ばかうけ

ある日の午後、澄み渡った青空にぽつりと筆で垂らしたような小さな点が浮かんでいた。
風船だ。
青い空に赤い風船のコントラストが鮮やかだった。
学校帰りに買い物袋をぶらぶらと揺らしていた獏良は、ぼんやりとそれを見ていた。
少し離れたところで小さな子供が泣きじゃくっているのが聞こえた。
そんなに大切だったのなら、きちんと掴んで放さなきゃ良かったのに。
思い返してみれば、獏良も幼い頃に同じことをしたような気がした。
ふとした瞬間にするりと自分の手から逃げ、手を伸ばしたときにはもう届かないほど高く飛んでいってしまう。

子供の母親が新しいのを買ってあげるからと宥めるが、子供はアレじゃないと駄目だと言う。

いくら同じ形で同じ色のものでも、無くなったものとはまったく違うもの。

それではないと駄目なのだ。

一際大きく子供が泣いた。
道行く人が何事かと視線を止め、母親が途方にくれたように子供の背中を摩った。

そんなに悲しい思いをするなら、初めから手に入れなければ良かったのに。

手に入れた喜びと失った喪失感は比例するから。

それでも

それでも後悔より幸福の時間が大きくあって欲しいと思う。

獏良は見えなくなった風船に向かって手を伸ばした。
「さようなら」
そして何事も無かったように、獏良は歩きだした。
風船が消えた青空の先がほんのりと赤く染まっていた。

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おとなしめですね。バクラ、出てきてません。

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