ばかうけ

学園パラレルその5

「今日もバクラくんは休み?」
「どうかな……このままだと留年したって文句言えないけど……」
獏良は真剣にバクラのことを考えていたが、はっと顔を上げる。
「……って、なんで僕にあいつのことを聞くのかな?」
遊戯たち友人には穏やかな獏良だが、「あいつ」が関わると例外になる。
慌てて遊戯が首を振った。
「ほら、家がお隣りさんだから」
「うーん……」
獏良は納得のいかない顔で唸る。
「そうだ。アテムくんはどうしたの?」
「起こしたんだけど、起きなかったから出てきちゃった」
悪戯っぽく笑った後、ぺろりと舌を出す。
「いつも引っ張って来てるもんね。たまには遊戯くんの有り難さを分からせてあげるのも良いかも」
獏良は妹にするように優しく遊戯の頭を撫でた。
「ぅおーっす、ゆーぎぃ!」
慌ただしく城之内が教室に駆け込んで来た。
元気良く遊戯に向かって手を上げる。
「今日は間に合ったね、城之内くん」
「あり?アテムは?」
きょろきょろと城之内が辺りを見回す。
遊戯とアテムは絶えず一緒にいるのは周知の事実だ。
「今日はアテムくんが遅刻するかもね」
教室の時計を見上げれば、朝礼開始まで後少し。
耳を澄ませば、廊下をこちらに向かって来るゆっくりとした足音が聞こえる。
「先生、来た」
教室の誰かがそう言うと、遊戯たち三人は顔を見合わせて苦笑いをした。
ダメだったね。
そう言う前に、廊下から新たな音が聞こえてきた。
とんとんとん
どたんどたんどたん
『あ……こら!廊下を……』
『バッツゲームッ!!』
どさり
何かが床に倒れ込む音がした後は、落ち着きのない足音しかしなくなった。
がらり
アテムが荒い息をしながら戸を開けた。
「はーはーはー。なんとか間に合ったぜ」
手の甲で汗を拭いながら、何かを成し遂げたような、爽やかな笑顔を浮かべる。
「何したんだ、アテムのヤツ……」
すっかり教師の足音は消えていた。
とても聞く勇気のある者はいない。
「ひどいぜ、相棒。オレを置いていくなんて」
「起こしたよ。何回も」
遊戯はぷいと横を向いてしまう。
「何を怒ってるんだ?」
思い当たることが一つもなく、アテムは瞳をぱちぱちとしばたく。
その様子に、遊戯から大きく溜め息が出た。
「何だか分からないが……お前がいないと、学校までの道のりも寂しく感じてしまうんだぜ」
うおお!
周辺の生徒たちの歓声が沸いた。
跪いて遊戯の手を取ってしまいそうな雰囲気がそこにはあった。
「さすが王様だな」
「天然でああいうことを言えちゃうの、ちょっと羨ましいなぁ」
慣れているとはいえ、城之内も獏良も遊戯とアテムの間に入っていくことが出来ない。
「もう一人の僕……」
さっきまでの膨れっ面は何処へやら。
遊戯の顔は赤らみ、うっとりとアテムを見つめた。
「あちぃな」
城之内が手で仰ぐ仕草をする。
「あついね」
頷き、獏良は窓の外を眺めた。
他のクラスでは朝礼が始まっているらしく、校庭には人っ子一人いない。
「早く来いよ。あのバカ……」
誰にも聞こえないような声で、小さく呟いた。


まとめ10の一部です。
ちょっと抜けてました;

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夏の夜の怪談

「最近はダメだなぁ」
獏良はテレビのチャンネルを忙しなく変えながら呟いた。
不服そうに画面とにらめっこをしていたが、やがてリモコンを手放し、ソファへ倒れこむ。
「つまんない」
ぷらぷらと足を遊ばせていると、
「我儘なヤツだな」
バクラが姿を現してソファの端に腰掛けた。
「これ、お前の好きな番組じゃないのか?」
テレビには芸能人たちが、並んで頭を捻っている姿が写し出されている。
「んー、これはね。僕が言ってるのは、最近の番組のこと」
獏良がリモコンを再び手に取り、チャンネルを変えた。
それは暗い映像に、おどろおどろしいナレーションが際立つ番組だった。
「夏でしょ。怪談の季節なの。でも、最近のそのテの番組はダメ。新鮮さとか迫力がないもん」
「最近多いだろ。流行ってんじゃねぇのか」
獏良の目を通して自然と情報が入って来るので、バクラは決してメディアに疎くなることはない。
大概は興味が無いので聞き流してしまうが。
「沢山やれば良いってもんじゃないよ」
獏良はソファの上で上半身起こした。
急に目に力が入り、生き生きと口を開く。
まるで水を得た魚のようだ。
「質が落ちたら、元も子もないじゃないか。CGや特殊メイクとかの技術は上がったんだけど、 中身がないからダメなんだよ。
ネタをやり尽くしちゃったのかもしれないけど、もっとエンター テイメント性を追求していかなきゃ。視聴者の胸に響くような」
燃える獏良とは反対に、バクラは冷めた目で話を聞いていた。
ここで下手に口出しをしたら、恐ろしいことになると知っているので、口は閉ざしたままだ。
常人にはほとんどわけの分からないことを獏良は喋り続けていた。
「面白い話ないかなぁ」
「ああだこうだ言ってるけどなぁ……お前は面白い話っつーやつが出来んのか?」
ぼやく獏良に、バクラはもっともな意見を言った。
人に要求するなら、まず自分が出来なくては話にならない。
「じゃあ、僕が今までで一番怖いと思った体験談を話してあげようか?」
獏良は怯まずに、真っ向から眼光鋭く宣言した。
「聞いてやろうじゃねぇか」

あれは……僕が幼稚園に通っていた頃だから……三、四歳だったと思う。
天音はまだ生まれてなかったし、父さんは仕事で海外を飛び回ってたから、よく一人で留守番したり、遊んでたりしてたんだ。
当時の僕は、今の僕から見てもちょっと変わった子でさ。
不思議なことを言ったり、やったりする子だったみたい。
何もないところをじっと見つめたり、指差したり。
買い物から帰ってきた母さんが、僕に声をかけるんだ。
「了、いい子にしてた?一人で寂しくなかった?」
一人遊びは慣れてたから、問題はなかったと思うんだけどね。
時々、そう言う母さんに対して、
「うん、おじちゃんと遊んでたから楽しかったよ」
事もなげにこう言ったらしい。

『おじちゃん』

子供が空想の遊び相手を作ることは、珍しくないじゃないか。
人形遊びの要領だね。
母さんは首を傾げはしたけど、気にしなかった。
だけど、何回も何回もそんな答えがあると、さすがにおかしいなと思う。

おじちゃんとつみきで遊んだ。
おじちゃんと歌を唄った。
おじちゃんと怪獣ごっこをした。
おじちゃんと……

子供の空想なんだから、「おじちゃん」にこだわることはない。
何かの病気なんじゃないか。
それとも、本当におじちゃんは存在していて、ありのままの真実を僕が語っているのかもしれない。
僕は近所の子と何処か違う雰囲気があったから、もしかしたら目に見えない何かが見えるんじゃないか。
色々考えていたら、僕のことが心配になってきちゃったんだね。
何とか解決しようと母さんは思ったんだ。

それからある日、いつものように僕に、
「買い物へ行ってくるから、いい子に留守番してて」
と言って、母さんは家を出た。
そのまま近所を十数分間歩き回って、静かに家に戻ってくる。
こっそり僕の様子を窺おうと思ったわけだ。
普段と変わらない様子で僕が遊んでいればいい。
無意識にせよ悪戯にせよ、杞憂にこしたことはない。
鍵を開けて、中に入ろうとドアノブに手をかけたとき、母さんは気付いた。
鍵が開いている。
出るとき確かに鍵は閉めたはずだった。
おかしい。
考えられるのは僕が開けたということだけど、それに何の意味があるのか。
音を立てないようにドアを開け中に入ると、僕の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
おかしいと思わない?
年端もいかない幼児とはいえ、一人で遊んでいるのに、声を上げて笑うって。
それに、母さんには聞こえたんだ。
ぼそぼそと低くて聞き取りずらかったけど、僕の他に何かの声が。
『おじさん』はいたんだ。
母さんは恐ろしかったけど、それよりも正体を知りたいという好奇心の方が勝っていたんだ。
もしかしたら、何かに取り憑つかれていて、確かめないと気がすまなくなってたのかもしれない。
音を立てないように、声のするリビングへ忍び寄った。
そして、そっと廊下から覗く。
ジグソーパズルで楽しそうに遊ぶ僕と……
母さんは確かに見た
……擦り切れた服を着た、小太りの中年の男を。
混乱した母さんは、逃げることも誰かを呼ぶことも出来ない。
ただその場に立ち尽くして、その光景を見るのみ。
そして、それまでぼんやりとしか聞こえなかったその男の言葉がはっきりと聞こえたんだ。
「は……はあ……了ちゃん、ぼぼぼ、ボクと……はあはあ……今度遊園地に行こうね。了ちゃんの好きな 物、何でも買ってあげるよ……モモたんのフィギュアとか……あはは」

その後すぐに状況を察した母さんが、警察に連絡して、その男が捕まって解決。
何でも、外でたまたま見掛けた僕を気に入って、何度も家に上がり込んでいたらしい。
僕も小さかったからね……何も疑いなく……

「ちょ……ちょっと待てい!」
獏良の話にバクラは額に汗を浮かべて割って入った。
「お前はそれで、何もされてなかったんだろうな?!」
「うん、多分。遊び相手が出来て、それなりに楽しかったみたいだよ」
他人事のように、あっけらかんと獏良が言った。
記憶も朧気な昔のことなのだから、実感が薄れるのも無理はない。
「多分ッ?!」
悲鳴に近い声をバクラは上げた。
大切な宿主様が傷物にされたとなっては、一大事だ。
「あー……でも、ぞっとするよね。全然他人の危ないお兄さんを何回も家に上げて、一緒にいたと思うと。聞いた話では、母さんが早く帰って来ちゃったりしたときは、クローゼットか何かに隠れて、こっそり出てったりとかしたらしい」
珍しく顔を真っ青にして、バクラは項垂れた。
その様子に満足した獏良は、
「ねー、怖かったでしょ?」
嬉しげに笑った。
「ああ、ある意味な」
こうしてバクラは、ある種の恐怖と寒さを十分に味わったのでした。

「ところでこれ、怪談なのか……?」


だいぶ前のだと思いますが、今の時代ちょっと笑えない内容となってます。

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