ベッドの上で寛ぎつつ、ぱらぱらと雑誌をめくっていくうちに、ふと目が止まる。
それは何気ない写真だったけれど、僕の興味を惹きつけた。
「コート欲しい」
一人暮しを始めて、すっかり多くなってしまった独り言を呟いた。
見るだけで寒そうな風景の中、重装備をした数人。
もこもことしたコートが暖かそうだ。
今年の冬は寒い。
だからこそ特に思う。
新しいコートが欲しい。
買うならどんなのが良いかな。
ダッフルはまだ新しいのがあるし、トレンチが良いかな?
色は何色?
白が好きなんだけど、髪の色と同じだから、あまりよくないことになりそう。
でもマフラーでなんとか……!
僕は未練がましい気持ちで、ベッドの上で真剣に唸った。
白が映えるのは黒だと思うけど、黒は気がすすまない。
何となく、僕は自分で黒が似合わないと思ってる。
周りが薦めるから本当はそうでもないと思うんだけど、本当に何となく……黒という色を避けている。
黒というと、鋭くてクールな感じがする。
かっこいい人が着る色、そんなイメージ。
だから、僕みたいなのが着たらいけない気がして手が出ない。
こいつは……。
胸にかかった千年リングを弄る。
こいつなら、着ても平気なんだろうな。
ひがみ半分、羨ましさ半分で思う。
断じて、こいつがかっこいいと思ってるわけじゃない。
イメージ的な問題だ。
多分、こいつは黒が似合う。
僕の身体に住み着いているくせに、イメージが真逆ってどういうこと?
黒があまり気に入らない理由は他にもある。
白が良いと思う理由と言った方が良いかもしれない。
白は一般的に汚れ易いと言われている。
僕もそれは一理あると思う。
確かに真っ白な中にぽつりと他の色があったら、ほんの少しでも凄く目立つ。
でも、それは、本当にそうなのかな。
汚れはどんな色にだって付く。
それこそ黒にだって。
真っ白だからこそ、少しでも汚れたら、すぐ気付く。
すぐに落とそうと思う。
じゃあ黒は?
全ての色を混ぜた、どの色よりも深い色。
汚れても気付かない。
どんどんどんどん汚れていって
どんどんどんどん染められていって
気付いたときには、もう取り返しのつかないことになっている。
落ちない。
落ちない。
もう元には戻らない。
お前に似合うと思わない?
僕はぱたんと雑誌を閉じる。
すっかりコートを買うつもりであれこれ考えていたけれど、そんなお金あったけかな。
光熱費を節約して、食費を切り詰めればなんとかなるかも。
うん、いける。
今度の休みに買いにいこう。
真っ黒なコート。
僕からお前に、初めての贈り物。
大切にしろよ。
-------------------
了くんに黒を着せたら物凄くはまりそうです。
黒も汚れは目立ちますけどね。
これ、ちょっと、初冬辺りじゃないと…ちょっち季節外れです。