細かいことは気にせずに、ノリでお読みくださいませ☆
今日はクリスマス・イヴ。
年に一度、サンタクロースが寝る間も惜しんで働く日。
「今年は童実野町かぁ」
配布された冊子に記載されている担当場所を確認しながら獏良が呟いた。
獏良が着ているのは年に一度だけ着ることを許される制服。
サンタクロースならではの赤を基調とした服で、実に暖かそうな素材で出来ている。
着る者が着ればとんでもなく愛らしい姿になる上に、年に一度しか拝めないレアものとくれば、不届き千万な輩が群がってくる。
獏良もその例に漏れず。
対応している間に、出発予定の時刻はとっくに過ぎてしまった。
本来ならば、脇目も振らずに子供たちの元へ行かなければならないのだが――。
「わあ、やっぱり童実野町って、非電源のゲームが多いや。見る目、高いなぁ。あっ、すっごいすっごい!物凄いレアだ、これ。しかも幻の初回版ッ。あー、欲しいなぁ」
ゲーム好きの衝動を抑え切れず、テンションも高めに子供たちに配るプレゼントを物色していた。
「良かったー!やっぱり、まだいたんだね」
獏良は涎を垂らさんばかりにまで崩れた端正な顔を元に戻し、声の主に顔を向けた。
同じく、仲間内で引っ張り凧にされていたらしい、同僚の遊戯が足早にやってきた。
服のサイズが合わなくて、手がほとんど隠れてしまっている。
時々ずり落ちる帽子を上げる姿が何とも言えずに可愛い。
「今年は何処になったの?」
「童実野町周辺だよ」
童実野町という単語を聞いて、遊戯がうずうずとプレゼントの山の方へ目を向ける。
「良いよね、童実野町……」
遊戯はほにゃんと崩れた顔をぶんぶんと振り、真面目な顔を作った。
「ってチガウ!そんなことを言いに来たんじゃないや」
遊戯の様子に獏良は怪訝な顔をする。
「今年も"出る"らしいから気をつけてね」
意味ありげな遊戯の言葉に獏良は眉間に皺をよせた。
「もう被害に遭ってる人がいるの?」
「うん、結構。獏良くんのところには必ず出ると思うから……」
自分のせいではないのに、申し訳なさそうにしている遊戯に、
「大丈夫!伊達に長くこの仕事はしてないよ」
明るく言って微笑んだ。
獏良の様子に遊戯はほっと安堵の笑みを浮かべ、
「うん。じゃあ、仕事が終わったら、また……ね」
懐からカードの束を取り出し、そこから一枚引き抜く。
「マシュマロンを召喚!」
ぽんという音と共に現れたふわふわのモンスターに、遊戯はぴょんと飛び乗った。
「遊戯くんも気をつけてね」
「うん」
大きく獏良に手を振り、そのままふよふよと去っていく。
「さてと……僕もそろそろ行かなくちゃね」
獏良は遊戯と同じようにカードを取り出し、
「今年はキミにするよ。砦を守る翼竜、召喚!」
大きく一枚のカードを掲げる。
小柄で可愛らしいが、立派な竜属のモンスターが姿を現した。
獏良は翼竜を沢山のプレゼントが乗ったソリに括りつける。
「よろしくね」
翼竜はその愛らしい瞳を細め、任せろと言わんばかりに大きく頷いた。
「目指せノーミス、ノルマ達成、だよ」
獏良がくいと優しく手綱を引くと翼竜が一吠えし、飛び立った。
ソリに付けられた鈴がしゃんしゃんと美しい音を鳴らす。
「出発」
「快調だね」
獏良はだいぶ減った積み荷を満足げに眺めた。
腕時計を見やれば、まだ十一時過ぎ。
このままいけば、十二時までに仕事の半分は終えられる。
「まあ……このままで済むはずがないけど」
口は笑っているが、目元は全く笑っていない。
獏良は注意深く辺りの気配を探る。
冷たい冬の風の中、巧妙に隠されているが、ぴんと張り詰めた空気が確かに漂っていた。
何かいる。
獏良はソリのスピードを落とした。
これは、もう気付いているぞという意思表示。
果てのないかくれんぼをするよりも、さっさと出てきてもらった方が断然良い。
相手もそれが分かったらしく、ゆっくりと目の前に姿を現し始めた。
初めは朧げに、段々と色を取り形を取って、その姿を象っていく。
「さすがは宿主さま。他のぼんくらと違って、気がつくのが早いぜ。愛の力ってヤツかねぇ……ヒャハハハ!」
それの掌に仁王立ちで乗っている人物が目で捉らえられるようになると、獏良は大きな溜息をついた。
これが毎年出没する、プレゼント専門の盗賊だ。
子供の玩具と馬鹿にしてはいけない。
おままごと玩具一つとっても、本物志向を求められるのだ。
目を疑うような値段で店頭に並んでおり、中にはプレミアのついたものもある。
その盗賊はサンタクロースの衣服の赤い部分が黒く染められたような恰好をしていた。
かぶったフードの隙間から二房の前髪が出ていて、風でぴょこぴょこなびいているのが恐ろしさを半減させているのだが、獏良には取り立てて教えてやる義理はなかった。
「ディアバウンドでいくら姿を隠しても、お前のそのうるさい気配は隠せてないんだよッ」
苛々とがなる獏良の気迫に、バクラは少なからずたじろいだ。
「宿主、機嫌悪いな」
これ以上機嫌を損ねないようにと、獏良の表情を注意深く窺いながら話しかけるバクラ。
「当たり前だよ!お前が盗賊で、プレゼントを奪いに来るっていうのは百歩譲っても許せないけど、許しているような気分でごまかして……」
「結局、許してねぇんだな……」
獏良はバクラの意見に耳を傾けない。
「毎年毎年、僕のところに現れるのは絶対許せない。どうして僕ばっかりなんだ」
きっと睨めつける獏良に、
「複雑な男心ってモンがあるんだよ」
訳の分からないことを言いながら、負けず劣らず凶悪な表情でバクラが挑む。
「お前とは話し合っても無駄だ」
「オレ様はてめえと朝までじっくり話し合いたいんだがなあ」
噛み合ってるのかいないのか、判然としない会話に動きが見えた。
獏良が懐からデッキを取り出した。
それに合わせて、バクラもデッキを取り出す。
「巨大ネズミ召喚ッ。荷物を狙って!」
獏良の声に応じて現れた化けネズミのモンスターが、バクラの積み荷――子供たちのプレゼントに向かう。
「させるか!出てきな、夢魔の亡霊。荷台を守れ!」
獏良のネズミがディアバウンドをくぐり抜け、ソリにたどり着いたその瞬間に、夢魔の亡霊がソリを庇うように現れた。
「やれ!」
バクラの一声と共に、亡霊が巨大ネズミに攻撃をする。
短い断末魔の悲鳴を上げて、巨大ネズミが消え去る。
「惜しかったなぁ」
喉の奥で笑いながらバクラが獏良の方を向く。
そこにあったのは負の表情ではなく、余裕の笑み。
まさかと、バクラがソリの方を振り返ると、獏良の二匹目のモンスターが姿を現したところだった。
「なに!?」
獏良は新たなモンスターを召喚する気配を見せなかった。
だからこその不意打ち。
一体どうやって?
バクラの脳裏に疑問が掠めた。
「巨大ネズミの特殊効果は自らが墓地に送られた時に、もう一体モンスターを召喚出来ることだ。幻獣王ガゼル!積み荷を確保!」
遮るモンスターはいない。
獏良が勝利を確信したその時、
「罠カード発動!」
バクラの表情が一転し、高らかに宣言をした。
「攻撃の無力化!」
カードを掲げると共にモンスターが攻撃を止め、獏良の元へ引いていく。
「用意周到なことだね。それとも、最初からこうなるって予期してたの?」
「さぁな」
バクラがデッキから一枚のカードを選び出し、モンスターを召喚する。
「死霊伯爵、目覚めの時間だぜ」
夢魔の亡霊を生贄に、現れたゾンビの狂戦士が歯を剥き出しにして笑う。
「墓地に送ってやれ!」
死霊伯爵の持つ剣が一閃し、カゼルが真二つに裂かれた。
続いて畳みかけるように、バクラが死霊伯爵に攻撃を指示する。
「プレイヤーにダイレクトアタック!」
けたけたと奇怪な笑い声をあげながら、ゾンビが獏良に向かって剣を振り上げる。
「わ……」
新たにモンスターを召喚する暇も与えないほどの早さに、獏良は成す術がなく立ち尽くす。
「待ったぁあ!」
バクラの声にゾンビが紙一重のところで剣先を止める。
「危ねぇ……ゲームのノリで攻撃を仕掛けるところだったぜ」
冷や汗まじりにバクラが呟く。
危うく、獏良に傷をつけるところだった。
一方の獏良は攻撃を中断させる意図が読めず、訝しげにバクラを見た。
バクラは盗みの為なら強行手段も省みないと思っていたので、多少の負傷は覚悟していたのだが、予想外の行動に獏良は戸惑いを覚えた。
それに、わざわざ新しいモンスターを召喚しなくても、絶大の攻撃力を持つディアバウンドを使えば良かったはずだ。
ただ単に抜けているのか、盗賊なりの美学なのか、獏良には分からなかった。
いくら考えても獏良には本当の理由は分からないだろう。
諸々の疑問を検討している時間はない。
獏良がいま成すべきことは一つだ。
「罠カード発動!」
「は?」
突然の獏良の行動に、バクラは間の抜けた声を出した。
そんなバクラに獏良はにっこりと微笑みはっきりと言った。
「聖なるバリア・ミラーフォース」
聖なる結界はいかなる攻撃も跳ね返す。
どん
「……ありえねぇ」
死霊伯爵が跡形もなく吹き飛び、この場に残ったモンスターは全て消え去った。
「罠を仕掛けているなら、言えよ!」
非難の声を獏良に浴びせるが、当の本人は涼しい顔。
続いて死者蘇生のカードを放り投げた。
「お前も人の事、言えないじゃないか!ガゼル、奪取!」
いつの間にか、ディアバウンドの背後に回った獣の王が、盗品をソリごと奪い取り、
「行け!」
その場から離れ、走り去っていく。
「あっ!畜生ッ!」
バクラがディアバウンドに指示をする前に、手の届かないところまで離れていた。
獏良は翼竜を操り、バクラの隙をついて、その脇を走り抜ける。
「な……待ちやがれ!」
バクラに生まれた焦りを汲み取り、ディアバウンドが蛇の形をした尾でソリの進行を阻む。
「……!」
翼竜が激突の寸でで、急停車をした。
その衝撃でソリが大きく揺れ、獏良の身体が空中に投げ出される。
「わっ!」
どさり
獏良が手を打つ前に、
「……え?」
バクラが獏良の身体を受け止めていた。
「なんで」
バクラの腕の中で身じろぐことも忘れ、獏良が呟く。
「なんで助けるんだよ……大体、他の人にするように強襲でもすれば良かったのに」
「そういうワケにはいかねぇんだよ」
初めての至近距離での会話に、自然と獏良を支えるバクラの手に力がこもる。
「さっきもそんなこと言ってたね……何なの、お前……」
バクラの瞳を見据え、獏良が問う。
その瞳は見つめ返すのが恐ろしい程に青く澄んでいた。
「分かんねぇのかよ」
バクラが獏良の形の良い唇を指で撫でた。
「ん……なに……?」
甘く優しい伝える感触に、訳も分からずに思わず身をよじる。
唇に触れていた手がそのまま顎にかかる。
次の瞬間、
ぼすっ
バクラの全身から力が抜け、がっくりと膝をつく。
何が起こったのかと判断する前に、腹から鈍い痛みが伝わった。
目の前には右の拳を握った獏良の姿。
「てめぇ……」
「隙だらけだよ」
冷たくそう言い放って、ソリに飛び移る。
手綱を引き、先程までの余韻を振り切るように、夜空を駆け抜けていく。
バクラは容赦なく拳の入った腹を押さえながら、
「あの状況でこれはないだろうが」
と呻いた。
「……」
ディアバウンドは憐憫の眼差しで主人を見下ろしていた。
「お帰り~!」
遊戯が笑顔で獏良を迎えた。
「あいつのせいで、遅くなっちゃったよ。全く、人騒がせなんだから」
「あ……今年もダメだったんだ……バクラくん……」
遊戯は哀れみを含んだ声で小さく呟いた。
「え、なに?」
「んーと、バクラくんはプレゼントが欲しかっただけだと思うんだ。それも一つだけ」
「プレゼント?」
遊戯の言葉の意味が全く分からず、きょとんと首を傾げる獏良。
その様子に、
「バクラくん、可哀相……」
報われないバクラを思い、遊戯が目頭を熱くした。
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色々二人がしてますが、デュエルではなく、ディアハに近い方向でお願いします。
このままだと祝ってない気がするので(気のせいではない)、ちょっとだけ続きがあります。