休日の午後、その店は女性特有の明るい声が溢れていた。それぞれのテーブルから高音の笑い声、携帯カメラの撮影音、はきはきと喋る店員の対応——どれも賑やか。ランチタイムは終わったというのに、テーブルがほぼ埋まっている。このことが人気のある店だと証明している。
店の装飾はパステルカラーで統一されており、主な客層は若い女性。今も男性は一組のみ。
十代後半の青年が二人。一人は上機嫌、もう一人は強面。正反対の表情だが、見た目は双子のようにそっくりだった。白い長髪に整った顔立ち。背格好まで同じ。違うのは顔つきだけ。
キツい顔つきの青年に対して柔らかい顔つきの青年が気にしている様子がないことから、怒っているわけではなさそうだった。
二人のテーブルには飲み物と大皿。大皿には、複数のスイーツが乗っている。スイーツ自体も色彩豊かだが、カットフルーツや生クリームが盛りつけられることにより、さらに華やかになっている。
柔らかい顔の青年——獏良の方は嬉しそうに取り皿に移したスイーツを頬張っている。もう一方のバクラはそれを見ながらコーヒーカップに口をつけている。
ここは女性に人気のスイーツ店。話題のスイーツを取り揃えている。見た目の華やかさもあり、SNSでも商品画像の投稿が多くされていて盛り上がっている。
パンケーキやワッフル、マカロン……。少々値段は高めだが、飾りつけや付属する果物のことを考えれば、妥当ともいえる。駅前という立地条件もあるだろう。
バクラにはまるで興味のない類いの店だが、獏良に付き合う形で来店した。注文したメニューは、おすすめスイーツの盛り合わせ。
バクラは形式的に一つだけ口に入れたが、砂糖の塊かと思うほどの甘味の暴力に顔をしかめそうになった。顔に出さずに何とかコーヒーで流し込んだのは、褒められてもいいと思っている。飲み込んだ後も口の中は粘ついていた。バクラが想像した通り、この店とは合わないようだ。
そもそも、パンケーキだと思ったのはスフレパンケーキ、ワッフルはクロッフル、マカロンはトゥンカロン、だという。獏良に訂正されたときは頭が痛くなりそうだった。「何の違いがあるんだよ」という言葉を飲み込んだ。説明されたところで興味はない。藪蛇になっても困る。
世界一幸せだと言わんばかりに菓子を頬張る獏良を、バクラは眺めて時間を潰すことにした。付き合いは果たしたのだから、見守るだけでいいだろう。ぱくぱくと皿に乗った菓子を順調に減らしていく姿を見ていると心配になるが。
——年取ったらやめさせねえと。
一瞬だけ頭に浮かぶふくよかな将来の姿。それを深く考えないようにし、バクラは席を立った。
「水取ってくる。お前は?」
問われた獏良はフォークを加えたまま首を横に振る。まだグラスに頼んだ紅茶が入っていた。それに砂糖をたっぷり入れていた気がして、バクラは薄ら寒くなる。
テーブルから離れ、角を曲がる。そこにはセルフサービスの水が置かれている。ガラスのピッチャー。小洒落た店らしく、フレッシュハーブとレモンが入っている。
バクラは並んだグラスを手に取り、ピッチャーを傾けて水を注いだ。そのまま一杯飲み干す。菓子のせいで口がとにかく渇いていた。
爽やかですっきりとした味わいが口内を洗浄する。ぷはっと息を吐く。もう一度水を注ぎ、今度は何食わぬ顔でテーブルに戻った。皿の菓子は半分以上なくなっている。「おいおい、はえーな」と内心思いながらも椅子に座る。
「おかえり」
獏良は満足げに口元をおしぼりで拭いている。
「もう食わねえのか?」
発起人の割に少食だ。このメニューを選んだのも獏良だ。普段は食事を粗末にするなと言う側なのに。
当人は優雅に紅茶で喉を潤し、どんな菓子よりもとろけるような甘い笑顔で、
「いや、残りは君の分」
などと抜かすから、バクラはそのまま後ろにひっくり返りそうになった。
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お菓子と恋人。