祭・その四
「せっかくだから、お参りしていこう」
獏良はそう言って、参拝の列に加わった。
大勢の老若男女が金を賽銭箱に投げ入れ、神妙に祈りを捧げている。
「二人分ね」
獏良は財布から五円玉を二枚取り出すと、賽銭箱に投げ入れた。
獏良は手を合わせ、目をつぶる。
――願うって、何を願えっつーんだよ。このオレ様が。
獏良に目を向けると、何かを懸命に祈っているようだった。
じっとバクラが見つめていると、再び大きな瞳が開かれた。
慌ててバクラはあさっての方向を向く。
「何を願ったんだ?」
「ん……内緒だよ。バクラは?」
宿主の顔を眺めていて、願ってない……と、バカ正直に言えるはずがない。
「お前が言わないのに、オレ様が言うわけないだろ」
「それもそうだね」
本当は何を考えて、願ったのか聞きたかった。
バクラなら無理にでもそれを知ることが出来るのだが、それはしたくはない。
反則だ。
「ん?」
じっと獏良の瞳に見入ってしまっていたので、獏良が笑みを浮かべたまま首を傾げる。
「そんなに知りたい?」
バクラは肯定も否定もしなかった。
「んー……」
獏良は唸りながら人込みの中を巧みに避けて拝殿から離れる。
バクラから離れたところで、くるりと振り返り、にこりと笑いかけた。
その頬はほんのりと赤く染まっていた。
「……って、結局なんなんだよッ」
お祭りシリーズです。
願い事の内容は何であれ、もちろんバクラのことですv
くるりふわりと振り返させたくてしょうがなかったお話(笑)。
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祭・その五
祭とは打って変わり、帰りの夜道は人通りが少なく、どこか寂しい気分にさせられた。
祭の熱から落ち着くには、このくらいが良いのかもしれない。
「久々のお祭、楽しかったー」
祭の獲得物が入った袋をぶらぶらと揺らし、獏良が満足げに言った。
「良かったのか?」
「何が?」
「あいつらと行かなくて」
あいつらとは、遊戯たちのことを指す。
思い返してみれば、獏良は遊戯たちと学校で祭がどうのと話していた気がする。
友達数人と行く予定だったのではないだろうか。
自称・宿主思いのバクラとしては、友好関係が気になるところだ。
「遊戯くんたち?会わなかったね。会うかもって思ってたんだけど……」
「そうじゃねぇ」
言葉が上手く伝わらなかったと、バクラがイライラと否定をする。
「良かったんだよ」
間髪をいれずに獏良が言葉の続きを紡ぐ。
「トクベツな祭を孤独に満喫してかぁ?」
「んーん、一人じゃなかったよ、ね」
獏良がバクラを見つめて笑いかける。
「お祭、楽しかった?」
いつになく無防備な獏良に戸惑いを覚えるバクラ。
「退屈凌ぎにはなったんじゃねぇの」
それだけ言ってバクラは押し黙ったが、
「そう……良かった」
獏良は嬉しそうに頷いた。
「また行こうね」
バクラは獏良の横顔をじっと見つめていた。
お祭りシリーズ終わりです。
お祭りの後の帰りの静かな雰囲気好きなのです。
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酔いどれ
「獏良、はいよっ」
突然、城之内から獏良に缶が突き出された。
「?ありがと」
とりあえず礼を言って受け取って缶に目をやると、そこにははっきりと書かれた"アルコール"の文字。
「お酒だよ、これ」
「んー。余ったからやる。お前もたまにはハメを外してみ」
ひらひらと手を振って分かれようとする城之内に、獏良は呆れ顔で見送った。
ぷしっ
涼しげな音と共にプルタブが開いた。
獏良はアルコール類を飲んだことがほとんどない。
祝いの席でだったり、味見程度だったりで、酔うという状態までにはなったことはない。
「家だし、良いか」
軽い気持ちで缶を口まで持っていく。
「おいしい」
さっぱりとした味わいの液体が喉を流れていく。
千年リングは昏々と眠り続けていたので、獏良の一連の行動を見ていなかった。
バクラが目を覚ますと、頭を垂れた獏良の姿があった。
「宿主?」
具合でも悪いのかと声をかけると、ぱっと顔を上げて獏良がにへりと笑う。
「あー、バクラァ」
赤く染まり締まりのない顔に、一瞬熱でもあるのかと思った。
しかし、無造作に置かれた空き缶が目に入り、そうではないと気付く。
「お前、酔ってんのか?」
「ううん。酔ってないよ、ないよー。……あ、やっぱり酔ってるかなぁ~あはは」
何がおかしいのか、けたけたと笑う獏良の姿に自然と溜息が出る。
「よくこれだけで酔えたな」
「美味しかったの、ふふふっ」
すっかり無防備になってしまった獏良が可愛らしく小首を傾げる。
「キャラが違うぞ、お前」
くらくらと眩暈を感じながらも、つっこむことを忘れないバクラ。
獏良はバクラに向かって、にっこり笑いかけた。
「バクラー好き」
「はっ?」
ありえない言葉に耳を疑った。
しかし獏良は、
「好き。好き。大好きだよぉ」
バクラの方に両手を延ばし、甘えた声で何回も繰り返した。
「この酔っ払いが」
そういうのはシラフのときにしろよとバクラが呟いた。
正常ではない獏良にそんなことを言われても劇的な嬉しさはない。
オイシイといえばオイシイが。
ほんのり赤く染まった肌に潤んだ瞳の上目使い。
本当なら据膳も据膳、むしゃぶりつきたい程のご馳走だ。
「バクラーッ」
「よせっ」
とうとう獏良が飛びかかるようにしてバクラに迫った。
が、当然バクラの身体をすり抜け、獏良はソファに頭から突っ伏す。
「むー」
それきり獏良が起き上がることはなかった。
バクラが顔を覗きこむと、幸せそうな笑顔で眠りこけていた。
「一生分の告白を受けたみたいだな」
獏良を見下ろして、バクラが苦笑した。
これは楽しんで書いたんでしょうね(笑)。
了くんがラブラブビームを出すのはこんなときくらいかなと思いまして。