「よお」
「……なに?」
声に応じ、開け放たれたドアに向かって、気だるげに獏良が振り向いた。
「来てやったぜ」
視線の先にある、見慣れた姿の瞳に灯る光は狂気に満ちていて、獏良は一瞬だけ背筋が凍るのを感じた。
全ては終焉に向かっている。
これもその証。
こうなることは知っていた。
「そう……」
以前の彼はもういない。
「つれねぇなぁ。もっと楽しもうぜ。なぁ?」
乱暴に獏良を引き寄せ、熱い吐息を耳に吹きかける。
「……ッ」
バクラの手が獏良の衣服にかかる。
「抱くの?」
不思議と冷静でいられた。
怒るでもなく泣くでもなく、真っ向からバクラの瞳を見つめる。
「さすが察しがいいなァ、宿主サマ」
バクラは獲物を捕らえる獣のようにぺろりと唇を舐めた。
抵抗するのは許さないと言うように。
ところが獏良は抵抗どころか、自ら服を脱ぎ捨て、
「抱いて良いよ」
事もなげにそう言った。
捨て鉢になったようでもなく、その表情から芯の入った力強さが伺える。
「イイ根性してるじゃねぇか」
どさ
そう言った刹那、力任せに獏良を押し倒した。
背が強く打ちつけられ、獏良の口からか細い声が漏れたが、バクラが気にする様子はない。
ただ身体を欲望のままにまさぐるだけだ。
以前はこうではなかった。
しっかりとお互いが向き合っていた。
無遠慮に這いずり回る手を感じながら、獏良はこの前交わした会話を思い出していた。
――うん。分かってるから。
獏良の手が伸びた。
バクラの顔を掴んで目が合うように向けさせた。
バクラにとってそれは対した障害ではなく、動きを止めることはない。
無論獏良もそのような意図を持っているわけではない。
「僕の目を見て」
意思の強い眼差しでバクラの瞳を見つめた。
「僕をしっかりとお前の目に焼きつけて」
獏良の姿がバクラの目にどう映っているのか分かる術はない。
何の反応も見せないことからすると、単なる戯言かと思っているのかもしれない。
それでも構わずに獏良は続けた。
「最期まで僕を忘れないように。僕も今のお前を見てるから」
――オレがオレでなくなっても愛せるか?
――愛せるよ。
「お前に僕を刻み込んで」
足が大きく開かれた。
貫かれる。
「僕はお前を絶対放さないから……!」
労わりのないその行為に呼吸もままならない。
しかし、しっかりとバクラの背にしがみついた。
心が、身が、悲鳴をあげている。
痛い痛い痛い。
この痛みを全て引っくるめて受け止める。
どんなにお前が変わり果てても。
それが僕に出来る最大限の愛の証。
最期の時まで僕を忘れさせないよ。
そう約束したんだから。
ね?
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以前日記に書いたものを広げてみました。
ゾークバクラは見るのが辛くて辛くて…負けないぞ!