ばかうけ

ベッドの上でごろんごろんと寝転がる。シーツに皺が寄ろうが、身体に巻きつこうが気にしない。
パタパタと手足を動かした。その度にベッドが揺れる。金属の擦れ合う音がチャリチャリとなった。
これで今日の運動はおしまい。
獏良は仰向けになって殺風景なコンクリート天井を見上げた。
これは持ち主の趣味なのだろうか、それとも内装には興味がないからだろうか。答えの出ない疑問をぼんやりと考える。
することは限られている。ベッドの上で身体を動かすか、コンクリートの壁を見つめるかの二択だ。どちらもとっくに飽きている。
今度は横向きになって、憂鬱な灰色を視界から閉め出した。瞳には虚無の色が浮かんでいる。
また、チャリチャリと音がした。
この部屋の持ち主は、少なくとも五日は姿を現していない。たった一つだけあるドアは閉じられたまま。
日数が曖昧なのは、獏良が日時を知る術を持っていないからだ。
もっと放っておかれたこともあるから、もしかしたらこのまま最長記録を更新するのではないかと淡い期待を抱いてしまう。
きっと、「外」のことに夢中なのだろう。このまま忘れてくれればいいのにと思う。
しかし、優先順位が「外」のことより獏良のことが下にあるだけで、忘れられる可能性など微塵もないのだ。
切っても切れない関係である限り、いずれは必ずやって来る。
とにかく、獏良にとっては部屋の持ち主の顔を見ずに済むなら、これほど有難いことはない。少しでも日数が延びることを祈るのみだ。
獏良はゆっくり流れる時間を潰すために、ベッドに突っ伏して瞑想に耽った。

祈りも空しく、何日かぶりにドアが開いた。
部屋の持ち主――バクラがつかつかとベッドに歩み寄る。
獏良は無駄とは分かっていながらも身を起こし、ベッドの端まで後退った。
バクラの足がベッドにかかり、二人分の体重でベッドが軋む。
ギシギシギシ――。
あっという間に二人の距離がゼロになる。
「……久しぶり」
獏良の方から声をかけたのは、ちょっとした抵抗の意思を見せたに過ぎない。相手のペースではないことを知らせてやりたかった。
バクラは挨拶もなく、獏良の顔や首に手を伸ばした。とはいっても、肌に直接触れることはしない。そこから下がる金属の飾りを揺らすだけ。
獏良の身体はアクセサリーだらけだった。
髪飾り、イヤリング、チョーカー、ブレスレット、指輪、アンクレット……。足の指には複数のトゥリングまで。
服の下にも幾つか隠れている。例えば、太ももに巻きつけられたフットチェーン。
デザインや付属の石に違いはあるものの、すべてが金で統一されている。白い髪や肌にまばゆく輝く金は、よく似合っていた。
動く度にシャラン、チャリチャリと音を立て、金属打楽器の演奏のよう。
獏良は最初からこの姿をしていたわけではなかった。黄金の飾りたちは徐々に増えていったのだ。
バクラは、その一つ一つを目視し、満足げに笑った。自らが贈ったアクセサリーを指で鳴らして。

獏良を「内側」に閉じ込めたバクラは、気の向いたときに部屋へ訪れるようになり、その度にアクセサリーを獏良へ一つずつ贈った。
相手のことを想うどころか、贖罪や機嫌を取る意味などがあるはずがない。
半ば無理やり獏良に身につけさせたのだ。外そうものなら烈火のごとく怒る。
獏良が大人しく受け入れていれば、手出しはされなかった。装着するための穴を開けるために肌を傷つけることすらしない。
ただアクセサリーを身体につけられるだけ――そう思いたかったが、増える度に小さいはずのそれらが重く感じ、身動きが取れなくなっていく。まるで拘束具だった。

バクラがシャツの上から獏良の胸を指す。その下にも幾つか贈り物が隠れている。
獏良は躊躇いつつもシャツの裾をたくしあげて白い上半身を露出させた。
中央には最初の贈り物である千年リングが鎮座している。
その少し上――左胸の先端にも贈り物が一つ。淡い色の突起に小さな金色の蛇が絡みつき、尾からは赤い石が嵌め込まれた雫型のチャームが下がっている。
ノンホール式で頭と尾で挟み込むようにしているだけ。肌を傷つけることはしていないし、締めつけも弱い。
しかし獏良にとって、まるで膨らみを強調するかのような、この状態を見られることは何よりも屈辱的だった。
胸を曝け出したまま、頬を赤く染めて下唇を噛む獏良の前に、手が差し伸べられた。
手のひらの上には、もう一つの蛇型のリング。
今回の贈り物はこれなのだ。
身を固くする獏良に向かって問答無用に小さな蛇が巻きついた。右胸の突起にぐりぐりと押しつけられる。
震える獏良の身体に合わせて、全身のアクセサリーが音を奏でた。
蛇がしっかりと胸に収まると、バクラは突起からゆらゆらと揺れる左右のチャームを指で弾いた。
「………………っ」
チャームの刺激が先端に伝わって響く。これで膨張しようものなら、二匹の蛇に締めつけられて更に嫌な思いをすることになる。
獏良はぎゅっと目を瞑って揺れが収まるまでやり過ごすことにした。
やがて揺れる振り子が元通り六時の方向を指すと、バクラは獏良に服をすべて脱ぐように告げた。
これも恒例儀式の一つ。
シャツとジーンズを脱ぎ去った獏良の白い裸体には、所有の証といわんばかりに黄金が散りばめられている。
バクラは肌に指一本触れずに飾り立てられた獏良の身体を眺める。
獏良は目を伏せ、じっと動かず恥辱に耐えている。
二人だけの鑑賞会だった。
アクセサリーを飾るとき以外は触れられもしないのだ。けれど、舐めるように全身を見られる。
いっそのこと、と獏良の中で危険な囁き声がする。
中途半端な状態で放っておかれるのなら……。
ベッドに押しつけられて、全身の金が揺れて、一つの音楽を奏でる。
触れられる度に、嬌声と金属音が部屋に響くのだ。
獏良は湧き出る欲望を懸命に抑えた。それでも勝手に喉が鳴る。身体の芯が熱くなる。
そんな葛藤を知ってか知らずか、バクラの口元には薄笑いが浮かんでいた。
この贈り物がいつまで続くのか、燻った想いがいつまで沈黙を保っていられるのか、答えは誰も知らない。

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どっちが虜。

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