ばかうけ

これはきっと恋じゃない

朝も昼も夜も、
学校でも家でも外でも、
獏良は胸の痛みに悩まされていた。
胸が痛みだすのはきまってバクラのことを考えているときだった。
胸だけじゃない。
頭が締め付けられて、息が詰まるような気さえする。
自分の状態を突き詰めて考えて出て来る答えは……。
その答えを獏良は認めるわけにはいかなかった。
ありえないことだったから。

こんなに苦しいのも、悩みすぎて気分が悪いのもあいつのせい。
あいつが嫌いだから。
そう獏良は言い聞かせ続けた。
日に日に頭の中がバクラのことで埋め尽くされてゆく。

今まで獏良は他人に特別な感情を抱いたことはなかった。
家族も友人たちも好きだった。
憧れる程度にクラスメイトの女の子にほのかな想いを寄せたこともある。
それでも本当の恋をしたことはなかった。
だから、恋はもっと気分の良いものだと思っていた。
人を好きになるのはもっと綺麗なもの。
これは恋なんかじゃない。

恋じゃないけれど。
こんなにも心揺さぶる想いはなんだろう。
嫌いなはずなのに、もっとバクラを知りたいと思う。
もっと自分を分かって欲しいと思う。

もっとこっちを見て……
敵でもない
器でもない 僕を見て

いつの頃からか、バクラを見る目が変わっていた。
始めは確かに憎しみだったのに。
心はイヤというほどサインを出しているのに、認められない。
受け入れてしまったら元に戻れない。
悲しい想いをするのは獏良自身だ。
だから、気持ちにフタをする。

好きじゃない
嫌い
嫌い
はち切れそうな心を隠して鏡に向かって呟く。

「きらい」

これは最後のまじない。
この暗示が切れたら獏良は――。

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初心を思い出して。
恋と打つのにどうにも違和感でした。
やっぱりイメージは(色んなものを含めて)愛だな。
嫉妬とか独占欲とか汚いけど人間らしい恋を書いてみたくて。

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