ばかうけ

*原作のバトルシティが終わった直後だと無理矢理思って下さいませ


「おー、デュエルだー!」
「先生が止めに入るんじゃない?」
終礼が終わり、生徒たちが自由な時間を各々過ごす中で、数名が窓から身を乗り出していた。
この前、大々的に開催されたばかりのバトルシティのお陰で、若者のデュエルへの興味は飛躍的に高まっている。
「デュエル」という単語から、獏良もちらりと窓の外に目を向ける。
校門周辺に群がるデュエリストたちと、たった一人で対峙していたのは城之内だった。
「な……」
まさか、騒ぎの張本人が友人だとは思っていなかったので、獏良はあんぐりと口を開けた。
バトルシティを勝ち残った城之内は、今や押しも押されぬデュエリストなのだから、挑戦状を叩き付けられるのも珍しいことではないのかもしれない。
「学校はマズいよ、城之内くん」
帰り支度はとっくに済ませていたので、帰るのか、この騒ぎの顛末を見届けるか非常に悩ましい。
「さっさと帰れ」
愛想のない声が唐突に獏良の耳に届く。
学校にいるときにバクラが声をかけてくることは珍しい。
しかも、バクラには関係ないことでだ。
「なにさ、急に」
ただ黙って従うのは釈然としない。
獏良は口を尖らせる。
「今日はおとなしく帰れ」
「今日は?」
何か変だなと、言葉には出さずに訝しむ。
もう少し反応があっても良いものなのに、今日のバクラは素っ気なかった。
本気で怒っている時の反応に似てはいるが、それとは少し違う気がした。
「ん……」
小さく頷くと、獏良は席を立った。
正門はとても通れる状態ではなかったので、裏門を抜けて学校を出る。
「買い物に行きたいんだけど……」
バクラの様子を探るように話を切り出すが、
「ダメだ」
先ほどと同じような調子で返されてしまう。
なんなの?
そう口に出したくても、出せる雰囲気ではない。
押し黙ったまま、自宅へと辿り着いた。
――説明くらいしてくれたって良いのに……。
洗濯物を取り込もうと、ベランダに出た。
暖かい太陽に照らされるはずが、ひんやりと冷たい外気に触れる。
まだ日の入りではないはずなのに暗い。
空を見上げると、ずっと遠くから暗い闇がゆっくりと浸食をし始めていた。
「何これ……」
洗濯物の存在も忘れ、呆然とその光景を見つめた。
闇がじわじわと空を端から飲み込んでいく。
光が徐々に消えていく。
「始まったか」
何処か遠い目をしたバクラが、獏良の隣りに姿を現していた。
「お前、あれが何だか知ってるの?」
静かな視線が獏良へと向けられる。
「知らねぇ」
――まただ。
また、何か引っ掛かりのある音階。
「知らないけど、想像はつくとか?」
獏良の言葉にバクラの口の端が上がった。
決して喜びのせいではない。
ずっと考えていたバクラの言葉の裏の意味が、ようやく少しだけ分かった気がした。
「遊戯……くん……?」
バクラが怒りに似た感情を抱く人物は、獏良の思い付く限り一人しかいない。
「遊戯くんに何か関係あるの?」
バクラの返答はない。
しかし、それが肯定を意味した。
遊戯に関係があるとすれば、暗闇の空の先にあるものは……。
「海馬ランド……海馬ランドで何が起こってるの?」
「知らないと言っただろう。オレには関係ないことだ。遊戯の奴に何があろうとな」
表情とは真逆に、底冷えするような声色が獏良の耳を吹き抜けた。
「お前には関係なくても、僕にはあるんだ。遊戯くんに何かあるんだったら行かなくちゃ」
弾かれたように、玄関に向かおうとするが、
「あ……」
意思に背き、足が止まってしまった。
「やめとけ」
体の自由をバクラに半分奪われた。
「でも、行かなくちゃ……」
「お前が行ったって、何か変わるわけじゃない」
獏良の内心の焦りとは対極的に、バクラは冷ややかな態度だ。
「なぜそう思うの?」
「『分かる』」
獏良には何も分からないが、バクラは確かに何かを感じ取っているようだ。
それは、ほとんど根拠のないものなのかもしれない。
「でも、友達だよ?」
半ば懇願するように呟くが、バクラの意思を曲げるには敵わない。
「おとなしくしてろ」
獏良は深く息を吐いて全身の力を抜いた。
「僕に出来ることは、何もないんだね」
念を押すように獏良がバクラを見つめた。
「……分かった」
悲哀の色に染まった瞳に、雫が零れ落ちんばかりに縁に溜まる。
バクラは親指で涙を拭き取る仕草をした。

空からますます光が消えていっている。
闇の力を肌で感じながら、バクラはベランダに佇む。
心の奥底で獏良は眠りについていた。
「こんなところでくたばるくらいなら、オレが手を下す価値もねぇよなぁ、王様よぉ」
射抜くような眼差しで、バクラは空の向こうの名も無き王を見据えた。

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映画を見ながら、了くんは何をしてるのかなぁと想像するのが面白かったので、書いてみました…
が、よくよく考えてみたら、バトルシティ編の直後って…
失念してました(笑)!
原作じゃないと成り立たないの
映画をやった時期が時期だから、忘れててもしょうがないって…と言っておきます。

この映画、アクナディンとかセトとか関係あるって、小説版を読んで知った…と思うんですが、映画でそこまでやったのか、それもすっかり忘れてます(見返さなきゃ);

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