ばかうけ

マンションの廊下が薄っすらと西日のオレンジ色に染まっている。獏良は鞄のポケットから鍵を取り出し、鍵穴に挿し込んだ。解錠の音が鳴ったのを確認し、ノブを捻りつつ、部屋の中に向かって明るい調子で声をかける。
「ただいまー」
脱いだ靴の向きを反対に、踵を揃えてから玄関に上がり、脱いだコートを片手にリビングへまっすぐ進む。進んだ先にはソファで寛ぐ同居人の姿。
「ただいま」
今度は落ち着いた声で挨拶をもう一度繰り返した。
「おかえり」
獏良に瓜二つの顔が淡泊な口調で迎える。ほとんど表情を動かさず、唇だけが億劫そうに辛うじて開閉する。
「荷物置いたら夕御飯の準備するね」
獏良は不愛想な態度に気を悪くした様子を見せない。意識して口角を上げ、優しい声音を作る。
同居人――かつて獏良の中に潜んでいた闇の化身はイエスともノーとも答えずに、獏良の顔をぼんやりと見ていた。
そうして飽きもせず同じやり取りを今日も繰り返すのだ――。


コネクト


食事中は静かな時間を刻む――とはいうものの、テレビの音、食器の音、咀嚼音、獏良の話し声――無音ではない。
獏良が今日の出来事を笑い混じりに披露すると、バクラが無言で耳を傾ける。表情筋は微動だにせず、時折注意深く観察していないと見逃してしまうほど僅かに頷く程度の変化しかない。
食卓には乾いた空気が充満していた。テレビから流れるバラエティー番組の賑やかな笑い声が一層虚しさを掻き立てる。
それでも獏良は話を止めない。黙ってしまったら、本当の沈黙が訪れる。沈黙は今の獏良にとって恐怖だ。笑顔を保ったままバクラの反応を逃さないよう注目していた。
当のバクラ本人は獏良の心情にも気づかずに平然と箸を口に運んでいる。

    *

一ヶ月前、獏良は町をふらふらとさ迷っているバクラを偶然見つけた。
同じ顔が道の向こうからやって来るのだから、仰天して危うく叫ぶところだった。ドッペルガーか生き別れの双子か、そんなことを悩まずにすぐ正解に辿り着けたのは、獏良の記憶にバクラの存在が強烈な体験として焼きついているからだ。一生拭えない刻印のようなものに近い。
「なんで……」
獏良がなんとか絞り出した言葉には、「なんでここに」「なんで生きている」「そもそも別の人間として存在しているのか?」――など、様々な意味を含んでいた。
言葉も視線も自分に向けられていることに気づいたバクラから発せられたのは、
「お前は……誰だ……?」
ほとんど吐息になってしまっているほど弱々しい声。在りし日からは想像もつかない態度よりも、言葉の内容に衝撃を受けた獏良は、慌ててバクラの手を掴み、自宅へと引き返した。人前でできる会話ではないと咄嗟に判断をしたからだ。
自宅でバクラを問い詰めてみても、首を横に振るだけ。会話の受け答えが遅く、考えあぐねる様子は、とても演技には見えなかった。以前は目的のために偽ることはあっただろうが、失態を演じることはプライドが許さないはずだ。
「それで、お前は誰なんだ?オレのなんだ?」
最初の質問を改めてバクラが口にした。それに対する答えを獏良は持っていない。上辺だけの答えなら用意することもできようが、結局のところ二人の関係がなんだったのか獏良本人も理解していないのだ。
かつてのバクラは、獏良のことを「宿主」と――「永遠の宿主」と呼んではいたが。
獏良の目元に皺が寄る。
「――なんだろうね」
喉から声を絞り出して辛うじてそれだけを答えた。

    *

それから二人は共に暮らし始めた。
獏良は記憶を失ったバクラを放り出せず、バクラは行くところがない。和解などという前向きな理由ではなく、ずっと消極的な理由からだった。
ゲーム類の倉庫と化していた部屋へ予備の布団や座卓を運び、バクラの寝室としたはいいが、困ったことが一つ。
バクラは単なる記憶だけではなく、一般的な知識もすべて失っていた。
例えば、起床した後に身支度をする必要があることさえ知らないのだという。
顔を洗う、髪を梳かす、と指示をしても、今度はそのやり方が分からない。
身体の動かし方は本能で理解しているらしいが、まるで生まれたての赤ん坊そのもの。
食事、風呂、着替え、トイレ、歯磨き――獏良が一から教えなければなかった。何しろ、ボタン一つ留められないのだ。
バクラは反抗するという発想さえ忘れてしまったのか、素直に獏良の手解きを受けた。飲み込みが早く、一度教わるだけで済んだことは不幸中の幸いだった。一を聞いて十を知る賢さもある。あとは獏良の見様見真似だ。
半月もすれば、家の中のみではあるが、日常生活には支障がなくなった。
そうすると、獏良にすることがなくなり、三食の食事を与えるだけになってしまう。会話に困るようになった。
バクラから声をかけてくることはほとんどない。自分のことは自分で済ませてしまえるし、雨が降れば気を利かせて洗濯物だって取り込んでくれる。手のかからない同居人なのだ。
それだけに話す内容がない。答えはイエスかノーのみ。
教えた挨拶をほとんど機械的に返されると気が滅入ることさえある。
大学やアルバイトで家を空けるときは、ホッとするくらいだった。

姿形はバクラでも、中身はまったくの別人。過ごす時間が長くなればなるほど、違いが顕著になる。
元の彼はこうではないと思うたびに獏良の気が重くなっていく。
記憶が戻ればと、かつての彼と関わりのあるもの、モンスターワールドのボードやフィギュアを見せても少しの反応も見せなかった。
どうすれば記憶が戻るのか、何度も考えているうちに気づいてしまう。
元の彼に戻ったら、どうしたいのか――。
謝らせたい。後悔させたい。反省させたい。
どれも当たっている気がしたし、外れている気もした。
関係を訊かれたときに答えられなかったのだから、それ以上のことなど分かるはずもない。
要するに、獏良の時間はあの頃で止まったままなのだ。
利用されるだけされて、ある日急に放り投げだされて独りぼっちになったまま。
作り笑顔で隠した心が凍りついた気がした。
不安で押し潰される前に先のことは見ないふりを決め込んだ。
これ以上、傷つきたくはない――。

    *

「これはなんだ?」
ある日、バクラが部屋で平たい箱を見つけ出してきた。
「ああ、これはオセロだよ」
獏良は食器を洗う手を止めて、水滴をタオルで拭った。
クローゼットには獏良が集めたゲーム類が山ほど積んである。オセロもその中の一つ。
「遊ぶものなんだけど。ルールは簡単だからやってみる?」
バクラの頭が獏良の提案にこくんと縦に揺れる。
遊ぶにはまずルールを教えなければならない。それなら実際にやって見せる方が早い。獏良が石を使って説明をしている間、真剣な目でバクラはその手元を見ていた。
「こうやってどちらの色が多いか競うんだ。分かった?」
またしても無言の同意。
「それじゃあ、やってみようか」
獏良は反応を見ることを放棄して、石をバクラに押しつけた。
最初の頃は恐る恐るといった様子で石を打っていたバクラだが、回数を重ねるうちに躊躇いがなくなった。獏良が打てば、間髪を入れずに次の手を繰り出す。
既にオセロというルールを理解したのだろうか。獏良を追い詰める手をこの場で組み立てたのだろうか。
パチン、パチン、と小気味のよい音が鳴る中で、獏良は舌を巻いていた。

それ以降、部屋で見つけたゲームを持ち出すのがバクラの日課となった。
目についた箱を獏良の元へ持っていき、「これはなんだ?」と問う。獏良は丁寧に問いかけに答え、遊び方を説明する。バクラが理解できたところで、実際に二人でやってみる。
不思議な光景だった。以前は分かり合えなかった二人が膝を付き合わせて子どものようにゲームをしている。
この日課は獏良にとっても都合が良かった。話題をわざわざ考えなくても済み、ゲームに集中しさえすれば余計な会話をしなくてもいい。苦痛を感じる時間を減らせた。
「これはなんだ?」
「これは、ダイヤモンドゲームだね。懐かしい」
獏良の頬に自然と穏やかな微笑みが生まれる。ゲームをしている時間は心がざわつくこともなく、自然体でいられた。

*****

外出した獏良を待っている間、バクラのすることはパターン化されている。とはいっても、自宅ではやることが限られているから選択の余地はないのだが。
危ないから外出は二人で、と獏良から言い含められている。約束を守り、テレビを見たり、雑誌を読んだり、簡単な家事をするだけで一日が終わる。
食事は獏良が律儀に用意していくから心配する必要はない。
一般的には退屈な日常になるのだろうが、バクラに外出する気は一向に起きなかった。なぜだかは分からない。記憶を失ったと同時に欲求も消えてしまったのかもしれない。
テレビの前にあるソファに座って獏良の帰りをただ待つのだ。獏良が帰ってくればゲームができる。ゲームをしている間だけは心地よくなれる気がした。
時が経ち、常識を理解していくと、今度は様々な疑問が湧いて出る。
獏良はどうして親切にしてくれるのか――。
それが最大の疑問だった。
テレビや雑誌、インターネットからいくらでも情報を得ることができる。そうして知識を身につければつけるほど、ただにこにこと笑って世話をしてくれる獏良が異様に思えた。親切にしても度が過ぎている。
最初に関係を問いかけたとき、獏良は言葉を濁した。「なんだろうね」と口にしながら、戸惑いを隠せない様子で。
あんな表情は初日以降見せたことがない。だから、そこに答えがある気がした。
鏡像のように容姿が似ているから血の繋がりを疑ったものの、アルバムや獏良の私物を見る限り、それは否定される。かといって赤の他人とするのは不自然だ。
バクラは一人でチェスの駒を握り、手の中で転がす。
このまま獏良の親切を受けていれば、なにも変わらず平穏な日々を過ごすことができるだろう。
だからといって、何もしないでよいのだろうか。
不自然な現実から目を背け続けることが正しいのだろうか。
チェスの盤上には獏良が指した手が再現されている。握った駒でその棋譜をコツコツと叩く。
『もう駒の動かし方、覚えたの?すごいね!』
バクラに向けられた飾らない笑顔からは嘘偽りは感じられなかった。隠し事をしている様子もなかった――と思う。
まだ自分の感情さえ理解できていないが、獏良に対する想いは好意に近いものだと確信している。
こんなにも親切にされて好意を抱かずにはいられようか。
しかし、獏良から感じるのは、目には見えない隔たりだ。優しく振る舞いながらも、踏み込まないように、踏み込ませないように徹しているように見える。
「クソッ」
ガツンと駒の縁が盤上に叩きつけられる。
それは、現世に戻ってきてから初めて口にした悪態だった。

*****

夕暮れの町並みを歩きながら、獏良は今晩の献立を考えていた。
冷蔵庫にまだ大根があるから、豚肉を買って煮込みにしよう。味付けは身体の温まる
味噌で。副菜はどうしようか。味噌の濃い味つけならサッパリと食べられるもの――。
二人分の食事を用意するとなると、自然にバランスを考慮したものになる。
一人のときとはパンを齧るだけで済ませることもあった。二人だとそうもいかない。一人暮らしが長かった獏良にとって、二人の生活がそれだけ馴染んだということなのだろう。
――以前のあいつなら、大人しく僕の作った食事なんて食べなかっただろうな……。
それまで軽快だった獏良の足取りが重くなる。急にアルバイトの疲れを感じたというわけではない。心に沈んだ重りが身体に伝わって、足を地面に縫い止めようとしている。
バクラは「いただきます」と手を合わせ、食事を綺麗にすべて平らげ、「ごちこうさま」と箸を置く。食器を流しに持っていくことも忘れない。水に浸けることだってする。全部獏良の教えたとおりに――。
「獏良了」と名乗ったことで、「りょう」と呼ばれるようになった。誰のことを呼んでいるのか、今でも分からなくなる。
人間の生活に慣れれば慣れるほど、以前のバクラとは別人になっていく。それも獏良の手によって。
支配と殺戮という二つの欲に突き動かされていた頃に戻って欲しいとは思わない。
バクラは獏良に「誰か」と問いかけたが、獏良だって質問をぶつけてみたかった。
『キミはだれ?』
記憶はない、振る舞いは違う。そうであれば、作る表情さえ見る影もない。それではもう、「バクラ」ではない。
何が彼を彼たらしめていたのか、今やもうまったく分からなくなっている。
「僕は……」
とうとう歩みが止まる。足元には目一杯に引き伸ばされて人の形を為していない影が無様に落ちている。
どうすればいい。どうしたい。たすけて――。
茜色の空にカーカーとまるで嘲笑っているかのように烏が飛び去っていった。

両手にスーパーの袋を提げた獏良が、慌てた様子で玄関からバタバタと慌ただしく音を立てて部屋に入ってきた。
「ただいま!遅くなっちゃった」
キッチンに直行し、ビニール袋を床に置き、中を探る。すぐに使う材料を作業台の上に取り出していく。使わないものは後回しだ。
「りょう」
背後で気配。続いて感情に欠ける音。
「ごめんね、あとで……」
いつも行っているゲームのやり取りだと思い込み、受け流そうとして、はたと気づく。今日は機械的に行われていた挨拶がなかった。屈んだ状態で後ろを振り返る。
「そろそろ聞かせて欲しい。お前はオレのなんなんだ?」
凛とした表情のバクラが立っている。簡単には引かないという決意が感じられる。
「それは……まだ……」
「オレはお前のことが好きだ。なんと言われようと、それは変わらない。だから答えを言ってくれ」
口籠って半開きになった獏良の唇が閉じて歪んだ。その周囲に皺が寄る。
「なに……?なにそれ」
答えようと発した声が震え、噛みしめた白い歯がギリギリと軋む。
「好きなんだ。だからお前のことを知りたい。教えてくれ頼む」
その瞳は真っ直ぐ澄んでいて揺らぎようがなかった。純粋な気持ちが籠められているに違いない。
だから、獏良は無性に憎たらしく感じた。何も知らないで簡単に好きだという心持ちも、昔の彼であれば絶対に許さない言葉を平気で口にすることも。
バクラが教えられた礼儀に則って頭を深々と下げたところで、獏良の感情が吹き出した。
「やめてよ!!」
手に持っていた発泡トレーを床に叩きつける。
「キミはあいつじゃないのにッ!あいつはそんなこと言わない!しない!あいつじゃないキミからは聞きたくない!」
涙がぼろぼろと零れ落ちる。視界が滲み、何も見えなくなる。
記憶のないバクラは理不尽な怒りをぶつけられ、きっと呆然としているのだと思った。訂正する気にも、謝る気にもなれず、獏良は袖でぐいっと顔を乱暴に拭うとキッチンから逃げ出した。自室に飛び込むと後ろ手にドアを閉め、背中を預けてその場に座り込む。
「ううっ……ぇ……」
子どものように声を上げて泣いた。今まで我慢した分、一度決壊した感情はどうにもならない。喉も涙も嗄れ果てるまで泣き濡れた。

獏良がフラフラと立ち上がったのは、それから数時間後のことだった。
たくさんのエネルギーを消費したからか、軽い眩暈さえしていた。頭が朦朧として、悩む気力もない。喉が干上がり水分を欲している。
とりあえず水を飲まなくては、とリビングに通じるドアを開ける。既に消灯されていて、気配は感じられない。手探りでスイッチを点けた。
明かりの灯ったテーブルには、皿が並んでいた。豚肉の野菜炒めと白いご飯がラップに包まれている。
獏良はぼんやりとした意識のままのろのろと手を伸ばす。ラップに包まれた料理は、すっかり冷えてしまっている。その感触が少しだけ獏良を正気にさせた。
廊下の先にあるバクラの部屋は電気が消えている。もう寝てしまったか、それとも寝ていることにしているのか。確かめる権利はないと獏良は思った。
冷えきった料理を手に持ち、キッチンによろめきながら向かうことが精一杯だった。

    *

翌朝、二人が顔を合わせることはなかった。
獏良が出かける支度をしている最中、一度もバクラは部屋から顔を出さなかった。微かな物音がするから部屋に籠っていることは間違いない。
昨晩とは逆に獏良が朝食にラップをかけてテーブルに置く。
ノックをしようかこぶしを作ったまま何度も迷い、結局は毎日欠かさずしていた挨拶を初めてせずに家を出た。
まだ何から話せばよいかまとまっていない――。

    *

驚くことに話のきっかけを持ってきたのはバクラの方だった。獏良が帰宅してから間もなく、何事もなかったかのように小さな箱を手に持って。
「この前とは別の遊び方を教えてくれ」
世界一有名でシンプルなカードゲーム、トランプ。
「うん、いいよ」
獏良はバクラなりの気遣いを感じ、冷静なままでいられた。唐突だったために、余計なことを考えずに済んだこともある。柔らかい微笑みを浮かべて首を縦に振った。
二人で床に座り、トランプの表が見えるように横一列に広げる。
前回やったのは、ほとんど説明がいらない神経衰弱。カードの種類を覚えているか確認をして、新しいゲームの説明をした。
二人で遊べて理解しやすいものとなると、山札を引いて数が大きい方が勝ちというシンプルなゲームが都合良く思えた。
獏良は広げたトランプを一つにまとめ直し、バクラに差し出した。
「カードを切って配ってみて。やり方は見せたから分かるよね?」
バクラは頷き、受け取ったカードの表面に触れた。上下を入れ換える。細く長い指でカードが零れないように押さえつつ、軽く手首を返す。一回、二回、三回。
最初は慎重に、徐々に早く。カードが擦れてシャッシャツシャッという軽快な音が鳴る。今日昨日では身につくはずもない巧みな手捌き。カードを意のままに操っている。一通りカードを切り終わると、指でトンと山を叩いた。
「これでいいか?」
訊ねたバクラの目が大きく開く。黙って見守っていたはずの獏良の目に涙が浮かんでいた。
「間違ってたか?」
狼狽して腰を浮かし、両手を空中でひらひらと泳がせるバクラに、
「違うよ……」
獏良は大きくかぶりを振る。小さな雫が宙に散った。心の底から湧き上がる衝動に全身が震え出しそうだった。
「キミはキミだったんだなって思っただけ」
答えになっていない答えにバクラの首が傾くも、訊き返すことはしない。動揺して落としたトランプが床に散らばっていた。
「ねえ、もう一回切って見せて」
思わぬリクエストに、バクラは言われたとおりにトランプのカードを掻き集め、再び刻む。言葉の意味も涙の理由も分からないが、応えてやらなければと思った。なぜかカードは両手に馴染み、意識せずとも操ることができた。先ほどと同じくリズミカルにカードをシャッフルする。
獏良の目に映る仕草は、ゲームの種類は違えど懐かしい姿と重なり――、
「――そうか……」
安堵したように両腕から力が抜けた。呼吸を整えるために深く息を吸う。心音はいつも通りだ。迷いはもうない。
「じゃあ、始めようか」
今度こそは、二人の答えを出すのだと胸に誓って。

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再び繋がる縁。
バクラの一人称を「僕」にしてしまうか悩みましたが、字面が厳しくなってしまうと思い止めました。

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