ばかうけ

何処からか微かに猫の鳴き声が聞こえた。
学生鞄とスーパーの袋を携えて住宅街を歩いていた獏良は、聞き耳を立てて鳴き声の出所を探った。
この時間は人通りが少ないので、鳴き声よく響いている。
すぐに見つけることが出来た。
アパートの裏の物置の影に段ボールが置かれていた。
その中には薄汚れたタオルが敷いてあり、白い子猫がその上に縮こまっている。
きっとこの近隣に住んでいる子供が、隠れて子猫の世話をしているのだろう。
はたして、この捨て猫のことを誰も気付いていないのだろうか。
獏良はその子猫の頭をそっと撫でた。
随分とやせ細っている。
この様子では腹を空かせているに違いない。
誰にでもある幼い頃のちょっとした思い出の中に、捨て犬や捨て猫の世話をした経験はないだろうか。
どうしても飼いたくて親に頼むが、戻してこいと一蹴されてしまう。
諦めきれない子供は隠れて世話をするのだ。
そして、いつしかそのペットたちは姿を消してしまう。
何処かへ行ってしまったのか、誰かに拾われたのか、最悪の場合は保健所へ……。
世話をされるのが野良たちにとって喜ばしいことか否かは人間には分からない。
拾うのも捨てるのも放っておくのも全て人間の我侭だ。

でも、

獏良は猫から手を放した。
立ち上がり、まだ鳴きやまない子猫を見下ろす。
突然現れて何も言わずに去っていくのは薄情だなと獏良は思った。

見返りを期待していないから餌はやらない。
勝手にいれば良い。
ただ、いなくなったら……少しだけ寂しいかもしれない。

「お前もそうなの?」

獏良は子猫に一瞬だけ目を細めて、そこを後にした。

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気にしないなんてウソ。

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