ばかうけ

※「もし、バクラが原作終了後に戻ってきたら」という捏造設定になっています。
原作の世界観を壊されたくない方は、申し訳ありませんがブラウザバックをお願いします。


獏良は思い詰めた表情でベッドの上に腰をかけていた。
爪先で床をとんとんと弾く。
しばらく、その状態が続き、深い溜息が一つ漏れた。
首をベッドの頭側へ少しだけ回し、視線を投げかける。
ベッドの端――ヘッドボードには小さな引き出し棚がついている。
上には時計や小型照明、ティッシュなどが並んでおり、就寝時には携帯を置くようにしている。
獏良は手を伸ばし、引き出しを開けた。
わざわざ見なくても中身は分かっている。
引出しの中には小さな紙製の箱とプラスチックのボトル。
これが悩ましげな溜息の理由だ。

アテムとの闘いを終えたバクラが現世に戻ってきてからしばらく経つ。
バクラは普通の人間として肉体を持って獏良の元に帰ってきた。
始めの頃こそ二人とも新生活に戸惑っていた。
肉体的にも精神的にも向き合うことなど、今までありえなかったからだ。
ゆっくり少しずつ二人きりの生活に慣れていき、ぎこちないながらも二人の歯車が噛み合い始め、今では家事の分担まで阿吽の呼吸だ。
それに連れて二人の関係も変化していった。
千年リングという強固な結びつきの元に出会った二人。離れようとしても離れられなかった。獏良が離れようとすればするほど、バクラは蜘蛛が獲物を絡め取るように獏良を求めた。

すべてが過去の出来事になり、やっと再会できた二人がベッドを共にするようになったのはとても自然なこと。
初めての夜、獏良は身を固くしてベッドに横たわっていた。
バクラは全身を愛撫し、丁寧に獏良の身体を解していった。
もっと性急に求められると思っていた獏良は、予想外の優しさに目に涙を浮かべてバクラを受け入れた。
翌朝に寝惚けたまま抱き枕と間違えて隣に寝ていたバクラに抱きついてしまっても、本人は軽く笑って額におはようのキスをした返した。
顔を真っ赤にして恥ずかしがる獏良をバクラは布団ごと力いっぱい抱きしめて戯れた。
その日は昼近くまでベッドの中でずっとべたべたと触れ合っていた。
思い出しても幸せな時間だ。

しかし、現実は幸せばかりが続くものではない。
どんなに仲の良い人間でも四六時中共にいれば必ず意見は分かれる。
ベッドの上で何度も求めるバクラに対し、獏良は拒否をした。
獏良の方は性に目覚めたばかり。快楽が苦痛になることも多かった。
我を忘れて快楽に溺れることに恐怖を感じた。
タガが外れたように求められていると、心を置き去りにされているようにも感じた。
それでも、触れられると刺激に抗えず身体を開いてしまう。
快楽と理性の間で戸惑った獏良は、性交を拒絶するという行動を取ってしまった。

――君はいつもいつも自分本位だ!エッチばかりで少しも僕のことを考えてないじゃないかっ。

心から嫌だと思ったことはないのに。
新生活が始まってからは、やや強引ではあるものの、バクラが無理やりに抱こうとしたことはなかった。
以前に比べれば、格段に獏良の身体を大事に扱うようになった。
つまり、二人の問題をバクラだけに押しつけてしまったのだ。
バクラは一瞬だけムッとした顔つきになり、
「そうかよ」
と一言だけ口にして背を向けて寝てしまった。
すぐに獏良の胸に後悔の波が押し寄せた。
まずは話し合えば良かった。子どもじみたヒステリーを起こすのではなく。
翌日から夜の誘いはなくなった。
冷戦状態ということではない。喧嘩にもならなかった。
バクラは何事もなかったように獏良に接した。
獏良を責めることなく、普段と変わらずに話しかける。ムッとしたのは最初だけで、嫌な顔一つしない。
この件に関しては、バクラの方がずっと大人な対応をしたのだ。
ますます獏良は後ろ暗い気持ちになってしまった。
そして、運の悪いことに、バクラの仕事が忙しい時期に入ってしまった。
帰宅時間が遅くなり、夕飯を共に取ることも少なくなった。
たまに休みの日があったとしても平日で、まだ学生の身である獏良と完全に擦れ違い生活になってしまった。
二人の寝室は分かれている。最近は獏良の部屋で共に夜を過ごすことが多かった。部屋が別々であることを感じられないほどだった。
触れ合いがなくなれば自然と一人寝になる。
二人では窮屈だったベッドがとてつもなく狭く思えて涙を流す日もあった。
変わりなく過ごしているバクラの顔を前にすると、謝りたくても上手く言葉が出てこない。
もしかしたら、気まずい思いをしているのは自分だけなのかと思い悩んだ。
そうこうしている間に一ヶ月。
手も触れることなく、あっという間に時が過ぎてしまった。

獏良は引出しの中の二つを無言で見つめた。
――このまま倦怠期?イヤだよ……。せっかく二人で幸せになれると思ったのに。
小さな紙製の箱の中にはゴム製品、ボトルの中身は潤滑剤。
どちらもバクラが購入したもの。
購入も使用もバクラに任せきりだった。
獏良は同年代の男子に比べて性の知識に乏しかった。
友人同士で盛り上がる猥談にも加わってこなかった。
恋愛に一切興味がなかったせいだが、今はそれが悔やまれる。
未知の世界に獏良が目を白黒させていると、バクラはなんとも嬉しげに任せろと言うものだから、言葉通りにただ頷いた。
行為も責任も、何から何まで相手に押しつけるのは良くないことだと、今さらながら痛感していた。
力いっぱい跳ね除けておいて、どうやって頭を下げればいいのだ。どの面下げて誘えばいいのだ。
獏良は力なくボトルと箱を取り出した。
――あ。
箱が妙に軽かった。ボトルの方は中に粘液が詰まっていると分かる手応えがあるというのに。
蓋を開けて中身を確認した。
あるはずのアルミ袋が一枚も入っていない。
バクラはこれに気づいているのだろうか。
抜かりのないバクラなら気づいていれば新しく買い足していそうなものだが、引出しの中には他に見当たらない。
ここ一ヶ月の忙しさを思えば、中身のことなど気にする余裕もないのかもしれない。
もし、バクラがその気になっても、肝心の避妊具がない。
精一杯謝罪してめでたく仲直りができて、服を脱いだところで最後までできない。
一ヶ月も身体を合わせていないのにお預けになったら、もう二度とチャンスがやって来ないような気がした。
消極的なふりをして避妊具の管理にも無関心だったことにやっと気づいた。
このままではいけないと、獏良はこくんと唾を飲み込んだ。
チャンスは自分の手で掴むものなのだ。

獏良が訪れたのは最寄の駅から二駅先のドラッグストアだった。
もちろん、避妊具を買うためだ。
知り合いに見られたくはないので、生活圏外にある店を選んだ。
隣駅では心許なく、結果として選んだのは降りたことのないさらに隣の駅。
不慣れ場所で道に迷うのは避けたい。大きめのドラッグストアがあるのは調査済み。
悪いことをするわけではない。ただの客として訪れただけだ。
それなのに、獏良の心臓はばくばくと鳴っていた。
短い人生の中で避妊具など買おうとしたこともなかった。たった一度だけ保健体育の授業で一枚渡されただけ。
それも机の中にしまい、転校続きの中で紛失してしまった。
近所のコンビニやドラッグストアの売場も把握していない。
バクラは何処で買っていたのかも知らない。
――さっと買って出ればいいだけだから。恥ずかしいのは一瞬だけ……。
獏良は意を決して自動ドアの前に立った。
店内には獏良の背より高い陳列棚が等間隔に並んでいた。
この店は医薬品や日用品だけではなく、飲料や食品も幅広く扱っている。生鮮食品まであるのだから、周辺住民がスーパー代わりに利用しているのだろう。
天井から下がる案内を頼りに目標物を探した。
同じ通路を足早に行ったり来たりして、ようやく目星をつけていた医薬品コーナーではなく美容品コーナーの隣に陳列されているのを見つけた。
あまりに見当たらないので、生理用品コーナー近くなのではと、これまた未知の世界へと足を踏み入れてしまった。
すぐに買って出るはずが見つけるまでに数分。既に精神的疲労が濃い。
メインの広い通路から棚と棚の間にある狭い通路に入る。
これで、ようやく手に入れられると棚に寄ったところで、
――え……?!
目の前の光景に獏良は愕然と足を止めた。
間違いなく避妊具コーナーではあった。
背の高い棚、二台分。
棚いっぱいにずらりと並ぶパッケージ。
これがスポンジ材か塗料なら目を輝かせるところだが、行儀良く整列する見慣れない物体に目を回しそうだった。
――こんなにあるの?
精々棚の一列か二列ほどしかないと思っていたのだ。
背を向けてしまいたい気持ちを抑え、獏良は家にある避妊具と同じものを探し始めた。
目の高さより上にある列から足元にある列まで一つ一つ丁寧に見ていく。
下まで見終わったら隣の棚へ。
――ない……。
圧倒されるほど種類が揃っているのに、同じものがなかった。
似たものを買えば済む話だと、家にあるパッケージをより事細かに思い出そうとした。
しかし、重なる予想外の出来事に集中力を欠いた状態ではどうしても出てこない。正式な商品名もメーカー名も。
すぐに終わる買い物だと高を括ってメモを取らずに家を出てきてしまったのだ。
避妊具の箱と睨めっこをすることに抵抗もあった。
こうして避妊具売り場に立っているだけで、どうしようもない焦燥感と羞恥心に苛まれる。
『あの人あんなとこで何やってるんだろう』『さっきからずっとあそこにいるわよ』『見かけによらないわね』
ありもしない第三者の声が聞こえてくるようだった。
恥ずかしい。今すぐ店を出たい。
どうにか心を落ち着かせ、並ぶパッケージ群に改めて目をやった。
簡素なものから女性が好きそうな可愛いデザインのものや箔押しの派手なものまである。
さらに箱を凝視する。
大半のパッケージには、数字が大きく書かれている。これは厚さだろう。
――あんまり薄いと破けちゃうのかな……。でも、薄い方が……バクラの、感じられるかも……。
獏良は自分の思考に顔が熱くなっていくのを感じた。
――やだ、僕ってば何を考えてるんだ。
慌てて頭を振って意識を戻す。
油断するとベッドでの吐息や体温を思い出してしまいそうだ。
パッケージの表に書かれているのは、それぞれの特徴だ。売り文句が書かれているのは普通の生活雑貨と変わらない。
ゼリー付き、やわらか、フィット、におわない――。
何となく意味が分かるものから、想像もつかない言葉も記載されている。
――つぶつぶ??
獏良の頭に果肉入りのジュースが浮かんだ。
イチゴやメロン、チョコと書かれているものもある。
つぶつぶという文字とその食品名が頭の中で結びつき、余計に疑問が生まれる。
さらにホットという文字に目が留まった。
脳内で果肉入りのジュースが自動販売機の中に収まった。価格の下に「あったか~い」と表記されている。
――冷たいのとあったかいのがあるの??
それらの言葉が避妊具と何の関係あるのか、獏良にはまったく想像がつかなかった。
しかし、白旗を掲げる選択肢はない。
絶対にこの中から一つ選ばなくてはならないのだ。
冷や汗を垂らしながら悩んだ結果、獏良は一番簡素なパッケージを掴み、レジへ持っていった。
脳の容量が限界に達し、購入している間のことは記憶から消えた。
通常のレジ袋ではなく、黒のレジ袋に購入品を入れてもらえたことだけが救いだった。
言葉に表せない疲労感に包まれて獏良は帰宅した。

バクラから「七時に帰宅する」とメールが入り、獏良は予定通りに夕食の準備をし始めた。
ここ一ヶ月は日付が変わってから帰宅することもあった。
ようやく繁忙期を抜けたのだ。
野菜を包丁で刻みながら、どうやってバクラを誘ったらいいか思考を巡らせた。
今までは何もしなくとも、向こうから誘ってきた。
身体を寄せてじっと見つめるだけで、すぐに抱きしめられた。今日はそうはいかない。
温めたフライパンに野菜を入れて炒め始める。
バクラは怒らないだろうか、呆れないだろうか。
今さら何を言ってるのだと言い返されたら、どうすればいいのだろうか。
調味料を加えて、野菜と混ぜ合わせる。
様々な言葉が浮かんだが、まずはあの日のことをきちんと謝ろうと再度思い直した。
バクラが帰宅したのは、その二十分後だった。
「お帰り」
ご飯は炊けている。おかずもできている。ぴったり時間通りだ。
獏良はキッチンカウンター越しにリビングに現れたバクラに声をかけた。
「ご飯できてるから、すぐよそうね」
少なくともバクラは不機嫌そうではなかった。
獏良の言葉に素直に頷き、リビングから自部屋に戻っていく。
これが不機嫌であれば、額に青筋を立てて無言で帰宅する。
獏良に当たり散らすことはしないが、話しかけづらくなってしまう。
いつもそういう時は、仕事をしていれば色々と腹も立つこともあるだろうと、そっとしておくことにしている。
やはり仲直りするなら今日しかないと、獏良はしゃもじ片手に自分自身に渇を入れた。
「おっ」
部屋着に着替えたバクラは食卓を目にし、赤の他人では気づかない程度に口元を緩めた。
「今日は酢豚だよ」
取り分けた皿にはタレが肉や色鮮やかな野菜に絡んでつやつやと照りが出ている酢豚。食欲がそそる甘酸っぱい香りが湯気と共に立ち上がる。
大きめの角切り肉を惜しむことなく使い、野菜もたくさん入れてある。
合わせて焼き目をつけた山芋とキュウリと春雨の中華風サラダ、わかめスープも用意した。
「山芋」は露骨だったかもしれないと、獏良の頬がポッと赤くなった。
適当なバラエティ番組を流しつつ、二人は食事を始めた。
「豚肉よく揚がってるな。美味い」
「ありがとう。成功だね」
豚肉を齧ると耳触りの良い音と共に肉汁が口の中に溢れる。
白いご飯によく合う。さっぱり味のスープもいい口直しになる。
話題は今日の互いの報告に移り、談笑しているうちにあっという間に皿は空になった。
獏良は緑茶をバクラの湯飲みに注ぎ、空の皿を重ねていった。
食卓が綺麗になったところで、
「あの……」
おずおずと話を切り出す。
「覚えてる?僕、君に酷いこと言った。その……自分勝手だって。僕のこと考えてくれないって」
「ああ」
バクラはあっさりと首を縦に振った。
獏良が思っていたよりもずっと自然な反応で、緊張感が少し和らいだ。
「あれから色々考えて、本当に申し訳ないことを言ったと思ったんだ。ごめんなさい。あんなこと言うつもりなかったんだ。……君としたくないなんてこと、ないから……」
「別に改めて謝る必要ねえよ」
バクラは首の後ろに手を置き、落ち着いた調子で答えた。
「まー、お前に言われて少し控えようと思ったことは確かだが。オレも止められなかったっつーか……。ここ一ヶ月構ってやれなくて悪かったな。不安にさせちまったか」
すべてから解放され、獏良と共に暮らすようになり、バクラはとても満たされていた。
手を伸ばせば触れ合えるようになった幸福感は、ただの人間では絶対に得られないだろう。
この世で唯一無二の存在をやっと手に入れられたのだ。
湧き上がる情欲を抑えきれず、がむしゃらに求めてしまった。
色恋沙汰に疎い獏良が逃げ腰になるのも無理はない。
バクラは互いの気持ちが落ち着くまで時間を置くことにしたのだ。
その後すぐに仕事に追われたのは計算外だった。
「謝らないで」
獏良はテーブルの上で組んだ手の指をぐるぐると回した。
「僕ね……僕もね、君としたい。ずっと言いたかったんだ」
落ち着きなく視線を動かし、やがてバクラの目を見つめた。
「今日は君の好きなこと、なんでもしていいよ」

夕食の片付けや風呂を終えた後、二人とも寝間着に着替えてベッドに腰を掛けた。
獏良の発言からバクラはずっと上機嫌で、風呂場から鼻歌が聞こえてくるほどだった。
それほど喜んでもらえるとは思わず、気持ちを伝えて良かったと獏良の不安はすべて払拭された。
部屋の電気を消し、ヘッドボードの上のライトを点ける。
バクラが獏良の肩を抱き寄せ、唇に優しく触れた。
軽くつつき、隙間から舌を差し入れ、頬肉や上顎の感触を丁寧に確かめる。
獏良もぎこちなく舌の動きを追う。
最初は遠慮がちだった両者だが、唇を合わせているうちに夢中になって舌を絡ませた。
唇の合間から漏れる二人の息遣いが徐々に荒くなっていく。
抱き合ったままベッドに横になり、愛撫は唇だけに留まらず、全身へと移っていった。
獏良のパジャマのボタンを上から一つ一つ外していき、中へと滑り込んだバクラの手がパジャマの下で胸や腹をまさぐる。
「ん……っ」
獏良は身動ぎながら、甘えたような声を小さく発し始めていた。
全身を撫でられるだけで身体が熱くなる。
既に下半身にも血液が集まっているようだった。
いつもこうしているうちに快楽の波に飲まれて前後不覚に陥ってしまう。
そうなると、されるがままに身を委ねるだけ。
獏良は手をそろそろとバクラのズボンに伸ばした。
あちこちと探っていると、硬いものが手に当たった。
ズボンの上からでもはっきりと形が分かる。
――硬くなってる。僕で興奮してるんだ……。
自分のものと他人のものを触る感覚はまったく違う。
おっかなびっくり手を上下させてバクラの強張りを擦った。
形をなぞるように触っていると、さらに硬さが増していく。
ズボンのウエストから手を滑らせて、下着の上から刺激を行う。
バクラの呼吸の中にもくぐもった声が混じり始めた。
「……くっ、随分と今日は積極的だなァ……」
笑みを浮かべて獏良の頭を撫でてから、バクラはベッドの上に仰向けになった。
口で奉仕して欲しいと獏良に注文が入った。
あまり自信はないが、「なんでもしていい」といった手前、獏良は断れない。
バクラの足の間に腰を下ろし、ズボンを下ろそうと獏良が手をかけると、バクラは制止し、ぽんぽんと自身の顔付近を叩いた。
「足はこっちだ」
バクラのジェスチャーを獏良が不思議そうに見つめといると、
「こっちに跨げ。頭はあっち」
「こっち」で手招きをし、「あっち」で足元を指差した。
獏良は意味を理解しないまま、言われた通りに身体が反対の向きになるように移動した。
バクラの頭側に足が、足側に頭が向かい合う四つん這いの形だ。
「それで咥えてくれよ」
「うん」
今度こそバクラのズボンを下ろし、既に半分勃ち上がっているものを下着の中から取り出した。
ぴょこんと飛び出た先端に吸いつくように数回キスをしてから口に含む。
何度かしたことはあるものの、いまだに慣れていない。
今まではバクラの反応を見ながら試行錯誤していたが、今日視界にあるのは細長い足だけ。
記憶を頼りに口と舌を動かした。
アイスキャンディを咥えるように口を上下させ、味わうように舌を絡ませる。
ただし舌に感じるのは砂糖たっぷりのミルク味ではなく、少し塩気のある表現しづらい味だ。
「ん、むっ」
唾液と先端から滲み出した液体が混ざったものが唇の端から溢れた。
手は竿の部分を包んでしごく。
垂れた液体が手を濡らして滑りとなる。
背後から聞こえてくる息遣いで、どうやら喜んでもらえているらしいと判断した。
たどたどしい刺激でも口内の性器が硬くなっている。
自分の股間の熱も増していくように思った。
獏良は夢中になってさらに吸いつこうとした。
ところが、唐突に下半身がひんやりと冷気に触れた。
下半身がどうなっているのか獏良からは見えないが、妙に風通りがいいことだけは感じられる。
「宿主、腰を下ろせ」
この状態でバクラの言われるままにすればどうなるか、性の知識が少ない獏良でもさすがに想像がついた。
「やだ……そんなこと……」
獏良は性器から口を離し、バクラからは見えないのを承知の上でもげてしまいそうなほど首を振った。
膝より少し上の辺りで何かが纏わりついているような感覚がしている。それより上はやはりスースーと冷たい。
その状態を頭に思い浮かべるだけで恥ずかしくて顔から火を吹いてしまいそうだった。
「ほら、今日は頑張ってくれるんだろ?」
「うう……」
約束はしたものの、こんなに恥ずかしい思いをするとは想像もしていなかった。
程度が分からないので、少しずつ腰を下ろしていった。
バクラを跨ぐ姿勢のまま腰を下ろすと、自然と足が開いていく。
下半身の下にはバクラの顔がある。
ということは……。
「いい眺めだな。お前のビクついてるトコ、全部丸見えだぜ。あーあー、こんなに膨らませちまって」
バクラの吐息が露出した露出した性器に吹きかけられた。
「ふあ……ん、ちょっと!」
「わりいわりい。もう少し下だ」
バクラの顔に自ら陰部を近づけているとは目に見えないだけマシだと、獏良は思い込もうとしたが、目に見えない分余計な想像をしてしまう上に感覚が鋭敏になっていることには気づかなかった。
どの辺りまで腰を下ろしたのか、もういいのではないかと、獏良が思ったとき、
「ヒャッ!」
一番敏感な部分に湿った何かが触れた。
反射的に腰を浮かしかけるが、がっしりとバクラの手が押さえ込む。
「逃げんな」
「だ、だって……」
「ほれ」
半分は自ら、半分は強制的に、獏良の腰が再び下がる。
性器に手が触れられたかと思うと、温かい粘膜に包まれた感触がした。
獏良はやっとバクラがこの体勢を指示した意図に気づき、目の前にあるそそり立つものをもう一度口に含んだ。
前からも後ろからも絡みつくような水音が鳴っている。
時折、鼻にかかった声が混じる。
どちらがどちらの音か分からなくなりそうだった。
――こんなの、凄くイヤらしい。
羞恥まみれになりながらも、獏良の舌も手も止まらない。
バクラに刺激を与えれば、与えた分だけ返ってくるようだった。
だから、止めることはできない。
獏良の耳に後ろから上品とはいえない音が届いた。
麺類でも啜るような音に似ているが、それを検証する余裕は獏良にはなかった。
「んん!ふぅっ……ん」
耐えられずに口を開けると、粘液が顎に滴った。
口元を拭うこともせずに甘ったるい声を上げる。
性器を掴んだ手は完全に止まっていた。
わざとらしく立てられた音としつこいほどに与えられる刺激が獏良を追い詰める。
動きに合わせて腰が小刻みに震えていた。
肯定と否定の言葉が入り乱れて獏良の口から飛び出した。
「手と口が留守だぞ」
達する前に獏良の下半身があっさりと解放された。
「ダメぇ」
愛撫が終わった後も収まりのつかない熱が腰を動かしていた。
「は……、一人でよがっちまって。そんなに悦かったか?」
獏良は四つん這いの体勢を取り続けるのもやっとの状態だった。
「も、もう……僕……」
「分かったから。いま楽にしてやるから、ちょっと待ってろ」
ぺちぺちと太股を軽く叩かれると、獏良は崩れるように横倒れになった。
口淫の余韻がまだ身体に残っている。ズボンと下着を下げられた姿のままで余韻を味わう。
バクラは半分身を起こし、ヘッドボードの引き出しを開けた。
中を探って手に当たったボトルと箱を掴み出す。
「ん?」
少し間延びした声がバクラの口から発せられた。
耳慣れない声に余韻に浸っていた獏良が少しだけ頭を上げた。
バクラが手にした箱を目にして、それまでの緩い快楽が一気に吹き飛んだ。
「あ!」
がばりと跳ね起き、バクラの足元に擦り寄る。
「あ、わ……」
ゴムを購入できた満足感にその後のことを考えていなかった。
なんとなく空の箱は捨てられず、隣に新しい箱を収めるだけでなんとなく任務を果たした気でいた。
もちろん、今に至るまでバクラにそれを伝えてはいない。
「それ……」
獏良の中にドラッグストアでのすったもんだが甦った。
先ほどまでとは異なる種類の恥ずかしさに言葉を失う。
「んー?」
バクラは馴染みのない未開封の箱に首を捻っていたが、赤くなったり青くなったりしている獏良の顔と見比べ、にんまりと笑った。
「ほー、そうかそうか。今日のお前は本当に積極的だったわけか」
「あの、それは……」
「これがお前の趣味なのか。ふーん」
「ちが……よく分からなくて……ちがう……」
獏良はわたわたと身体の前で手を振り、茹で蛸のように真っ赤になった。
バクラはその様子を楽しげに眺めていたが、獏良を不必要にからかいはしなかった。
ぽんぽんと獏良の頭に手を乗せ、
「お前が買ってきたの、使うな?」
色彩に乏しい地味な箱を顔の横で軽く振った。
赤べこのごとく首を上下させるだけで獏良は精一杯だった。
掻ける恥はすべて掻いた。自分自身でも見たことのない陰部もすべて見せてしまった。もう後はやけっぱちだ。
獏良は太股まで下ろされたズボンも上着もすべて脱いで仰向けになり、陰部を晒すように膝を立てる。
腹は決めたものの少し残っている恥じらいから、行き場のない両手は胸の上に置いた。
バクラは獏良の太股を掴んで腰を浮かせて、下に枕を差し込んだ。
自然と獏良の腰が持ち上がる。
「久々だから念入りに解してやるからな」
バクラはボトルのキャップを開き、中の液体を手のひらに垂らした。
獏良の臀部にひやりと冷たいものが触れる。
おちょぼ口を中心にくるくると円を描くようにバクラの手が動く。
手のひらを使って全体をマッサージするように。
最初は冷たかった液体も獏良の熱を通し肌に馴染んでいった。
次第に手のひらのマッサージから指先に変わり、中心部を広げ始めた。
「指、挿れるな?」
「うん」
可愛らしい小さな蕾にバクラの人差し指がゆっくりと沈んでいく。
「ふ……うぅ」
「もう一本」
二本の指によって蕾が徐々に花開いていく。
獏良の甘ったるい声と液体と粘膜が擦れる音だけがしばらく流れていた。
「……別にお前を虐めるつもりなんて更々ないんだが……ちょっといいか?」
「あ……んっ……ん?」
くちくちと指を動かしながら、バクラが口を開いた。
歯に衣着せぬ物言いが常であるバクラが、前置きをするのも、わざわざ相手に了解を取るのも滅多にないことだ。
湯船の中にいるようなじんわりとした快楽に浸っていた獏良は、怪訝そうな顔をして自身の腹の先にある肉付きが少ない足の間に目を向けた。
「久しぶりの割に随分とあっさり入るもんだな。これで三本目だ」
「あ、んっ」
淫穴を押し上げる感覚が増し、びくりと獏良の腰が跳ねた。
それからバクラの言葉がゆっくりと耳から脳へ浸透していく。
蕩けた頭で意味を遅れて理解した。
獏良は胸に置きっ放しだった手で顔を勢いよく覆った。
悲鳴にも似た呻き声がその下から流れ出した。
「その……なんだ……。一人で……弄ってたのか……?」
核心を衝く言葉に呻き声の音量が上がる。

性行為が不慣れである獏良がスムーズに挿入できるようになるまで時間を要した。
毎回バクラが丁寧に優しく解してやっと挿入る。
今回に限っては潤滑剤の助けがあるとはいえ、抵抗なくあっさりと指が入ってしまった。
ここ一ヶ月はバクラによる挿入はおろか、慣らすことさえしていない。
バクラの指摘通り、獏良は今まで触れたことのないその場所に手を伸ばしていた。自慰行為の延長で。

「だって……」
獏良は暴かれた事実に顔を押さえたまま、年端もいかない子どものようにぐずる。
一人寝の寂しさに自然と手が延びた。
本当ならここにバクラの硬いものが挿入っているはずなのにと、前だけではなく後ろまで触り出してしまったのだ。
一人でこんなことをしてはいけないと何度も自分に言い聞かせても誘惑には勝てなかった。
初めは小指一本から。気づいたら二本の指を容易く飲み込むようになっていた。
自分の指をバクラのものと見立てて出し入れする。

『ん、んっ……バ、クラ……ぁ』

部屋の外まで聞こえないように小声でバクラの名前を呼びながら。
「死ぬほど見たかった……」
その姿を想像するだけでバクラの股間が天を衝くほどに持ち上がった。
「今度から呼べよ。そういう時は」
「そんなの恥ずかしいよ。うう……」
性に対して奥手と思いきや、大胆な一面があるとはバクラにとって嬉しい発見だった。
これから長丁場になるぞと覚悟すらしていたのに。
目の前で恥じらう獏良がこの世で一番可愛い生き物ではないかと途端に思えてしまった。
「しかし、そんなに寂しい思いをさせてたとはな。今からみっちり埋め合わせしてやる」
バクラは獏良の顔から手を引き剥がし、唇を何度も荒々しく何度も重ねる。
二人の唇が離れたときには獏良の目からはとろんと力が抜け、口は半開きになり夢心地のようになっていた。
バクラも服を脱ぎ捨て、買ってきたばかりの箱から袋を取り出した。
外から中身を探り、指で端に寄せ、切り口から横一線に袋を開ける。
中心にある突起を摘まんでから、取り出したゴムを一物にあてがい、根本まで引き下ろした。
最後に全体を上下させてしっかりとゴムを密着させる。
「ほら、お前の買ってきたゴムだ。ようく味わってくれよ」
すっかり解されてヒクヒクと物欲しそうに収縮する口に先端を押し当てた。
中に挿れずにしばらく周辺を擦る。
「はあ……」
熱い強張りが行ったり来たりする度に獏良の胸が期待で高まった。
なかなか入ってこない強張りを今か今かと待ちわびる。
ずぶり、と唐突に先端が中に押し入った。
「あ、ううっ」
ゆっくりと太いものがずぶずぶと身体の中に侵入していく。
一ヶ月間ずっと待っていたこの瞬間に獏良は歓喜の声を上げた。
――指と全然違うッ……!
穴を押し広げられ、貫かれる感覚。疑似行為とはまったく違った。
「こ、れ……アッ、かたぁ……」
奥深くまで挿入したかと思うと、ずるりと入口まで抜ける。
腸壁にしっかりと覚えさせるように往復する。
熱い塊を逃さないように獏良はきつく締め上げた。
「ふっ……あ、あん……や……おなか、いっぱい」
口からは淫らな声が飛び出していた。
「っ……悦いか?はしたねえ顔っ、しやがって……」
「ンッ……いいッ。ね、もっ、と……もっときて」
ピストンに合わせて獏良の腰がカクカクと動いた。
先端からは液が薄く滴り、肌を汚している。
上を向いた胸の尖りを自ら指で挟み、ぐにぐにと潰したり押し込んだり弄る。
バクラの下で腰をくねらす姿は仄かな灯りの中でとても美しく淫靡だった。
「なァ、くっ……ハァ……お前の、イき顔、見せて……くれよ。一生懸命、射精してるお前、カワイイんだぜ……っ」
獏良の淫棒の下の膨らみは微弱運動を繰り返しながら持ち上がっていた。
「ん、出る……」
太股が痙攣し始めたのを見て取ると、バクラは足を持ち上げて獏良の身体に覆い被さり、浮かせた腰に向かって深く肉杭を打ち込んだ。
「ひっ、ん……ふっ、深ぁ……!あっああ……」
尻を叩きつけるように何度も抜き挿しする。
肌のぶつかる音と粘液が絡み合う音が大きく結合部分から聞こえた。
「あぅ!ひっ……あン、うぅん」
獏良が腰を高く突き上げると、びくびくと痙攣する先から白い液体が噴射された。
勢いよく噴き上げた後に続き、ちょろちょろと射精を繰り返した。
その間、バクラをぎゅうぎゅうと締めつける。
「くっ……キツッ……う、あ……」
獏良は中で肉棒が膨らむのを感じて両足をバクラの腰に絡ませた。
びくびくと脈打つ熱い塊。
射精を促すように自然と腰が前後に動く。
「くふっ、んん……っ。ぜんぶ、出して……」
引き抜いたゴムの先には白い液体がたっぷりと溜まっていた。

獏良はバクラの上に跨がって頭を胸に乗せ、優しく響く心臓の鼓動に聞き惚れていた。
バクラがそっと頭や頬を撫でると、獏良はお返しに顎を唇でつつく。
「知らねえ間に色んなこと覚えたなお前」
「引いた?」
「いや、大歓迎」
二人は顔を見合わせてくすりと笑う。
ぴたりと肌を合わせて互いの温もりをゆるゆると感じていた。
「今度は二人で買いに行こうな」
バクラの胸の上で獏良の目が喜びに揺れた。
「うん」

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5/6(ゴム)と6/9(69)の合わせ技でした。一緒にグッズを買いに行くのも前戯の一部だと思うんですよ。今回本番はおまけです。
バクラがどういうゴムを買っているのかはご想像にお任せしますが、受け手側に優しいタイプだと嬉しいです。
この後、売り場でピュアな顔でバクラを質問攻めすると楽しいですね。それで引き分けです。

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