「でな、新しく買った魔法カードを入れてみたワケよ」
城之内が机の上にカードを並べる。
「わあ、随分バランスが良くなったね。城之内くんのデッキ」
「今までのが悪すぎたんじゃないのか」
歓声を上げている遊戯以外は、盛り上がりに欠けた目でカードを覗き込んでいた。
「うっせぇ、本田ぁ!ンなこと言ってるのも今のうちだぜ。このデッキの威力を見てビビるんじゃねぇぞ。なあ、遊戯?」
城之内に同意を求められ、遊戯は素直に頷く。
「ウン。これなら充分、もう一人の僕のデッキに負けないと思う」
「へへーっ、そうかー」
得意げに城之内が鼻を擦る。
普段ならここで闇遊戯と交代するところだが、遊戯は逡巡した。
今日はきっと良くない。
そう判断して、遊戯は心を決めた。
「遊戯、もう一人の遊戯はどうしたの?」
杏子が不思議そうに尋ねて来る。
いつもなら「オレだって負けないぜ」などと、闇遊戯が表に出てくるはずだから、疑問も当然だ。
「あー……うーん」
問いの答えに詰まりは見せたものの、
「なんだかね、昼寝中みたいなんだ。遅くまで戦法を練ってたみたいだから」
自然な形で返せた。
「ちぇ。羨ましいぜ。こっちは授業できついっつーのに」
口を尖らせる城之内に、獏良がにこやかに笑いながら、
「城之内くんだって人のこと言えないよー?」
と言うと、
「違いねぇ」
「そうよね!」
本田と杏子が口々に同意する。
その様子に、遊戯は控えめに微笑みを浮かべた。
闇遊戯はしっかりと今のやりとりを見ていた。
表に出る覚悟はしていたのだが、遊戯の配慮によって何とか免れた。
闇遊戯は見上げる。
心の果てしない迷宮を。
不意にどうしようもなく不安になるときがある。
自分の存在が酷く不確かで、捉らえようがないと感じたときだ。
確かに闇遊戯は武藤遊戯のもう一人の自分であり、一つの人格だ。
しかし、自分が何者であるのか分からなくなる。
アイデンティティが揺るぎ、自分でもどうにもならないほど不安定なってしまうのだ。
そんな時は迷宮の中心で立ち尽くすしかない。
自分は何処へ進んだら良いのか、ずっと考えながら。
このことを遊戯には一言も言っていない。
しかし察して、ああやって気を遣ってくれた。
遊戯には自分の心情を綺麗な程に見抜かれてしまう。
自分でも上手く表現出来ない深い部分まで。
「相棒には勝てないぜ」
ぽつりと闇遊戯が呟いた。
「何が勝てないの?」
突然かけられた声に、闇遊戯はびくりと身体を震わす。
「うわああぁ!相棒ッ?!」
遊戯が微笑みを浮かべて、闇遊戯の後ろに立っていた。
「どうしたんだ?授業はまだ終わってないはずだぜ」
「うん。終わってないよ。寝ていた罰で城之内くんがみんなの分までノートを取ってるんだ」
だからって相棒が授業をサボっていいはずないぜと言い返そうとしたがやめた。
こうして遊戯が来たのは、闇遊戯のことを気にかけての行動だろうから。
「相棒は凄いな。相棒には隠し事一つ出来ない気がするぜ」
降参とばかりに力を抜く闇遊戯に、遊戯は首を振った。
「そんなことないよ。君はもう一人の僕だけど、君は君でしょ。君の心まで読めないよ」
確かにそうだと、闇遊戯は頷いた。
どんなに二人の距離が近くても、あくまで遊戯は遊戯、闇遊戯は闇遊戯なのだ。
「相棒は、オレのことをよく分かっていると思うぜ」
「んー……」
遊戯は困ったように笑った。
どう言葉にしたら良いか、考えあぐねているような顔だ。
「例えばさ、君の心が知りたくて、君の心の部屋の壁に耳を当てて聞こうとしても何も聞こえない。当然だよね。でも、僕は君のことを知りたいから」
遊戯が愛らしくはにかむ。
「知りたいから、感じ取るんだ。君が何を考えてるのか、どんな気持ちなのか、感じるんだよ」
「オレには感じ取れないぜ。オレも相棒のことを知りたいと思っているのに」
簡単に言う遊戯に、闇遊戯は肩を落とす。
思いの差を見せ付けられたような感じがした。
遊戯のことは何よりも大切だと思っているのに。
「なに落ち込んでるのさ」
おかしくて堪らないというように、くすくすと笑いを漏らしながら遊戯が言った。
「相棒が出来て、オレが出来ないのは相棒に悪い気がするぜ」
どこか拗ねた口調の闇遊戯を可愛らしく感じたが、遊戯は指摘をしなかった。
「だってさぁ、君ってば鈍感だもの」
あっけらかんと言う遊戯に、
「どんかん……!」
稲妻のような衝撃を受けた。
遊戯はその様子にあははと笑いながら、
「君はそれで良いんだよ」
闇遊戯の背中にぐるりと回る。
「あ……相棒?」
「君は前を見てるだけで良い」
ぽんと肩を押して、闇遊戯を前に押し出す。
「僕がこうやってついてるから」
後ろから闇遊戯の首に抱きついた。
最初は呆気にとられていた闇遊戯だが、
「それは頼もしいな」
にっこりと微笑んだ。
暗闇の中を闇遊戯が歩いているなら、それを導くのは光をまとった遊戯だ。
きっと正しい道を指し示してくれると信じている。
信じられる。
"相棒"ならきっと。
遊戯と共になら、どこまでも強くなれると、温もりの中で闇遊戯は思った。
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初めて闇表…!
エイさん、ご注文ありがとうー!新鮮な気分でしたー!
色々分からないことだらけでしたけど、
信頼とか素直とか、そういうイメージがあったので、呪文のように唱えて書いてました。
そうなってると良いです。