ばかうけ

オレがあいつであいつがオレで

あらすじ?
休日に獏良さんと遊戯さんは遊ぶことになりました。
でも、双方の首にかけられた千年アイテムは、喧嘩になるから置いていくと二人は言いました。
衝撃を受けた闇遊戯さんとバクラさんは……


目覚ましが鳴り、獏良はいつものように眠い目を擦って起床する。
その次の行動も決まっている。
ベッドの上で伸びをして、少しの間ぼーっとまどろむ。
脳が動き出したところで、やっとベッドから降りる。
あとは千年リングを付けて着替えを済ます。
いつもと何も変わらない朝だ。
「おはよう」
これも、もう一人がいるのに何も言わないのは変だ、これは社交辞令のようなものだと、自分に言い聞かせて行っている朝の習慣だ。
九割方、返事はない。
今日の朝はここから狂いだした。
千年リングから、ふわりと影が現れて獏良の肩に優しく手を回し、甘い声で囁いた後、頬に唇を押し付けられた。
短い間の出来事だったので、すぐには気がつかなかった。
ぼーっと感触のないキスを受け入れ、そこで気付く。
おかしい。
こんなに甘々なわけがない。
というか、バクラが頬にキスで終わるはずがない。
絶対、唇を吸い上げられ、服の中に手を入れられて脱がされる。
そして、囁かれた言葉……。

「おはよう、相棒」

『相棒』?
疑いながらも目を向けたそこには、見慣れた姿とは違った男。
じっと見つめ合い、大きな間違いを同時に認識した。

「「うわあああぁ!」」

「何故、獏良くんが!?」
「それはこっちが聞きたいよ!なんで千年リングから遊戯くんが出て来るのさ?!」
獏良の言葉に、もう一人の遊戯はきょろきょろと辺りを見回して、
「獏良くんの家か?」
やっと状況を把握した。
「もう一人の遊戯くんがここにいて……あいつはどうなっちゃったんだ?」
「オレがこっちにいるということは……千年パズルはどうなったんだ?」
二人は腕を組んで、うむむと考え込む。
何しろタイミングが悪すぎる。
今日は遊戯と獏良が遊びに行く日なのだから。
「あ……。今日のことで色々とあいつと言ってたみたいだけど……何かした?」
「何もしてないぜ。バクラが獏良くんのところにいなかったら良かったとは思ったけどな」
「そんなことをあいつも言ってたよ……無茶苦茶だけどね……あっ?」

双方がお互いをいなければ良いと思った。
そして遊戯が千年パズルから離れてしまったということは…その願いが叶ってしまった?
入れ代わるという形で。

「千年パズルの方にあいつがいるってこと?」
「その可能性は高いな。確かめる為に相棒のところへ行った方が良いぜ……」
そこで遊戯の瞳がかっと開かれる。
「どうしたの?」
「相棒がヤツと一緒……?あの鬼畜男と一緒?……うわぁあああ!相棒が……相棒がヤツに食われる……!」
初めて見る取り乱した闇遊戯に、少しうろたえつつも獏良は必死になだめた。
「落ち着いて、遊戯くん」
「相棒が……あんなことやこんなことされる……!貞操が奪われてしまうぜ!」
聞く耳を持たずに、ぶんぶんと頭を振り回す。
「大丈夫だって!っていうか、自分の妄想で息が荒くなってるよ!」
妙に冷静なつっこみを入れる獏良。
「獏良くん!相手はヤツだぜ?!今までヤツがしてきたことを思い返してみろよ」
急にぐるりと振り返り、涙目で獏良に訴えかける。
「いくらあいつだってそんなことは……」
と、言いつつも、今まで自分がされてきたことを思い出すと、答えは一つしか出なかった。
「するね!」
「そうだろう?ああー、あいぼー!」
「大丈夫だって。もしものときには……どうしたら良いか、僕はよく知ってるから……」
獏良は悟った目で優しく闇遊戯に話しかけた。
「うわぁああ!……苦労しているんだな、獏良くん」

「遊戯くんって、朝はいつもあんなことしてるの?」
武藤宅へ向かう途中で、ふとした疑問を闇遊戯にぶつける。
「ああ。モーニングキスは絶対的に必要なコミュニケーションだぜ」
「なんだか物凄くロイヤルって感じだね」

「ホント、どうしたら良いのかな」
「とにかく、向こうの様子を知ることが先だ」
初めは驚きはしたものの、意外にも落ち着いてバクラと遊戯は状況判断を下していた。
冷静に向き合えば、バクラとはきちんと話し合えるのだと新たな発見をして、遊戯は新鮮な気分になっていた。
バクラにしてみれば、因縁があるのは闇遊戯の方なのだから、今この状況で遊戯に食ってかかるメリットはない。
「じゃあ、獏良くんの家に行くってことで決まりだね」
「ああ。早くしねぇと……」
遊戯はバクラの跳ねた前髪が、ぴょこんと更に逆立つのを確かに見た。
「あいつにオレ様の宿主が足腰立たなくなるまで責められるッ」
「落ち着いてバクラくん。もう一人の僕はそんなことしないって」
とんでもないことを言い出したバクラに、赤面をしながら遊戯が止めに入る。
「遊戯、よく覚えときなぁ。王様って奴ぁ、指一本で道行く愚民どもを引ん剥くことが出来るんだぜ」
「それは……極端すぎだよ……」
――バクラくん、いつもの……ううん、それ以上に激しい。
遊戯はひくひくと顔を引き攣らせた。
暴走したときのもう一人の自分に、どこか通じるものがあると思いながら。
「急がねぇと……」
焦るバクラと遠い世界へ引いてしまった遊戯の耳に、
「バクラァア!出て来い!そこにいるのは分かっているんだぜ!」
「大人しく出て来ないと、地獄に叩き落とすだけじゃすまさないよ!」
背筋も凍るような怒りの声が外から届いた。


「デート」の続きの話。
バク獏+闇表を目指したハズが、妙な方向へ……まだ続きます(笑)。

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風邪

「……ハァハァ」
ベッドの上で獏良は荒く息を吐き、時折苦しげに咳込んでいた。
ベッドから起き上がる気力も体力もない。
昨晩に発熱したので市販の薬を飲んで早めに就寝したのだが、朝になっても良くはならず、むしろ悪化していた。
近頃風邪気味だと思っていたのだから、早めに病院に行っておけばよかったと、いまさら後悔してももう遅い。
とても一人で病院に行ける状態ではない。
学校に欠席の電話すらしていないのだから。
加えて、昨日の夜から飲まず食わず。
仮に目の前に食物があっても、とても食べる気にはなれないだろうが。
まさに最悪の状態だった。
バクラは喘ぐ獏良に何もせず、ただ黙って見守っていた。
身体がないのだから、「何も出来ない」が正しいだろう。
苛々と腕を組んで眉間に皺を寄せていたが、急に獏良の元に寄り、顔を近づけて話しかけた。
「宿主、代われ」
少しの間、沈黙があり、
「……ヤ、ダ……ゴホッ」
掠れた声が返ってきた。
「代わるぞ」
静かに、しかし強い口調でバクラが言った。
「つら……い、よ?」
涙ぐんだ瞳をうっすら開け、獏良が声を絞り出した。
バクラはそれに黙って手をかざす。
「奥で休んでな」
獏良の意識が遠ざかり、代わりにバクラが身体の主導権を手に入れた。
「ゴホッ」
急に身体が重くなり、意識が朦朧とする。
こんなになるまでよく放置していたものだ。
獏良の耐え性が悪影響してしまったのだろう。
ふと、汗ばんだ身体を見れば、その細さに改めて気付いて驚いた。
簡単に折れそうな身体だが、そうさせるわけにはいかない。
ふらつく身体を支えながらバクラはベッドから出た。
まずは水分を取らなければ。
『ありがとう』
そう聞こえたような気がした。


代われるものなら代わってやりたいが出来る二人へ。
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悪夢

嫌な夢を見た気がした。
よくは覚えていないが、ひたすらもがいていたような気がした。
獏良は目を開けて布団の中で縮こまった。
夢の内容はどうにも思い出せないし、思い出したくもないので、考えることはやめにした。
ただ、恐い。
目の淵には涙が溜まっていた。
まだ深夜だろう。
眠らなければならない。
でも、また悪夢を見るかもしれないと思うと、目をつむれるわけがなかった。
こんな時、一人暮しが嫌になる。
広い家の中でぽつんとたった一人。
周り全てに気が許せなくなり、周り全てが牙を剥いてくるように感じる。
ただ、ベッドの中で怯えているだけ。
「どうかしたのか?」
突然降ってきたバクラの問いに、獏良は平常心を精一杯装って答える。
「ゆめ……夢を見た。あまり良くない夢だった」
しかし、自分でも可笑しくなるくらいに動揺が声に表れていた。
「そうか」
不思議と話していると落ち着いた。
それは、ここにいるのが自分一人だけではないと、認識するからなのだろうか。
獏良は枕元にある千年リングに手を延ばし、ぎゅっと握りしめた。
「眠れないのか?」
「うん」
虚勢を張っても無駄だと悟り、素直に頷く。
「そうか」
バクラがふわりと宙に姿を象ると、布団の上から獏良に覆いかぶさった。
周りの闇から獏良を守るように。
重みも感触も全くしないが、暖かく包まれているように感じた。
「バクラ……?」
「眠れよ」
「うん」
いつになく穏やかなトーンで囁かれ、獏良は赤子のようなあどけない微笑みを返した。
安心感から、ゆっくりと訪れる睡魔に身を任せる。
眠りに落ちるまで
幸福な夢まであと少し


優しすぎるかなと思いつつも、優しくしてもバチは当たらないやとゴリ押しで。

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