前日は午前中から雪だった。
小さな白い妖精が鉛色の空からちらちらと数え切れないほど舞い降りてきた。
地面がみるみるうちに雪に覆い隠されていく。
子どもたちは授業そっちのけで教室の窓にへばりつき、その様を食い入るように見ていた。
大人にとっては煩わしいだけの雪も、東の暖かい地域に住む子どもにとっては、年に数回訪れるか否かの天からの贈り物。
もし積もったら何をして遊ぼうか、と期待を膨らませていた。
子どもたちは何度注意されても浮き足だったままで、教師に大きく手を打ち鳴らされたことでやっと前を向いたのだった。
昼間のうちこそ静かに降り続いていた雪は、夜になって強風と共に空に巻き上げられて吹雪となった。
各放送局はこぞってこの珍しい天候について報じた。何十年に一度だの、今年最初で最後だの。
天候のメカニズムを専門家が懇切丁寧に解説している中、該当地域の住人たちが関心を寄せていたのは、明日の天気と交通公共機関の運行状況のみだった。
長々と組まれた特集の終わりに明け方には止むだろうと告げられたところで、やっと早めの就寝準備を始めることができた。
翌日は土曜日なのだ。これ以上天気が崩れることがないのなら慌てる必要はない。
予報通り、深夜に風が窓をカタカタと揺らせて荒れはしたものの、しばらくして嘘のように静寂が訪れた。
そして、朝――。
マンションの正面玄関から獏良がぴょんと飛び出した。
袖口や裾口がファーで縁取られて中綿がたっぷり詰まったフード付きのコート、失くさないように糸で結ばれたミトン、ぽんぽんが先に付いたニット帽、黄色のレインブーツ。
雪は獏良が立っている玄関ポーチまで入り込んでいなかった。
地面よりも一段高いタイルの先は、すべて雪で覆い尽くされている。
「ふわぁ!」
生まれて初めて見る雪景色だった。
もしかしたら、記憶にも残らないくらい小さな頃に見たことはあるかもしれない。
それでも自宅周辺が一晩でこんなに様変わりをしてしまうなんて初めてのことだった。
昨日は人や車の往来で既に踏み荒らされていた。
今はその上に新しい雪が降り積もり、足跡一つない状態だ。
休日の早朝だからか、まだ誰一人として歩いていない。
今日は面倒な雪から逃げて家に引きこもってしまおうという人も多いのかもしれない。
獏良はそろそろとタイルの縁に立った。爪先を揃えて身を屈み、雪の絨毯をまじまじと覗き込む。
太陽の光が反射して、水晶を降り撒いたように輝いている。
足元から駆け上がる高揚感に背筋が震え、長い吐息が漏れた。その息が外気に触れた途端、もくもくと白い煙になる。
思う存分に観察した後は右足を大きく前に出した。体育の時間に学校で先生に教わった行進の通りに。
足が雪の上に触れると、そのまま沈んでいった。
さくさくさくさく――。
「…………っ」
昨日よりもずっと深い。獏良の脛がすっぽり埋まってしまいそうだ。
今度は左足を右足に揃えるようにして前に出した。
さくさくさくさく――。
同じように体重をかけた分だけ雪を押し潰していく。
右足をもう一歩前に出してみようとした。
ところがあまりに深く沈んだ足はなかなか抜けない。
足の先をトラバサミか何かでしっかりと咥え込まれてしまったかのよう。
何回か引っ張ってやると、雪の欠片を撒き散らしてずぼりと抜けた。
反動で上半身が大きく揺らぐも、もう一度足を地に下ろすことで耐える。
前へ進もうと左足を勢いよく持ち上げた。
力の加減は学習済みなので今度はあっさりと抜けた……つもりだったが、
「ありゃ」
レインブーツを地に残したままで、靴下だけになった足が宙に浮いていた。
片足立ちで雪に触れないよう慎重に地面にぽっかりと開いた黄色の穴に足を潜り込ませる。
爪先が上手く奥まで辿り着いた。すっぽ抜けないように注意しながら改めて前へ進む。
こんな雪の積もった早朝に出てきたのは幾つか目的があったからだ。
無邪気に雪と戯れている場合ではなかった。
獏良はマンションの横手に向かってずぶりずぶりと歩を進めていった。
向かう先は専用の駐車場。
マンションに合わせて奥行きの深い作りになっている。
その代わり幅は狭く、一列しか停められない。
隣家との境界線である石塀に後部バンパーを向けて並列駐車することになる。
獏良には関係ないことだが、使い勝手はあまりよくない。
平置きで屋根もなく、詰まるところは縦長の長方形をした、コンクリートで舗装されただけの簡素な空間だった。
そんな何もない空間でも、子どもの手にかかれば立派な遊び場になる。
利用者が少ないことも起因して、近所の子どもたちがボールやら縄跳びやらを持って集まることもあった。
いくら狭い空間だとしても、車の出入りがある以上、危険には違いない。
大人たちは子どもたちを見かければ注意をするようにしていた。
マンションの住民たちは、日頃から我が子に遊ばないよう言い聞かせている。
勿論、獏良も母親の言いつけ通りに駐車場には近寄らない。
なぜ今日に限って親との約束を破ろうとしているのかというと、この降り積もった雪に理由があった。
昨日、下校の時間には大分雪が積もっており、子どもたちは自宅に帰るのも忘れて雪遊びをした。
獏良は母親の顔が頭に過り、遊びの輪には加わらなかった。あんまり遅くなると心配し始めてしまうのだ。
それでも少しだけ雪に触れてはみたかった。
校庭の隅にまだ綺麗な雪を見つけて、白い団子を作ってみた。
柔らかそうに見えた雪は、手で包むとぎしぎしと音を立てて氷の塊になった。
粘土のように形を作るのは難しい。新しい発見だった。
まだ作ったことのない雪だるまに挑戦してみたくはあったが、時間もなければ雪が足りないようにも思えた。
少し考えてから、団子に新しく雪をつけて一回り大きくした。形は球体ではなく楕円に。
おあつらえ向きに南天の木が側に生えていたので、実と葉を頂戴して雪の塊に付けてみた。
白の中で一際目立つ赤い実を目に、先の尖った細長い葉を耳に。
初めて作った雪ウサギ。なかなか上出来ではないか。
獏良の手のひらに耳を立てて澄まし顔で乗っている。
下校の友にしようと決めた。
意気揚々と帰途に就き、マンションの前ではたと気づいた。
このままでは家に帰れない。
家の中に持って入れば、雪ウサギは溶けてしまう。
なにより母親はいい顔をしないだろう。
昔から外で拾ったものを持ち帰ると、母親の眉間に皺が刻まれる。
こっそり持ち帰れたとしても、その後はどうする。
獏良が思いつく限りの冷たいところといえば、冷蔵庫かベランダしかない。
どちらもすぐに見つかってしまうだろう。
ああ、どうしよう。せっかく作ったのに。
玄関ポーチの前でうろうろとしていると、駐車場が目に入った。
あそこなら隠し場所にぴったりだ。
駐車場の中程にある車はほとんど動かされないことを獏良は知っていた。
車の陰にそっと雪ウサギを置き、さよならを告げて自宅へ戻った。
夜になって風が激しくなったときには心配で堪らなかった。
風で雪ウサギが吹き飛ばされてしまうのではないか。雪で埋もれてしまうのではないか。
だから、朝になって家を飛び出してきたのだ。
獏良は目印の赤い普通車に向かった。
雪の上にも慣れてきて、苦心せずとも交互に足を動かせた。
自動車の前を横切り、左に折れ、雪ウサギの安否を確認しようとしたところで、獏良は息を呑んだ。
先にはただの石塀しかないと思っていたのに、一人の子どもが背を向けて立っていたのだ。
獏良と同じくらいの背格好で、なぜだかマフラーもコートも身につけていない。
セーター一枚の見ているだけで凍えてしまいそうな服装。
子どもは獏良の気配に気づいたのか、ゆっくりと振り返った。
雪に劣らないくらいの色白で長い髪の少年。
獏良は少年の顔を見つめてぱちぱちと目をしばたかせた。
背格好が同じどころではなかった。体型も顔も獏良と瓜二つ。生き別れの双子のようだった。
違いがあるとすれば、少年の方が険のある顔つきをしている。
雪の中で一際目立つ真っ赤な瞳が獏良を捉えて離さない。
まるで南天の……。
ハッと獏良は我に返った。
ここに来た目的は別にあったのだ。
少年を前にきょときょとと辺りの地面を見回した。
雪ウサギらしきものはどこにもない。
もしかしたら少年の影に隠れてしまっているのではと、足元に目を向けたところで、ぴかりと閃いた。
もう一度、少年の顔を確認する。他人とは思えないほどそっくりだ。
南天のように赤い瞳が獏良をじっと見返している。
もっと視線を上げれば、頭頂部に二房の髪の毛がピンと跳ねている。
獏良は口をあんぐりと開けてから、笑顔の形へと変えていった。
溢れる好奇心が大きな瞳を一層くりくりとさせる。
身体の前で両手をぎゅっと握りしめ、
「僕の雪ウサギだね?!」
少年は腕を組んで指でとんとんと肘を叩き、青空を見上げた。
ゆっくりと流れるちぎれ雲を観察する。
たっぷりと間を開けてから視線を戻し、
「ああ」
何事もなかったように頷いた。
回答までの不自然な間など獏良は気にも留めず、自分の推測が正解だったことに九分咲きの笑顔が満開になる。
きっと雪ウサギが制作者である獏良の姿を借りて現れたのだ。
こんなに外見がそっくりな理由は他に考えられない。
ぴょんと立った耳も真っ赤な瞳も昨日作った姿のままではないか。
ちょっと目つきが悪いのは、位置が少し悪ずれてしまったせいかもしれない。
いずれにせよ、雪ウサギは吹雪の中でもずっと待っていてくれたのだ。
言葉よりも感情が先走って口から白い息を吐き出すだけの獏良に、雪ウサギの少年が声をかけた。
「それで、ご主人サマはこんなところで何をしてるんだ?」
「あっ、えっとね!ええっと……!」
獏良は言葉を詰まらせる度に両の拳を落ち着きなく上下に振り、
「パトロール!!」
本人しか分かり得ない単語を口にした。
「パトロールぅ?」
「うん、そう!君も一緒に来る?」
唇を「う」の形に窄めたまま片眉を上げる少年にはお構いなしに、獏良は三メートルほどダッと出口に向かって駆け出してから手招きをする。
尋ねておきながら少年に選択権を与えるつもりはないようだった。
少年は正反対のゆったりとした足取りで獏良を追った。
側まで近づくと、獏良がまた雪を撒き散らしてちょこちょこと数メートル進む。
立ち止まると振り返り、少年がついてきているか確認をする。
少年が距離を縮めれば、また同じことをする。それの繰り返し。
――どっちが雪ウサギだかな……。
走って待つくらいなら速度を落とせばいいものを。
効率の悪い身体の使い方だった。まるで雪の上を走る仔ウサギ。
そうして駐車場を出ると、今度はマンションの前を横切り、車一台分ほどの幅しかない生活道路を進む。
獏良の自宅周辺は一軒家が多く集まる住宅地になっている。
昔ながらの切妻屋根が並び、新興住宅地とは程遠い。
近隣の住民しか把握していない、くねくねと曲がる細道が無数にある。
獏良は道を選んだり迷ったりする素振りも見せない。
角を三回曲がったところで、ぴたりと立ち止まった。
ブロック塀で囲まれた何の変哲もない民家。獏良の友人の家でも、親戚の家でもない。
表札にある画数の多い名字すら読めない赤の他人の家だった。
「こっちこっち」
例によって獏良は遅れてやってくる少年を手招き、その場で待つ。
二人は並んで縦格子型の門から前庭をこっそりと覗き込んだ。
玄関前に三段重ねの雪だるまが立っている。
元からそうなのか、前夜の風で吹き飛ばされてしまったのかは不明だが、のっぺらぼうで少し味気ない。
それでも足元が少し雪に埋まっているだけで一晩経っても元気のまま。
「無事だった!」
獏良は雪だるまを指差し、口を大きく広げて屈託のない笑顔を少年に見せる。
「なるほど。これがパトロールか」
事もなげな様子で少年は頷いた。
雪だるまの無事を確かめると、獏良はまた小走りで道を進む。
小道をよく知っているのも当たり前。獏良が進む道は通学路なのだ。
学校帰りに見かけた雪の芸術品の数々を獏良はしっかりと覚えていた。
家を出た二つ目の目的はそれらの安否確認だったのだ。
町の塀や庭先に誰が作ったのかも分からない作品が置いてある。
耳がピンと立った犬か狐の雪だるま。膝下程度の高さの小さなかまくら。よく似せた最近流行りのキャラクター。形は普通でも、しっかりと帽子とマフラーを身につけた雪だるま。細くとも獏良の背丈に迫る円筒型の塔。
すべてがほとんど形を損なわずに二人を待っていた。
獏良は駆け出す度にハアハアと機関車のように白い息を吐き出す。
鼻の頭や頬、額までも血色が良すぎるほどに赤らんでいる。
それでも獏良の足は止まらず、このまま学校に着いてしまいそうだった。
「次はねえ……!」
「ちょっと待て」
黙って後に続いていた少年が初めて獏良を呼び止めた。
「なに?」
獏良は足踏みをしたまま少年に顔を向けた。早く早くと足が急かしている。
少年はもうそれに続こうとはしなかった。
「もうこんくらいでいいんじゃねえか?足、冷たいだろ」
あっ、とそれまで高揚していた獏良の気分が地面にすとんと着地した。
黄色い長靴に収まっている足の指は、すっかり悴んで感覚が薄れている。
ただの雨用では雪の侵入をいとも簡単に許し、靴下もズボン裾も水濡れ。
中で指が凍らないように一本ずつ動かして、ずっと耐えていたのだった。
「君だって、寒くないの?」
防寒具を一切身につけていないのにも拘わらず、少年は平然としている。
「僕のマフラー……」
マフラーに手をかける獏良に向かって、少年の首が横に動く。
「いらねえ。寒くねえ」
獏良の手が止まり、胸の前で所在なく指先と指先を擦る。
「早く家へ帰れ」
少年が続けざまに素っ気なく言い放った。
「……帰れない」
喉の奥から搾り出された返答は酷く頼りない。
ズズッと鼻を啜ったのは寒さのせいだけではなかった。
足がかちこちになるくらい寒くても、自宅よりはずっと暖かく感じたのだ。
雪が降っても、休日の朝でも、父親は仕事を理由に戻ってこなかった。
母親はそんな父親に腹を立てたのだろう。直接感情をぶつけられたわけではなかったが、自宅にはギスギスした空気が昨晩からずっと漂っていた。
そんな空気に耐えきれず、獏良は夜が明けてからすぐに家を飛び出したのだ。
これが早朝から雪の世界へ足を踏み入れた三つ目の理由。
外に出るならちゃんと温かくしなさい、と母親は心配してくれたけれど。
「帰りたくない……っ」
獏良は冷たい空気を激しく吸い込み、声を震わせた。
長靴の中でぐちょぐちょになった靴下が指の間に入り込んでくる。
ズボン裾がぺたりと足に張りついてくる。
いくら雪まみれになったとしても、結局は暗くなる前に家へ帰らなければならない。こんなのは一時凌ぎだ。
今にも泣き出しそうな獏良の元へ、少年がザクザクと雪を踏みつけて歩み寄った。
「早く帰らねえと悪い奴に取って食われるぞ」
「いい!食べられても」
頑なに言うことを聞こうとしない獏良に、
「アホ」
身も蓋もない悪態がぶつけられる。
「アホでいいもん……」
「子どもみてえなこと言ってンじゃねえ」
「子どもだもん」
「それはそうだが、もっとこう……頭を働かせろっつーか……」
どこまでいっても生産性のない会話の応酬だった。
片方は駄々っ子で片方は利かん坊。出口が見つかるはずもない。
少年はとうとう声を荒げた。
「素直に言うこと聞けっつーの!でないとお前の雪ウサギが泥水になるぞ!」
獏良の口がぴたりと閉じた。言葉を詰まらせて、閉じた口がもごもごと動く。
「……ヤダ」
やっとのことで出た返答には嗚咽が混じっていた。
「だったら帰れ」
獏良の頭が微かに縦に動いた。納得していないのは一目瞭然。それでも、とぼとぼと自宅へと方角を定める。
行きとは異なり、二人は同じ歩調で進む。獏良は俯き加減に、少年は前を向いて。
マンションが見えてくると、獏良の足が止まった。
そこから先へはどうしても足が動かない。
地面と足の裏が仲良く引っついてしまったよう。
頭では分かっていても身体が拒否反応を示していた。
「怖いのか?」
少年の問いかけに獏良は黙ったまま頷く。
「面倒だな。人間ってヤツは。このままだとお前がユキダルマになるぞ」
「だったら僕も君と同じになりたい……」
獏良の視線は足元から離れず、言葉は口にした途端に語尾からほろほろと崩れて消えていく。
「お前はオレと同じにはなれない」
対する少年の言葉は感情らしきものが抜け落ち、雪よりもひやりと冷たい。
「お前の雪ウサギから慰めてもらえるとでも思ったか。お前みたいな甘ったれは家に帰ってママに泣きついてろ」
「どうしてそんなこと言うの……」
もしかしたら短い人生の中で一番酷い言葉を投げかけられたのかもしれない。
あっという間に獏良の視界が涙でぼやけいった。
「ずっと見てたからだ。イライラするったらないぜ」
「ずっと……?」
不可解な発言だった。昨日作ったばかりの雪ウサギに「ずっと」などという言葉は相応しくない。
そんなあやふやな言葉でも今の獏良には心強く感じられた。
「なら、これからも見ててくれる?」
「当たり前だ。オレはいつだって側にいる」
少年の答えに強張っていた獏良の顔が少しだけ和らぐ。
地面から足が何事もなかったように持ち上がった。
獏良は雪道から玄関ポーチのタイルに上がり、少年は道路に立ったままそれを見届ける。
二人は向かい合わせで言葉を交わした。
「君はウチへは入れないんだね」
「溶けちまうからな」
「またね」
名残惜しそうに何度も振り返りながら、獏良はマンション内へと消えていった。
少年は獏良の姿が見えなくなった後もその場に立っていた。
ご主人サマはとても繊細らしい。子どもとはみんなそんなものなのかもしれないが。
きっと、獏良には少年の言葉が前向きな意味で伝わったはずだ。本当のことなど露知らず。
否定してやることもできたはずだが、珍しくそんな気にはなれなかった。
大粒の涙が零れてしまいそうな顔を見ていたら、自分らしくいられなかった。
「明日、泣くかねえ」
雪道に残された足跡は一つ。
大きな欠伸を残し、少年は戻るべき場所へと消えた。
母親は戻ってきた獏良をストーブの前にすぐに座らせ、肩にかけていたショールで小さな獏良を包んだ。
獏良のマグカップにホットミルクが注がれる。
用意されたバスタオルで湿った足を包むと、あれほど寒いと思っていたはずなのにお腹まで温かくなるようだった。
そのうちに一本の電話が入り、母親の顔に明るさが戻った。
どうやら寒い雪の日は終わったようだ。
正午からは気温がどんどん上がり、すっかり元の気候に戻ってしまった。
翌朝に獏良が雪ウサギを見に行くと、駐車場にあれほど積もっていた柔らかい雪が薄い氷の膜だけになり、見覚えのある実と葉が萎れてその上に落ちていた。
溶けてしまったのは残念だが、来年雪が降ったときにまた作ればいい。来年降らなければ、再来年。
「ずっと」という言葉を思えば、ちっとも寂しくなかった。
それに今でもどこかで見てくれていると思うから。
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想いは違っても未来へと繋がる一コマ。