◇獏良の場合
ふと目が覚めた。
寝惚け眼で横になったまま部屋の様子を見回す。
カーテンの隙間から光は見えない。部屋全体が静寂に包まれている。
何時だろう……。
手探りで枕元の携帯を探しだし、時間を確認する。
深夜も深夜、早朝ともいえなくもない時間だった。
それを目にした途端、どっと脱力感が生まれた。
普段は夜中に目覚めることはないんだけど……。
眠りが浅かったらしい。
これは精神的に疲れているサインだ。
一度起きてしまったら、すぐに眠れそうもない。
僕は決心すると、もぞもぞとベッドから這い出した。
毛布を抱えてリビングに出る。
電気は消したままで、テレビを点けた。
リモコンを手にソファに座る。
一通りチャンネルを変えてみるけど、楽しそうな番組はやってない。
放送局によっては試験放送が流れている。
面白くなくてもいいからバラエティでもやっていれば気が紛れるんだけどな。
結局は静かな音楽と共に外国の風景を延々と映している番組に落ち着いた。
テレビの音がかえって家の静寂を際立たせている気がする。
胸がざわざわする。
この気持ちはなんだろう。
……寂しいのかな。
うん、少し寂しい気がする。
誰かと連絡取りたいな。
夜中だから無理だけど。
いや、昼でもしないな。こんなことで。
僕は膝を抱えて毛布に包まった。
格好悪いけど、こうしていると少し落ち着く。
このままいつの間にか寝てしまって、気づいたら朝になってたらいいな。
ぼけーっとテレビに映るどこかの高原を見つめていた。
「面白いか、コレ?」
あ、一応この家にいるのは僕だけじゃなかったんだ。
いつの間にか、僕の隣にバクラが腰掛けていた。
頬杖をついて本当につまらなさそうだった。
「ミノムシか?」
ぶっきら棒だけど、いつもの乱暴な口調と比べるとだいぶ優しく聞こえた。
いや、いつもが酷すぎるのかもしれないけど。
「実はツッコミ待ちだった」
なんて言ったら分からなくて、つい馬鹿なことを言ってしまう。
「風邪引くぞ」
それでもバクラは追求せずに、ただ僕のそばで座っているだけだ。
分かってるんだろうか?僕のこのモヤモヤ。
「うん、少し寒いかも……」
膝に顔を埋めて声を搾り出す。
深夜だからか感情が溢れそうで困る。
みっともないから誰にも見せたくないのに。
不意にふわりとあたたかくなった気がした。
気づけば毛布の上からバクラに優しく抱えられていた。
「ホント、つまんねえなこれ」
口では文句を言っていたけど。
その温もりに僕は安らぎを感じた。
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珍しく優しいバクラさん。
◇バクラの場合
よく夢を見る。
暗闇の中を手探りで出口を探している夢。
ゴールのない道に段々と焦っていくが、見えない壁にぶつかるばかりで前に進んでいる気がしない。
幾つドアを通っても、その先は暗闇。
もしかしたら、戻っているのかもしれない。
見当違いの方角に向かっているのかもしれない。
それでも立ち止まるわけにはいかなかった。
なぜ?
夢の中では理由なんて忘れてしまっている。
とにかく暗闇の中を走る。
躓いてもぶつかっても。
ひたすら走り続ける。
そうして倒れそうになりながら目の前のドアを開けると、眩い光が飛び込んでくる。
いつも最後はここに辿り着く。
光の中に人影を見るが、それが誰だかは分からない。
でも、知っている。確かに知っている。
お前は……
そこでいつも目が覚める。
目が覚めると夢のことは綺麗さっぱり忘れちまうものだが、この夢だけは逆だ。
起きたところで誰だったのか思い出す。
「お前だったんだな」
オレはまだ夢の中にいる宿主を起こさないように見下ろした。
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ちょっぴりバクラの心象風景を。二種類で一つでした。
レンタル映画
「いらっしゃいませー」
ここは童実町のレンタル店。
夜遅くまでやっているという理由から獏良が愛用している店だ。
学校に知られたら大目玉を食らうに違いないが、休みの前日の夜中にこっそり借りにくるのが楽しみになっている。
休みの日に時間を気にせず家でまったりDVD。
インドア派の獏良にとっては至福の時間なのだ。
店内の配置はすっかり把握しているので、映画コーナーにまっすぐ向かう。
「ねえ、どれにする?」
周りに気づかれないように、こっそりとバクラに聞く。
もちろん、始めから二人で仲良く並んで映画を見るようになったわけではない。
一人の時間に慣れている獏良でも感想を語り合いたいときもある。
試しにバクラに話かけてみたところ、意外とまともな感想が返ってきた。
それからバクラと映画の時間を共有するように自然となっていったのだ。
バクラにしてみれば、自然と目に入ってきたものをなんとなく見ていたところに感想を聞かれたので、「人間関係がまどろっこしい」だの、「アホみたいにドカンドカン爆発ばかりしやがる」だの、映画の印象を簡潔かつ正直に述べただけだ。
なにが獏良にウケたのか分からなかった。
いつもと違って獏良がふむふむと興味深げに頷くので悪い気はしない。
それに、今の世界を知るのに手っ取り早い材料だし、退屈凌ぎにもなった。
「しらん」
「あ、これ、ナントカっていう賞取ったやつ!」
――聞いちゃいねえ……。
レンタルする映画の決定権は獏良にあった。バクラには口を挟むつもりもないが。
獏良は様々なジャンルの映画をその時の気分で節操なく見る。
ただ鳥が飛んでいるだけの映像など、バクラには有り難くない選択もたまにある。
「うーん、これにしよう」
ああでもないこうでもないと数分間悩んだ後、獏良は一本のDVDを取った。
1.恋愛映画
2.ホラー映画
3.ファンタジー映画
4.アニメ映画
5.時代劇映画
***
「今日は恋愛ものにします」
「なんでソレなんだよ。好きだの惚れただのいうやつだろ」
獏良はぼやくバクラに背を向け、借りてきたDVDをプレイヤーにセットする。
「少女漫画が原作なんだって。読んだことないし、たまには見てみたいと思って」
テーブルにはマグカップと炭酸のペットボトル、スナック菓子。
鑑賞日になると獏良は省エネモードになる。
これらの映画セットで一日を過ごそうとする。
バクラにとってはただの苦痛だが、どうにもならないことだった。
獏良はふかふかのソファの上にピョンと飛び乗り、リモコンでDVDを再生した。
『なんなの……あんなヤツ全然かっこよくないじゃない!』
『可愛いとこもあるじゃん』
『……好きなんかじゃないよ。だってあいつには他に好きな人が……』
『どうしても気になるんだよ!お前のことが!』
ドンッ
『ドキドキが止まらないよ』
『嫌なら拒絶してみろよ』
『……好きっ』
――こんなん面白いのか……?
終盤の一番盛り上がるシーンをバクラは白けた目で見ていた。
バクラには、やたらと感情の振り幅が大きい女と行動に一貫性のない男が、ずっと噛み合わない会話を繰り返しているように見えていた。
現実味に欠けるというか、夢遊病に侵されているような映像だ。
ハズレだったなと憐憫の情を込めて隣にいる獏良を見た。
「うっ……」
食い入るように画面に釘付けになった獏良の目からは一筋の涙が零れていた。
呆然とするバクラを余所に映画は終幕となった。
主題歌とエンドクレジットが流れ始め、それまで背筋を伸ばしていた獏良は、力を抜いてソファにもたれかかった。
手を伸ばしてティッシュを箱ごと抱きかかえる。
涙を拭って鼻をかみ、そこでやっと一息ついた。
「はあー……。意外と良かったね」
獏良は若干鼻声ではあるものの、晴れ晴れとした表情をしていた。
対照的にバクラは呆れ顔だった。
「あの、ヒロインが屋上から告白するシーン最高だった」
「宿主様って恋愛に興味あったのか」
バクラは温度差に気づかない獏良を刺激しないように静かに尋ねた。
いくら女子にちやほやされても意に介さないので、てっきり興味がないように思えたが。
「んー……興味はないけど、こうやって創作の恋愛を見るのは楽しいかも。壁ドンも見てみるとドキドキするね」
獏良は頬を微かに染めながら微笑んだ。
その表情は色気を帯びていた。
「じゃあ、試してみるか?」
舌なめずりをしたバクラに押されてソファに横倒しになる。
目を丸くしてされるがままになっていた獏良だが、バクラがそのまま伸しかかろうとするのを手で制した。
「やだなあ、興味ないって言ったじゃないか。創作は創作」
あまりの素っ気なさにバクラは出鼻を挫かれた。
「興味ないのか」
「興味ない」
きっぱりと言い切られては、すごすごと引き下がるしかない。
――恋愛映画を見てちっとは勉強しやがれ……。
***
「今日はホラーものにします」
「コッテコテのやつじゃねえか。わざわざ見る価値あるか?」
獏良はぼやくバクラに背を向け、借りてきたDVDをプレイヤーにセットする。
「B級ホラーってやつだよ。有名なのは見たから、たまにはこういうのもいいと思って」
テーブルにはマグカップと炭酸のペットボトル、スナック菓子。
鑑賞日になると獏良は省エネモードになる。
これらの映画セットで一日を過ごそうとする。
バクラにとってはただの苦痛だが、どうにもならないことだった。
獏良はふかふかのソファの上にピョンと飛び乗り、リモコンでDVDを再生した。
舞台は深い森の中にある廃墟。
キャンプの途中で迷い込んでしまったカップルや家族連れたちが、その廃墟に閉じ込められてしまう。
「息を潜めて。絶対に物音を出しちゃだめよ」
ヒタヒタヒタ――。
「もうダメ。うんざりよ!あたし一人でもここから出るわ!」
「あ、あいつが……あいつがこっちにくるッ!」
「これを……これを壊せば、オレたち助かるんだ……!」
「車が通ってくれてよかったね。早く家に帰りたいよ。あ、あれなにかな?何か後ろに……」
――ホラーか、これ。
人間たちが追い詰められては幽霊と思わしきものに殺されていく。
畳みかけるような死の恐怖が、逆に視聴する側を萎えさせる。
やたらと驚かせばいいというものではない。
もっとじわじわと真綿で首を絞めるような恐怖を与えるのがジャパニーズホラーなのではないだろうか。
製作側が狙ってやっているのかどうか、バクラには分からなかったが、とても怖いと思えるようなものではなかった。
というか、幽鬼ともいえるバクラにホラーが通じるはずもない。
それは宿主である獏良にもいえることではないだろうか。
怖がっているはずないだろうと思い、獏良の様子を窺った。
身動きもせずに無表情で画面を見つめていた。
怖がっていなければいないで面白くない。
可愛げがないとも思った。
救いがない上にいまいちスッキリしない結末で映画は終幕となった。
場違いに明るい歌をバックにエンドクレジットが流れる。
本編を見終わっても動かない獏良にバクラは首を傾げた。
いつもなら、ここで映画の感想を語り出すはずだ。
「宿主」
「ひゃっ」
ソファの上で獏良が飛び跳ねた。
「な、なに?」
「いや、終わったんだが……」
獏良の反応をバクラは訝しげに見つめた。
「あー、そうだね。終わったね」
どこか心のこもっていない言葉を獏良は呟き、乾いた喉を潤そうとマグカップを手に取って口元へ持っていった。
しかし、一向にマグカップから液体は流れてこない。
「それ、空だぞ」
「ふ、ふぉんとだ。おかしいな」
「お前……怖かったんだな」
バクラは真顔で問いかけた。
「こわっ、怖くなんてないもっ!」
普段は見られない獏良の様子に、にんまりとバクラの口が歪む。
「そうだな。怖いわけないよな。お前の後ろに嫌な気配がしてもな」
「うわああッ!!」
獏良は盛大に叫び声を上げてバクラに抱きつこうとした。
「そこに手が」
「いやあ!」
追い打ちをかけられ、さらにバクラに縋る。
ホラー映画も悪くないかもしれないと、バクラは思った。
***
「今日はファンタジーものにします」
「ファンタジーねえ……もうやり尽してネタも残ってないんじゃねえのか」
ぼやくバクラに背を向けて獏良は借りてきたDVDをプレイヤーにセットする。
「いつ見てもファンタジーはいいもんだよ。CG技術は進歩していくし」
テーブルにはマグカップと炭酸のペットボトル、スナック菓子。
鑑賞日になると獏良は省エネモードになる。
これらの映画セットで一日を過ごそうとする。
バクラにとってはただの苦痛だが、どうにもならないことだった。
獏良はふかふかのソファの上にピョンと飛び乗り、リモコンでDVDを再生した。
ファンタジーといってもローファンタジーで、舞台は現代のアメリカ。
遺跡で古代の遺物が見つかったことから話は始まった。
古代遺物に関わるものたちに不幸が襲いかかる。
深まる古代文明の謎。
古代遺物の首飾りを手にした者たちは狂い死んでいく。
ヒロインの手に首飾りが渡ったとき、封印された古代人の声が聞こえた。
『やっと手に入れたぞ、最高の身体だ!ヒャハハハ!!』
身体を乗っ取られたヒロインを救うべく主人公たちが遺跡に向かった。
ヒロインを取り戻し、主人公たちが遺跡から朝日を望みながら映画は終幕した。
途中でヒロインが「仲間を殺させない」と決死の覚悟で身体を取り戻したり、本性を現した悪の古代人と古代の王との戦いがあったり、盛り上がりどころは沢山あった。
しかし、二人は無言で画面を見続けていた。
エンドロールが流れ始めても動けないでいた。
「まったく頭に入ってこねえ」
「ちょっと集中できなかった……」
見覚えのあるストーリーだったとは、二人とも口にできなかった。
気不味い空気が二人の間に流れる。
「まあ、そこそこの話だったんじゃねえの」
「うん、そうだね!」
細かい内容はよく思い出せない。
印象に残っていることといえば……。
二人は同時に口を開いた。
「あのヒロインは悪くなかったな」
「あの悪役は酷い奴だったねー」
感想が全く噛み合わないことに二人ともギョッとする。
「あのボスはいい味出てただろう」
「ファンタジーでも外道すぎてダメだった!ヒロインが可哀想だった!」
お互い自分の意見を曲げずに睨み合う。
どちらもいつの間にか映画に感情移入していたとすれば、作品としては大成功だったのではないだろうか。
「大人しくあそこであの女がボスのものになってれば良かったんだ!」
「なるかバカッ!」
***
「今日はアニメ映画にします」
「ガキが見るもんじゃねえか」
ぼやくバクラに背を向けて獏良は借りてきたDVDをプレイヤーにセットする。
「大人も泣けるって最近流行ってるらしいよ」
テーブルにはマグカップと炭酸のペットボトル、スナック菓子。
鑑賞日になると獏良は省エネモードになる。
これらの映画セットで一日を過ごそうとする。
バクラにとってはただの苦痛だが、どうにもならないことだった。
獏良はふかふかのソファの上にピョンと飛び乗り、リモコンでDVDを再生した。
『あたし、魔女になる!』
『勇気を杖に込めるんだ』
『誰かが助けを求めてる。太陽よ、私に力を与えたまえ!マジカルラジカルキラキラキラルン♪』
『綺麗事ばっかり抜かすんじゃないよ!この偽善者がっ』
『あたしはみんな助けたいの。あなたも』
『大丈夫。あたしに任せて。あたしの力を全部開放する!』
『ダメだ!あんたがいなくちゃ……意味がないのに!』
『――いつか絶対また会えるから』
出演キャラクターたちが歌う曲をバックにエンドクレジットが流れ始めた。
可愛いキャラクターはもちろん、熱くもあり、ほどほどにお色気もありの万人に受けそうな作品だった。
「???なんで着替えるときに全裸になるんだ?しかも、踊りながら」
「変身シーンと言ってよ。そういうお約束なの!」
ケチをつけ始めるバクラに口を尖らせて獏良は反論した。
少し感動してしまっただけ、否定されると居心地が悪い。
バクラにしてみれば、独特な世界観についていけないだけなのだが。
「変身?」
「こう……魔法の力でパワーアップしてるの。呪文を唱えてたでしょ」
「はあ?」
どうやら子供向けアニメを見たことのないバクラには伝わらないようだ。
アニメの中ではコンパクトを使いヒロインが変身をしていた。
変身シーンはこのアニメの見所の一つで、飛んだり跳ねたりポーズを取りながら、華やかな画面上でコスチュームチェンジをする。
女児向けアニメのはずなのに、少し色っぽいところがポイントだ。
「だから、こうやって『マジカルラジカルキラキラキラルン♪』って」
獏良はアニメの中でヒロインがやったようにガーリーで大袈裟な手振りをして見せた。
「なんだって?」
「だから、『マジカルラジカルキラキラキラルン♪』って……」
そこまでやったところで気づいた。
目の前のバクラがにやにやと笑っていることに。
顔に手を添えてウインクをしたまま獏良は固まった。
見る見るうちに顔が真っ赤になる。
「お前、わざとだなあ!」
「やべぇなこれは浄化されちまうなァ」
辛抱たまらず笑い転げるバクラに獏良の猫パンチが繰り出された。
***
「今日は時代劇にします」
「お前、日本史に興味あったっけ」
ぼやくバクラに背を向けて獏良は借りてきたDVDをプレイヤーにセットする。
「全然。戦国武将も知らないし、大河ドラマも年末の忠臣蔵も見ない」
テーブルにはマグカップと炭酸のペットボトル、スナック菓子。
鑑賞日になると獏良は省エネモードになる。
これらの映画セットで一日を過ごそうとする。
バクラにとってはただの苦痛だが、どうにもならないことだった。
獏良はふかふかのソファの上にピョンと飛び乗り、リモコンでDVDを再生した。
時は江戸、町民たちを虐げる悪代官を粛清すべく闇から生まれた男たちがいた。
『どうか、どうか、娘だけはお許しを……!』
『ぬふふふふ。笑いが止まらんわい。越後屋、お主も悪よのお』
『許してはおけぬ。極悪非道のあのたぬきめ。叩き斬ってやる』
男たちは悪代官の手下たちを暗闇の中から斬り捨てていく。
『いかんせん数が多いか……。ここは俺に任せて先に行け!お前だけでも奴の元へ』
『ヒイイイイ!金でも女でもいくらでもやるから命だけはお助けェ』
『この期に及んで命乞いを……。よくも今まで町民たちを虐げてきたな。あの世で反省するがよい。――粛清』
夜空が映り満月をバックにエンドクレジットが流れ始めた。
「結構面白かった。なんだかんだいって勧善懲悪はいいね」
仲間が一人ずつ欠けながらも最後は目標を達成するという王道のストーリーだった。
先が読めても面白いものは面白い。
「お前はつまらなかったかもしれないけど」
ちらりと隣に座っているバクラの様子を窺う。
「ニンジャか。ニンジャだな」
バクラ本人は真面目な顔つきで画面を見つめて何かに対して頷いていた。
「いやあ、忍者じゃないと思うけど。あれはただのお侍さんだよ」
「もっと火を吹いたり、水の上を歩いたりしないのか」
バクラにふざけている様子は少しもなく、
「それは忍者であって忍者でないというか……」
「チャンバラは良かったが、変わり身の術がないとは。蛙には化けないのか」
一人でぶつぶつと呟いていた。
「聞いてる?」
獏良の声は全く耳に入っていないようだった。
こんなに時代劇がバクラにハマるとは思わなかった。
どうしたものかと獏良がしばらく考え、ピンと閃いた。
「控えおろう、この紋所が目に入らぬかッ!」
「はッ!」
条件反射でバクラは床に平伏した。
「……何やってんの」
獏良は自分がやったことながら心底呆れてバクラを見下ろした。
「日本文化おそろしいぜ……」
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選択肢(選択できません)で展開が変わるお礼話でした。