ばかうけ

「さてと、始めるよ」
獏良が大振りのハサミをじょきじょきと開閉する。
「大丈夫なんだろうな?」
単なるハサミでもバクラにとっては、物騒な刃物を目の前でちらつかされていることに他ならない。
顔を引きつらせて獏良の一挙一動を睨み付けていた。
「任せて!」
高らかに宣言すると、背中まで伸びきった白い髪にハサミを入れる。
バクラは髪の手入れなどしたことがなかった。
伸びて邪魔になれば、自分で適当に切るぐらいだ。
獏良が切ってあげるなどと言い出さなかったら、当分は伸ばしっ放しになっていただろう。
チョキチョキチョキ
獏良の白く細長い指がバクラの髪を優しく梳く。
どうにもむず痒さを覚えたバクラは頭を小さく振った。
「ああ……もう動かないでね」
指が背後からバクラの頬に触れる。
「失敗したらどうするの?」
動くなと言われても、ずっとじっとしているのは難儀だ。
優しく触れられていると、余計な思考が湧いて出る。
「汚くないか?オレの髪」
洗髪はときどき水洗いで済ませるだけだ。
そんな埃まみれの髪に、汚れを知らないような手が触れるのは気が引ける。
二人の髪は同じ色だが、獏良の髪の方がずっと柔らかそうに見える。
「んー、どうして?僕は君の髪、綺麗だと思うけどな」
「目立つだけだぜ」
規則正しいハサミの音が部屋に響く。
バクラは決して自分の髪の色を毛嫌いしているわけではなかった。
ただ職業柄、目立つために隠す必要があり、自分の髪ながら厄介だと何度もぼやいてきた。
それを綺麗だと言われても、素直に頷けるはずがない。
獏良は髪を撫で、柔和な笑みを浮かべる。
「ほら、日光に当たると、きらきら光って綺麗だよ。太陽の色に染まってる」
「そうか?」
手放しの称賛が耳をくすぐる。
「自分じゃ見えないだろうけどね。……ハイ、出来た」
毛屑を手で払い、ぽんと獏良が背中を叩いた。
気付けば、ずっと頭が軽くなっていた。
バクラの髪は多少ばらつきがあるものの、肩までの長さに切り落とされていた。
「う……ちょっと、失敗したかも」
納得がいかないのか、顎に手を当てて獏良が唸った。
「気にすんなよ」
椅子から立ち上がり、赤い衣を翻し、
「オレ様は気に入ったぜ」
バクラが上機嫌ににかっと笑う。
「そう?良かった」
確かにさきほどよりも、今の髪型の方が似合っていた。
「リョウ」
バクラが獏良の髪を一房摘む。
「オレ様もお前の髪の色、好きだぜ」
至近距離で囁かれた獏良は、思わずハサミを取り落とした。
そして、辛うじて絞り出した声でこう言った。
「……アリガト」

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某さんとメッセをしているときに出来た小ネタを書いたものです。
こういう流れだったかと……盗賊王愛!→盗賊王はフードを取ったら実は短髪だった→長い時もあったかも→宿主さまが切れば良いじゃない!
某さんによると、切ってもらった髪を一房、懐に忍ばせてるそうです……胸キュン。

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