ばかうけ

君はまるで鳥のようだ。

「よし、ここで起死回生の罠カード発動だ!」
「そうはいかないぜ、城之内くん」
遊戯は素早くカードを開き、城之内の戦法を返り討ちにする。
城之内に残された術はなかった。
「あちゃー。これでオレの負けか」
城之内ががっくりと机の上に倒れ込む。
「これで何敗目だっけ?城之内~」
観戦していた杏子が心底楽しそうに訪ねた。
「うるせぇ」
城之内が拗ねた顔をした。
カードを片付けながら、遊戯はその様子に薄く笑みを浮かべた。
まだまだ粗い戦術で遊戯には届かない。
でも着実に、遊戯に向かって一歩一歩近づいてきている。
戦うとそれが手に取るように分かるのだ。
もしかしたら、城之内の未完成で必死でがむしゃらな戦い方こそ、敵を打ち破ってきた強さなのかもしれない。
それはまだ雛鳥が覚束ない羽ばたきで空に向かっているのに似ている。

君はもっと高く飛べるはずだ。
もっと……。
オレの元に早く飛んできてくれ。

「しっかし、遊戯は強ぇなぁ」
学校の帰り道、二人は並んで歩いていた。
「何言ってるんだ。良いところまでいってたじゃないか」
本当にそう思う。
遊戯は手放しで城之内を褒めた。
それほど城之内は強くなった。
M&Wを始めた頃とは比べものにならないほど。
「いや、まだだ」
シャドウボクシングをするように拳を前に突き出して城之内は言う。
「まだなんだ。今までオレが勝てた奴らとだって、もう一回やったら、どうなるか分かんねぇ。あいつらもまだまだ強くなるに違いねぇから、オレは戦ってそれより強くなんなきゃいけないん だ」
それまで前に向けていた拳を今度は斜め上――空に向かって突き出す。
「いくら負けたって、這いつくばって登っていってやる。強くなれるなら何度負けたって構いやしねぇ」
遊戯は黙って聞いている。
「この拳の先にはお前だっているんだぜ」
城之内が言って、からからと笑った。
遊戯は黙ったまま……いや、言葉を発することも出来ずに、ただ足を動かしていた。
横から頭を殴られたような衝撃があった。
なんて自分は愚かしいのか。
前に孔雀舞が「城之内は負ける強さを知っている」と言った。
その通りだ。
遊戯が思っているよりも城之内はずっと強い。
なんて思い上がりも甚だしい。
掌の上で羽ばたいていたのは自分。
高く飛んでいたのは城之内。
全てのしがらみを解き放ち、こんなにも自由に伸び伸びと飛んでいるではないか。
その姿を指をくわえて見ているだけの自分。
どんどんと遠くへ、見えないところまで行ってしまう。
遊戯を置いて。

城之内くん

城之内くん

行かないでくれ……

「おい!遊戯?」
突然肩をぐいと掴まれる。
なすがままに遊戯は城之内に身体を向けた。
「お前……泣いてる?!」
「え?」
城之内の言っている意味が分からずに呆けた。
手を顔に持っていくと、肌に触れる前に掌にぽたりと雫が落ちてきた。
「あ……なんだ……コレ」
それは間違いなく涙だった。
遊戯の両の瞳から溢れ、つうと頬に伝っている。
「遊戯?」
さすがに城之内が心配げに遊戯を見つめた。
その瞳に吸い込まれるように、遊戯は城之内の胸にしがみついた。
「おお?!」
突然のことに城之内はバランスを崩すが、倒れる前に何とか持ちこたえた。
「ずっと……ここにいてくれ」
ぽつりと囁くように遊戯が呟いた。
「ん?何か言ったか?」
当然、城之内の耳に入るはずもない。
「いや……なんでもない」
顔を上げずに遊戯が答える。
今の自分の情けない顔を見せるわけにはいかなかった。
「……」
城之内はしばし困り顔をして、
「遊戯……オレは力になってやれねぇかもしんないけど……」
ぽんと遊戯の肩に手を置く。
「オレたちはずっと一緒だ」
それは、目の前で困っている友に送る不器用な言葉。
それでも、それは遊戯にとっては力強い言葉だった。
遊戯はふっと笑って、まだ涙の残る顔を上げた。
城之内はどきりと身を堅くした。

――こっちの遊戯は……なんか変な色気があるよな……。
――いや!遊戯はダチだろ!ダチ!
思わず見とれてしまう自分を叱咤する。

城之内の心の葛藤は包み隠さず顔に表れた。
「はは、そうだな。オレたちはずっと一緒だ」
意味ありげに笑いながら遊戯が言った。
「?……おう!」
どこかおかしい遊戯に首を傾げるも、城之内は追及をしない。
「城之内くん、これからオレのウチでデュエルしないか?」
「お?やるぜ!」
デュエルという単語に城之内はぱっと顔を輝かせた。
「何を隠そう、新しい作戦を立ててみたんだ」
「それは楽しみだな」

君は鳥。

大空を自由に羽ばたく鳥。

君とならどこまでも飛んでいける。

「それじゃあ行こうぜ」
二人は並んで再び歩き始めた。

どこまでも……

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初めての王城…といっても、まだ出来上がってもいなくてごめんなさい。これからラブラブになっていくんですよ、きっと(無責任)。
アニメで泣いた闇さまが、私の色んな意味でのトラウマになってるみたいです(笑)。バクラが泣かないので新鮮でした。
エイさん、遅くなってごめんなさい。それと、楽しかったですvご注文、ありがとうございました!

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