ばかうけ

祭・その一

「にぎやかになったものだね」
獏良は童実野町で開催された祭に来ていた。
日はとっくに落ちたが、祭特有の活気が溢れ、夜だというのに暗さは全く感じられない。
昼間に感じられなかった賑やかさが心を弾ませる。
「何処の店から行こうか」
獏良はこっそりと、見えない連れに話しかける。
出かけると言ったときには気乗りしてしない様子だったが、祭という未知のイベントにバクラの興味があちらこちらに向けられているようだ。
やがて、華やかな浴衣を身にまとった少女たちに、バクラの視線が向けられた。
「あー、浴衣?着物の一種で……夏に着たり、祭にはかかせないかも」
バクラの思考に素早く気付いて獏良が解説をする。
「お前は着ないのか?」
「え……?」
思いもしなかった問いに、獏良は少しうろたえた。
「え……っと、持ってないから……小さい頃に何度か着たきりだし」
「そうか…」
バクラが獏良の言葉に頷く。
心なしか声が一トーン下がったようだ。
「?なんで、ちょっとうなだれてるの?」
「なんでもない」
そう言うバクラの跳ねた髪がしなりと下がっていた。
「え?なんでちょっと元気ないの?」
「気にすんな」
瞳に陰りがさしている。
「何か気に触ったことでもあった?」
優しくバクラの不調を気にする獏良に、
「うるせぇな」
バクラはただただ悲しげに首を横に振った。


祭りで一まとめにした小話です。
単品でも読めるように書きましたが、一応続いてます。
浴衣(というか着物)っていろっぺーですよねー。
宿主さまにも着てもらいたかったバクラ。着たとしても、男物なのに。
微妙にかみ合ってない二人です。

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祭・その二

獏良は夜店の並びの一軒を見ていた。
騒音のする機械から、もくもくと白い綿のような物体がわき出ている。
店員は割り箸でそれを絡め取って形にしてゆく。
「なんだ、アレは」
訝しげにバクラが呟く。
「綿飴。砂糖を熱して引き伸ばしたお菓子だよ。……一つ下さい」
「あいよ」
店員が出来上がっているものの中から一つを取って獏良に手渡した。
「食べてみる?」
ビニール袋をはぎ取り、剥き出しになった綿菓子を口に近付けてから獏良が言った。
「上手く食べないと、口の周りとかがべたべたしちゃうから気をつけて」
言われるがままに、バクラは綿菓子に口をつける。
「……」
「どう?」
綿菓子は口に入ると同時にじゅわりと溶け、舌に甘さだけが残る。
「ただの砂糖じゃねぇか。面倒くせぇことしないで、そのまま食った方が早い」
バクラは率直な感想を述べただけなのだが、獏良は気に入らないらしい。
「美味しかったとか、そういう感想はないの?」
口を尖らせ、バクラを軽く睨む。
「美味かったというより、甘い」
「そりゃ、砂糖なんだし……不風流だなぁ」
獏良は綿菓子をじっと見つめ、
「カタチを楽しむものなんだと思うよ」
くるくると綿菓子を回した。
「それ、食わないならもらっちまうぞ」
「え……うん、良いよ」
獏良は少し驚いた後に、にこりと笑って頷いた。


このシリーズはバクラに初体験をいろいろさせるがコンセプトでした。
これはお祭りの定番、綿飴。

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祭・その三

「次は射的っ」
大きなピストルを抱えて獏良が意気込んだ。
「おいおい、大丈夫かよ」
あまりにも頼りない姿に、さすがのバクラも声を上げる。
「久しぶりだけど、一発は当ててみせるよ」
そう言いながら、玉をピストルに詰めた。
「後ろに向かって打つなよ。自分に向かって打つなよ」
いつになく獏良を気にかけるバクラ。
「そこまで間抜けじゃありません」
心外だなと獏良は呟くが、その手つきは心許無い。
狙いを定め、引き金を引いた。
ぽん
やや軽い音がして、弾が飛び出す。
なかなか狙いは良かったが、景品には当たらなかった。
「あー、惜しい!」
「そうかぁ?」
バクラの憎まれ口には構わずに、もう一度打ち出した。
はずれ。
「最後の一回ッ」
ぽん
コツン
箱型のお菓子に命中し、台から揺れ落ちた。
「やったー」
元は取れていないが、当たると何となく得をした気になるのが射的。
獏良は満面の笑みで店員からお菓子を受け取った。
「代われ」
「はいはい」
獏良は小銭を払ってから、おとなしく引っ込むことにした。
射的の手順は今の一回で覚えてしまったらしい。
澱みなく玉をピストルに込める。
すっと構え、無駄のない動作で打つ。
ぽん
玉は獲物の斜上に当たった。
当たった獲物は、ゆらゆらと揺れてから倒れる。
二度三度と、コルクを詰め直し、迷いなく引き金を引く。
ぽん
ぽん
今度は見事に獲物のど真ん中を捕らえる。
景品は宙を舞い、棚から落ちる。
両方ともなかなかの大物だ。
「いきなり上手くなったなぁ、兄ちゃん」
店員も舌を巻く。
身体の主導権を再交代した時には、獏良の腕にどっさりと抱えられた景品の山があった。
「すごいっ。お前ってひょっとして、器用貧乏?」
獏良の心ない一言に、かくんとバクラの膝が抜ける。
「てめぇ、ケンカ売ってんのか」
「あはは、冗談。冗談だよ。ありがとね、バクラ」
今度は手放しに褒める獏良に、バクラは所在無さげに後ろ頭を掻いた。


祭がテーマなら、射的でかっこよく打ちまくるバクラが書きたいと思ってたのでウキウキでした。
宿主さまにプレゼントをあげたつもりのバクラ。照れ屋さん。

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