ばかうけ

チューペットアイス

渇いた喉を潤すために、獏良は冷凍庫から長いチューブ状のアイスを取り出した。
スーパーで安く売っていたのを見つけ、昔よく食べたことを思い出して買ってみたのだ。
ちょうど真ん中のくぼみのところでぱきんと折る。
半分は冷凍庫に戻した。
ソーファに座って食べ始める。
敗れたビニールから露出したアイスの先っぽをペロリと一舐め。
味を確かめる。
口に含んでちゅうちゅうと啜ってみるが何も出てこない。
歯を立ててみるが、
「……かたい」
まだかちんかちんに凍っていて、敵わなかった。
しょうがないので、アイスをくわえたまま手をこしこしと動かし、氷が溶けるのを促してやる。
溶けて液体になったジュースを一滴も逃さないように舌を動かして飲む。
「……ん」
そろそろかな。
再び大きく咥え込むと、今度は大きな氷の塊を口に入れることが出来た。
「あむ……んっ……おいしい」
こくん
アイスを飲み込み、ぺろりと上唇を舐めた。
「宿主サマ……最ッ高」
「え?何が??」
獏良の一連の行動を見ていたバクラが、涙を流す勢いで歓喜の声をあげた。


歯を立ててはいけません。
♪チューチューチューチュ、チューペットが分からないと、何がなんだか分かりませんね;有名でしょうか、アレ?私にとっては夏の定番なんですけど。
書いた当時の精神状態を表して……ませんよ(笑)!うん!

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「ひゃあ、寒い」
木枯らしが吹き荒ぶ中、獏良は帰路についていた。
身を縮こませ、早足で自宅に向かう。
不意に風に乗って、こうばしい香りが鼻をくすぐる。
匂いの元をきょろきょろと探すと、ぽつりと立った屋台を見つけた。


たいやき


幕にでかでかと、そう書かれていた。
縫い付けられたように足が動かない。
獏良は屋台を凝視した。

帰ってから獏良はリビングに通学カバンと上着をどさりと放り、テーブルの上に白い袋を優しく置いた。
中身は先程我慢出来ずに買った鯛焼きで、まだ充分に温かい。
獏良はいそいそと手を洗ってから緑茶を煎れる。
あんこの詰まった鯛焼きに渋い緑茶。
極上の組み合わせに思わず顔が綻ぶ。
「いただきます」
緑茶を一口飲んで鯛焼きの頭にかぶりつこうと大口を開ける。
「あー」
何を思ったのか、獏良は食べる寸前で鯛焼きを口から離した。
「バクラはさ……鯛焼きのどこの部分が好き?」
その問いに、バクラは姿を現さずに、
「カシラ」
即答した。
「ふーん……アンコが詰まってるもんね。僕はね、尻尾が好き」
「はっ?尾なんて何にも入ってねぇだろ」
信じられんといった表情でバクラが反論する。
そんなバクラにちっちと指を振った。
「何も入ってないから良いんだよ。その店の生地そのものの味を楽しめるもの。押せば返ってくるほどの弾力に富み、先の方はカリカリとした食感を楽しめるんだ」
うっとりと語る獏良に、
「マニアックだな」
と、バクラは半ば呆れ顔で言った。
「つーか、なんでそんなこと聞くんだよ」
鯛焼きのどこが美味しいかなんて論争を延々とするつもりはない。
「んー……」
その問いに、少しだけ口籠った後、
「半分こ、しない?」
照れた口調で獏良が言った。
「意味ねぇだろうが」
身体が同じなのだから、鯛焼き一個まるまる食べるのと変わりはない。
すっぱりとバクラに言われ、獏良がしゅんと寂しそうな顔をした。
なんだかとてつもなく悪いことをした気にさせられる、そんな表情だ。
「ちっ……変わりな」

にこにこと楽しそうに頬杖をついて、バクラが鯛焼きを口にするのを見守っている。
食べ辛いことこの上ない。
大きく口を開け、鯛焼きを頬張る。
「……ッチ」
中のあんこがまだ熱く、バクラは舌の上であんこを弾ませる。
「あははっ。そんなに勢いよく食べたら、舌、火傷するよ」
「……早く言え」
恨みがましい目でバクラは獏良を睨みつけた。
それでも獏良は涼しい顔……それどころか、ますます楽しそうに笑う。
「ふーふーしてあげようか?ふーふーって」
「バカにしてんのか?」
「まさか!」
楽しいんだよ。こんな何でもないことが。
獏良は口には出さずに微笑みで返した。


鯛焼きはどこから食べる人ですか?どこが好きですか?
しかし、食べ物ネタが多いですねん、食いしん坊(笑)。
まあ、食欲=あれですからね!

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銭湯

獏良は慣れないその場所を、きょろきょろと見回した。
人はまばらで置いてある荷物も少ない。
ここで脱げば良いんだよ……ね?
初めて訪れるのだから、獏良が戸惑うのも無理はない。
ここは童実野町の寂れた銭湯。
城之内から聞かなければ、あることすら知らなかっただろう。
マンションの水道工事の断水が原因で、突然の銭湯初体験になってしまったのだ。
持ってきた入浴の必需品を置いてコートを脱ぐ。
旅館の大浴場と使い方は変わらないだろうから、そう肩肘を張る必要はないはずだ。
息を吐いて、上着に手をかける。
ちゃり
「?」
微かに鳴った金属音に獏良は顔をしかめた。
胸の上で擦れる固いものに気がついた瞬間、しまったと苦い顔をする。
千年リングを付けっぱなしで来てしまった。
付け慣れるというのも困りものだ。
「どうして今まで黙ってたんだよ」
小声でリングに向かって話しかける。
「言ったら、お前、外していっただろうが」
平然とした答えが返ってきた。
「……大人しくしててよ」
今更自宅に戻るわけにもいかない。
獏良は悔しげに、バクラにそう諭した。
千年リングを外して上半身裸になったところで、はっと気付いた。
慌ててタオルを千年リングにかぶせる。
「何すんだよ」
「変な視線を感じたんだよ」
確かに、バクラは獏良の肌をじろじろと舐めまわすように見ていた。
しかし、不公平だと思う。
周りにいる客もちらちら獏良を盗み見ているのに。
ぱっと見――よくよく見ても女の子に見えるのだから、好奇の視線を集めて当然だ。
言い知れぬ不安感がバクラを襲う。
宿主の貞操はオレ様が守る!

かぽーん
「ワガママなんだから」
溜息交じりに獏良が呟いた。
風呂桶には入浴道具一式と千年リング。
ロッカーに荷物とまとめて入れようとしたのだが、猛反対に遭ってしぶしぶ風呂場まで持ってきたのだ。
錆びても知らないよと、念を押して。
ボディソープを泡立てて身体を洗い始めた。
その様子をうっとりとバクラは見つめていた。
千年リングを外された今、行動は最小限に制限されるが、この状況は限りなくオイシイ。
純粋な気持ちで獏良を守るぞと付いてきたのが、この場で誰よりも熱視線を送っている。
普段は風呂場まで入れないから、これはまたとないチャンスだ。
まだ他の客がちらちらと獏良の方を見ていた。
風呂場に入って目の前に長い髪を結い上げた白い肌のほっそりとした裸体があったら、誰だって勘違いするだろう。
獏良を凝視して、やっと自分の勘違いに気付く。
そんな行動を何人もがやっていた。
全てを知っていて、それでもというのがたった一人、この場にいる。
人格交代をすれば自分の身体になるとは信じ難いくらい艶めかしい。
滑らかな白い肌が熱気でピンクにほてり、手足は長く華奢で、ぷっくりとした胸の突起が愛らしかった。
全身隅々までオレ様が洗ってやりてぇ……。
身体があるわけではないのに、のぼせてしまいそうだ。
ざばーという水温と共に夢見心地な時間は流れていった。

「さっぱりしたー。たまにはこういうのも良いもんだね」
服を着終わり、獏良は幸せそうに破顔した。
「オレ様は入ってねぇけどな」
その言葉にぽんと手を打ち、
「ちょっと待って」
千年リングを持ち上げる。
「なんだよ」
予備に持ってきた渇いたタオルで、獏良は丹念にリングを拭く。
「ほら、錆びるといけないから」
細かい部品まで優しい手つきで磨いていく。
きゅっきゅっきゅっ
心地の良い音を聞きながら、こういうのも悪くはないかもなと、バクラは思った。


一緒にお風呂。了くんはまず番台さんに止められると思います。
身体流しっこして欲しい!そして全身隅々まで洗って欲しい(ヤバい)!
途中で止まらなくなって、危ない方向へ走りそうになったのは内緒です☆続き書きたい(笑)。

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