が原因。
TRPGのシナリオを書き、フィギュアを作り、ジオラマを作り、ゲームをする。
ほとんど座ったまま行うものだ。それも長時間に渡る。
加えて、獏良の本業は学生。学生の本分は勉強だ。
平日も休日も机に向かっていることが自然と多くなる。
斯くして、獏良は十代の内から慢性的な肩凝りに悩まされていた。
「じじくせェなあ」
口出しをするのは、千年リングを介して肉体を共有しているバクラだ。
バクラは腕を組んで苛立たしげに片足を踏み鳴らす。
身体の故障はバクラにとっても不都合。
身体を動かせだの、栄養をもっと取れだの、まるで保護者のようにくどくどと獏良に口出しをしていた。
「普段から運動しないからだろ」
今日も例外なく、バクラの生活指導が始まった。
「全くお前は加減というものを知らねえ。ちっとは若者らしく外で遊んでこい」
際限なく続く説教に、獏良はうんざりと肩を落とす。
ここで余計な一言を口にしたり、反抗的な態度を見せたりすると、説教が長引いてしまう。
じっと黙って聞くのが正解だ。
椅子に座って両手を膝の上に行儀良く乗せ、バクラを上目遣いで見つめる。
言葉を続けている内に調子づいてしまったのか、組んだ腕の指先がピアノを奏でるようにリズミカルに踊っていた。
話の内容は最近の若者はだらしないというところまで飛躍している。
これは長くなりそうだと、獏良はぎゅうっと眉根を寄せた。
「――いくら便利な世の中になったっつてもな、義理と人情を……」
「あのー……」
そろそろと顔の横まで片手を上げると、腕組みをしたままで切れ長の目が獏良を見下ろす。
「なんだ」
「ちょっとだけ時間くれない?本当に肩が痛くて。湿布貼ってきたいんだけど」
バクラの首は横にも縦にも動かない。真意の見えない瞳が向けられるだけだ。
一向に返ってこない返事に、
「いいかな……?」
もう一度念を押すように獏良が問いかけた。
「分かった。オレ様がマッサージをしてやる」
「へっ?!」
やっと返ってきた返事は予想だにしないものだった。
過剰サービスにはご用心
「いいよ、マッサージなんて……」
機嫌を損ねたら困ると婉曲に断ろうとするも、そのような言い回しで引くようなバクラではない。
もごもごと曖昧な言葉を重ね、椅子に座ったままでいる獏良の肩を、バクラの両手が上から押さえ込む。
そうすると、いくら力がある者でも簡単には立てなくなってしまう。
獏良はこれから何をされるのかと、椅子の上で縮こまっていた。
バクラの手に力が入る。
親指は背中、残りの四本は肩の上。強張った筋肉に指をぐりぐりと押し込んでいく。
首周りから始まり、肩峰に向かってゆっくりと。
――あ。きもちいい。
力加減はほどよく、ツボを確実に捉えていて、痒いところに手が届いているようだった。
「痛くないか?」
「全然。気持ちいいよ」
肩峰に辿り着くと、今度は背骨に沿って親指で指圧をしながら下がっていく。
押される度に獏良の上半身がお辞儀をするようにぴょこぴょこと前へ突き出される。
腰に到達したところで、バクラは一層力を込めてツボを押す。
「マジでかってェな」
「はああ……きもちいい……」
凝り固まった箇所を念入りにほぐされ、筋肉が徐々に弛緩していく。
じんと広がるマッサージの心地良さに抗える者はいない。
「ふああ」
獏良もご多分に漏れず、包み隠さず素直な声を上げた。
目はとろんと、口は開けっ放しの、無防備な表情で。
か細く高い声が喉から絞り出される。
バクラの手が腰から離れ、再度肩に置かれた。
前のめりになっている獏良の身体を、椅子の背もたれまで引き寄せる。姿勢正しくなるように背筋をピンと伸ばされた。
「手、入れるぞ」
言うが早いか、許可を得ないままにシャツの襟口から中へ侵入する。
気が抜けていた獏良は、唐突な行動に目を白黒させた。
服の上から触られるのと、素肌に直接触れられるのでは、感触も意味も全く違ってくる。
やっぱりその気だったんじゃないかと身を強張らせた。
が、バクラの手は襟口の周りをうろうろするだけで、それ以上先へは進まなかった。
鎖骨周辺の窪みを弱い力で小刻みに押し始める。
円を描くように鎖骨と肩の付け根の間を押されると、ぴりぴりと痺れるような刺激が広がる。
「そこっ、きもちいい」
獏良は息を吐き出しながら、悲鳴にも似た声で訴えた。
「ずっと猫背になってるからこうなるんだよ」
バクラからの返答は無愛想なものだったが、それでも獏良の要求に応じていた。
「こんなにマッサージが上手いなんて、僕知らなかったよ」
獏良の全身からは力がすっかり抜け切っていた。
表情筋も締まりなく緩み、口角や目尻など垂れ下がっている。
「足もほぐしてやるから、ベッドに横になれ。うつ伏せな」
「うん」
マッサージ中も今も、疑いを口にすることも躊躇われるほどに、バクラは真面目な顔つきをしたままだ。
獏良は余計なことは言わずに指図に従うことにした。
ベッドに横になり、腕枕を作って顎を乗せる。
バクラもベッドに上がり、獏良の身体を跨いで座る。
ギシギシとベッドが軋む音を立てた。
「痛かったら言えよ」
今度は指だけの力でなく、バクラの体重も乗せられる。
より強い力で獏良の身体が押されていく。
「あっ……そこ。うん……」
寝転がって思う存分マッサージを受けるなんて、天国にいるような気分だ。
こんなに上手いのなら、もっと早くやってもらえば良かった。
毎日やってもらえないだろうか。
獏良はうっとりとバクラに身を任せ、そんなことを考えていた。
腰をぐいぐいと押されているところで、
「下、少しずらすぞ」
バクラの声が上からかかる。
「え?」
何を?と聞き返す前に、ジーンズのウエスト部分をずるりと下げられた。
下げられたといっても、ほんの数センチ。
少しだけ腰が露出しただけだ。慌てることはない。
現に手つきは変わらず、色を感じさせることもなく、腰周りを揉みほぐしている。
シャツの裾から中に手を入れて丹念に。
腰の後は太ももに進んだ。
上からパンでも捏ねるようにぎゅうぎゅうと押される。
太ももからふくらはぎへ、ふくらはぎから足首へ。足の裏や指の先まで余すことなく。
「宿主」
「はぁい」
獏良は目を瞑ってマッサージを堪能していた。
「シャツ脱げるか?」
――脱げ?
突然降って湧いた問いかけに、獏良は返事を見失う。
「服の上からだとやりづらい」
続く言葉に理解が追いついた。
布の抵抗がない方が揉みやすい。それに直接の方が効果はあるはず。当たり前のこと。
僅かな間でも言葉の意味を取り違えてしまったことを獏良は恥じる。
「うん、待ってね」
誤解してしまったことを悟られないよう努めて冷静に言葉を返した。
一度起き上がり、バクラに背を向けてシャツを脱いだ。
折り畳んだシャツはベッドの隅に置く。
脱ぐ前と同じ体勢で剥き出しの背中をバクラに晒した。
眩しいほど色素の薄い肌。肉付きは少なく、肩甲骨がくっきりと浮かび、中央には真っ直ぐ縦に薄い線が走っている。
ぺたりとバクラの両手が腰を掴む。
細い。触るだけですぐ上の肋骨の存在が確認できてしまう。
バクラはそれを態度には出さずに指圧を再開した。
獏良の身体はどこもかしこも弛緩していて、すっかり気を許しているようだった。
背中に肘を押し当ててツボを刺激してやると、不明瞭な言葉を発して身震いをする。
その声が「何か」を連想させることに本人は気づいていない。
「今度は仰向けになれ」
獏良は大人しく寝転んだままで身体をごろりと回転させた。
上に跨がっているバクラと初めて視線がかち合う。
ベッドで仰向けになる裸の自分。それを上から見下ろすバクラ。
よく知っている光景だった。考えるまでもない。
見る見るうちに獏良の顔の温度が上昇していく。
これはただのマッサージなのだから、「そんなこと」を考えるのはおかしい。
余計なことを頭から閉め出そうとすればするだけ、情事の記憶が引き出されてしまう。
それまでは肌を晒してもなんとも思わなかった。今になって裸でいることが急激に恥ずかしくなってくる。
脱いだシャツを求め、ベッドの上を泳ぐように手を伸ばす。
しかし、辿り着く前にバクラに両腕を押さえられてしまった。
「動いたらできないだろうが」
「でも……」
動揺する獏良に対して、バクラは落ち着き払っていた。
まるで躾の悪い子供を嗜めるような口ぶりだった。
「腕はこうしてろ」
腕が身体の脇で真っ直ぐになるように固定される。
「うん……」
次にバクラの手が向かった先は、鎖骨のすぐ下――大胸筋だった。
華奢な体型がゆえに凹凸の少ない獏良の肉体の中で、ほんのりと盛り上がっている胸部。
陶器のように滑らかで毛穴すら目立たない。
その一番高い場所には、二つの小さな粒が実っている。
手のひらが置かれたのは上部のみ。上から優しく胸を押さえられる。
手に吸いつくほど柔らかい肌が沈む。
胸部を何事なく通りすぎて脇の下へ。
脇の窪みを指先で押されていく。
胸の周りを圧迫するのみで、先端はもちろん緩やかな膨らみには触れられない。
獏良はそれを少し残念に思ってしまった。
すぐに気持ちを切り替え、はしたないとそっと自分を諌める。
それも仕方がないことなのだ。昨日は獣のように責め立てられた。
小さな胸になる実は形が変わってしまうかと思うほどに摘ままれ、舌の上で転がされた。
口で拒めば拒むほど、バクラの愛撫は強まった。
拒絶の言葉が肯定の意味に変わっても止まらなかった。
やっと解放されたときには、すっかり充血して大きさも硬さも増していた。
女にされてしまったようで屈辱的だった。しかし、その内側では征服される悦びが目覚めつつあった。
今日の行為は昨日とは違うのだと、ひたすら自分に言い聞かせる。
昨日のことを迂闊に思い出せば、身体が反応してしまいそうだった。
獏良の葛藤をよそに、バクラは胸の下部を揉んでいた。
四本の指は脇に親指は胸に沿えて。下から上へ持ち上げるように。
薄い胸の肉が寄せ集められ、押される度に小山を作る。
膨らみが強調されるようで、揉まれている方はたまったものではない。
獏良はその様子を見ることも、バクラと目を合わせることもできずに目を背けた。
バクラの視線がどこにあるかを想像して恥ずかしさに耐える。
胸が動かされる度に突起も上下しているはず。考えただけでも卑猥な光景だ。
意識してしまったら、きっと触って欲しくなってしまう。
獏良はひたすら夕飯のメニューを考えることにした。
豚肉が少し残っているから豚汁にして、和食にするなら焼き魚がいいかな、などと。
努力の甲斐があってか、バクラの手は胸を離れて脇腹に向かっていった。
ほっとしたのも束の間、脇腹に与えられる新たな刺激が獏良を悩ませる。
バクラは手のひら全体を使って脇腹を擦り始めたのだが、くすぐったさに混じってぞわぞわと背中を這い上がってくる快感があった。
反応してはダメだと思えば思うほど追い詰められる。
下唇を小さく噛んで声を殺す。少しでも声を漏らせばバレてしまう。
するりするりと脇腹をバクラの手が容赦なく滑る。
――ほうれん草があったはずだから……ゴマ和え。ゴマ和えを作る。それで……ああっ……お砂糖買いに……行かないと……。お砂糖を……。
思考が快楽の波に飲まれて混濁していく。
「お砂糖をお砂糖が」と何度も心の中で繰り返す。そこから一歩も動けなくなってしまっていた。
「なあ、宿主。下も脱がせていいよな?」
まともに思考ができない状態で律儀に尋ねられたところで判断がつかない。
目の前のこそばゆい感覚とそこから生じる快楽から逃れることしか考えられなくなってしまっている。
脇腹から手が離れるのなら、なんだって構わないと思ってしまう。
だから、首を縦に振った。
流れに任せてしまうのが一番楽だから。
もし、「脱がせたらダメか?」と聞かれたら、同じように首を縦に振って、踏み留まることができたのかもしれない。
獏良の耳にジーというチャックを下ろす音が聞こえ、腰周りが解放される。
ずるずるとジーンズが足から引き抜かれていく。
マッサージで温まった身体に冷たい外気が触れる気持ち良さを味わう。
バクラは唯一残された下着の上から、股関節周りを擦り始めた。
その上の部位には一切触れない。
触らずとも皮膚は繋がっている。微かな振動が上まで伝わる。
下着の中まで熱を持ち始めてしまいそうだった。
「足上げろ」
「こう……?」
バクラが言わんとしていることが分からずに、獏良は自分の思いつく限りで両膝を立てる。
膝の下にバクラの手が差し込まれた。
そのまま獏良の身体に向かって足が倒される。
足を開いたままに腰が宙に浮く。恥部を曝け出す体勢。
下着を穿いたままとはいえ、さすがに呆けてはいられない。
「これはちょっと……」
手はそのままの位置で、上から体重をかけられる。
体勢に問題はあるが、股関節と太ももに加えられる刺激は、マッサージとしては真っ当なもの。
獏良が言葉の続きを言い淀んでいると、
「なんだ?」
バクラに先を促される。その間も太ももに圧力を加えられていた。
自分の口から意識してしまっていることを明らかにするのは決まりが悪い。
「……なんでもない」
当たり障りない言い方が見つからず、結局は口を噤んでしまった。
下着は細身のボクサータイプ。
この体勢では太ももから男性特有の盛り上がりが見えてしまうのではないか。
「じゃあ、もう少しいけるな」
バクラはさらに体重をかけて、獏良の身体をゆりかごのように揺らした。
浮かされた獏良の尻とバクラの股関が触れ合うする。
人間の性行為の中で最も一般的な体勢を彷彿とさせた。
しかも、同性間でも無理なく行える形だ。
獏良もそれは経験済みのこと。
もはや下着を履いているかいないかの違いだけだ。
バクラが気づいていないはずがない。
しかし、尻に当たる股間の感触は大人しい。
――僕のこんな姿を見ても、何も反応しないの……?
普段は逃げる獏良の尻や股間に無理やり押しつけられる熱を持った凶器。
熱くて硬い一物で何度も股間を圧迫されれば、悲しい男の性で反応してしまう。
そうなってしまったらバクラの思うツボ。
合意を得たと言わんばかりに性行為に持ち込まれてしまう。
経験の差でバクラに抗う手立てなどない。
今日は全身を触られているものの、一度も性的部位には触れられていない。
この接触は不可抗力といえる範囲。
第一にバクラの下腹部は無反応だ。
――えっちなのは僕の方なの?
気を散らさなければ、獏良の一物は即座に起き上がってしまいそうだった。
いっそのこと、前後不覚になるほどにいたぶられた方が楽。
中途半端に刺激を与えられたまま過ごす方が辛い。
全身はすっかりほぐされ、火照っている。
もし、くすぶった身体の熱を放置されたままに、終わりと言われてしまったら……。
獏良の唇が躊躇いがちに薄く開く。
しかし、声は出なかった。口を空しく開閉させるだけ。
バクラは足から手を放し、上体を前に倒しつつ、獏良の下胸をしかと押さえた。
無言の視線が獏良の身体に降り注がれる。
獏良はその視線に応えるようにバクラの顔を見上げた。
久方ぶりに思える顔。唇は真っ直ぐ横に引かれている。夕日よりも赤々と燃える瞳は、一切の濁りなく獏良を見つめている。
獏良の心情とは正反対の静けさを持っていた。
無防備な裸体を前にしてもこの表情。
――やっぱり、その気ないんだ……。
下から胸を押圧される度に突起も上下する。
そのすぐ先に触れて欲しいものがあるのに。
いつの間にか、獏良の中で劣情の火が灯っていた。
この疼きを早く治めて欲しい。いつものように。
「お願い……ち……先っぽも触って……」
堪えていた熱い息を伴って口から滑り出た声は、自分でも驚くほどに甘ったるかった。
「わかった」
下胸を押さえていた手のうち、人差し指と親指が上に伸びる。
白い肌の上に浮かぶ淡い桜色の小さな粒を挟んだ。
「アッ……」
待ち焦がれていた刺激に、やや大袈裟ともいえるほどに身体がビクついた。
快楽のスイッチとして覚えてしまっている小粒を両脇からクニクニと摘ままれる。
たちまち硬さを帯び、小さいながらもぴんと健気に天井を向く。
「ここも凝ってるな。ようくほぐさないとなァ」
「んっ……ほぐして……」
先端を人差し指でぴぴぴと素早く弾かれ、上から押し潰される。
刺激が加えられる度に小さく喘ぐ。
獏良の全神経が小さな先端に集まってしまったようだった。
「全然ほぐれねえぞ。どんどん硬くなりやがる」
自分の淫らな部分を真っ向から指摘されて獏良の頬に赤みが注す。
丁寧に全身を撫でられたことで、些細な刺激にも反応しやすくなっていた。
身体をほぐすということは、副交感神経を刺激するということ。
それは性的反応がしやすくなることにも繋がる。
知らず知らずのうちに欲情の渦へ導かれていたのだ。
もちろん、獏良本人は気づいていない。
下着の内側にも熱がこもり、布地を押し上げていた。
服を脱いでしまっている中でそこだけが異質。
恐らく、欲の塊から漏れた液体で濡れてしまっているだろう。
そんな下着を身につけたままでは恥ずかしい。全て脱いでスッキリしてしまいたい。
いったん欲を口にしてしまったからには、制するものは何もなかった。
「下着脱がせて」
「なんだ、今日はやけにおねだりが多いじゃねえか。ま、いいけどよ」
バクラは喉を鳴らして笑った。唇が横に広がり、冷たいとも取れる表情が和らぐ。
下着に手をかけて、
「お前、分かってんだよな?ただのマッサージじゃなくなくなるんだぜ」
念のための意思確認を行う。
こくりと獏良は小さく頷いた。
最後の砦ともいうべき一枚が、折り畳まれた足からいとも簡単に引き抜かれる。
ぱさりと音を立てて床に落とされた。最後にしては呆気ないものだった。
「おーおー、可愛く反応してくれてんのな」
バクラは既に濡れそぼった先端を指でつついた。
獏良の腰が魚のように跳ねる。反応は上々。
「さ、再開といきますかね」
ぺろりと舌を舐めて待ち切れないと言わんばかりに獏良に覆い被さる。ベッドが大きく軋んだ。
そんなバクラの胸にそろりと獏良の手が伸びる。「待って」と制止の声がかかった。
続いて獏良は真っ赤でおずおずと切り出した。
「もう一つお願いしてもいい?」
「なんだよ?」
少しの間だけ視線がさ迷い、唇が震える。
そして、聞き逃してしまいそうなくらい小さな声で紡いだ。
「僕だけじゃ恥ずかしいから……君も脱いで……」
恋人からおねだりにバクラの頬が綻ぶ。なんとも可愛いげのある初々しいおねだりではないか。
「そういうことなら、いくらでも聞いてやるぜ」
獏良の上には、全く同じ形の身体が覆い被さっていた。
同じ肉体を持つはずなのに、獏良の目からは白い髪も肌も息を呑むほどに美しく見えた。
身体の使い方が違うからだろうか。手や足が動くと別人のように印象が変わる。
――僕らは同じでも違う。
それは心の中も同様だ。
いくら同じ姿をしていても、言葉を交わしてみなければ、肌に触れてみなければ、お互いの気持ちは分からない。
友人からの噂話や教科書でしか性行為について知らなかったときには考えもしなかった。
不潔なものだと嫌悪をしていた時期も少なからずあった。
肌を通して言葉では伝えきれない想いを伝える。
ただ共に過ごしているだけでは分からない相手のことを知る。
何気ない癖や細かい動作も。
肌を重ねる度に新しい発見がある。
バクラはぷっくりと勃起した乳首に吸いつき、右手で獏良の性器を扱いた。
いささか性急な愛撫だが、お互いそうせざるをえない状況だった。
自分の欲を隠すことをやめたバクラの一物は、猛々しくそそり立っていた。
獏良の方は一つ一つの刺激に対して身体をビクビクと震わせて応える。声を抑えて恥じらう余裕もない。
じっくりと時間をかけて身体をほぐした甲斐があったというもの。
獏良の瞳は欲情の色に染まっていた。
「あっ……んっん……それイイっ!」
ベッドの上で手足をばたつかせる。
お互いの粘液がしとしとと下腹部を濡らしていく。
びくびくと獏良の足が痙攣し始めた。
熱を持った欲の象徴の下にある膨らみがせり上がる。
バクラは手の動きを早めて、それを促してやった。
腰を突き出して身悶える獏良に対し、悪戯心がバクラの中に沸き上がる。
性器から手を離さずに、左手で肩を掴んで跳ねる身体をベッドに押さえつけた。
「あっ!」
それまで手足を動かすことで発散させていた快感が行き場を失う。身体の中を駆け上がり、口から歓喜の声となって溢れ出した。
「はぁ……んッ、ああああっ、んぅ……ひぃん、やだやだやだァ……アァアアッ……」
半狂乱で唯一自由に動かせる頭を揺らす。
受け止めきれない刺激に頭の中で何かが弾けた。
バクラに握られた陰茎がビクビクと震え、先端から生暖かい粘液がぴゅるぴゅると放出された。
「ん、んんぅっ……」
二人の身体に白濁の飛沫がぱたぱたとかかる。
くたりと獏良の全身から力が抜け、荒い呼吸に合わせて胸が上下するだけになった。
バクラはようやく肩から手を放し、汗と涙で濡れた頬に口づけた。
「よかったぜ。お前の乱れっぷり」
「ばか……」
獏良の太ももにはバクラの強張りが当たっている。
まだ後孔には触れられていない。
バクラはキスの雨を降らせるばかりで、その先に進もうとはしない。
いまだに熱を持って、ぐいぐいと太ももに擦りつけてくるのだから、その気がなくなったというわけではないはず。
「さ、最後までしないの?」
自分ばかりが達してしまった。同性としてその切なさがわかるだけに、獏良の中に罪悪感が生まれていた。
「ん?ナカまで『マッサージ』されたいのかよ」
バクラの手が尻をさわさわと撫で回す。
「ひゃ、ん。ば、ばか!」
抵抗する余力は獏良にはなく、口だけで応戦するしかない。しかし、身体はまだ敏感なままで、ピクリピクリと反応してしまっていた。
「掻き回したいのは山々だが、昨日ヤッたばっかだろ」
対する答えは当然といった口振りだった。
――あ……。
不意打ちの優しさに獏良の胸がどきりと踊る。
反則だと思う。自分で頼んだものの、好き勝手に身体を弄られ乱されて。終わった後に気遣われたのでは、文句が言えなくなってしまう。
それまでの過程がどうであれ、優しい言葉を吐かれて腕に包まれるだけで全てが帳消しだ。
「それに」
力を失った性器に、はち切れんばかりに膨張した凶器が押し当てられる。
「ひッ!」
「やり方はいくらでもある」
ねっとりと粘液が糸を引いて絡みつく。火傷しそうなほどの熱さと釘でも打てそうな硬さを感じた。同じ男でも腰が引けるほどの強張り。
――こんなところまで違わなくていいのにッ!!
「お手柔らかにお願いします……」
「善処する」
それから、ほっそりした内股と柔らかい膨らみで、熱く滾った肉棒をしっかりと受け止め続けた。
「たまにはこういうのもいいだろ?」
バクラに力一杯抱きしめられながら、過剰なサービスには今度から気をつけなきゃと、獏良は心に固く誓ったのだった。
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色々な技を駆使して持ち込むバクラさんでした。