同じような服を着た人間が多数集まっていれば、異様な光景に映る。
人は大量生産されたモノではない。
しかし、日本ではごくごく当たり前の風景なのだ。
例えば、学校。
服装や髪型がほぼ統一され、そこからはみ出した者は目立ってしまう。
規律を重んじる日本では、それは望ましいことではない。
その生徒の集団の中に獏良はいた。
何食わぬ顔で校門をくぐり、校庭へ足を踏み入れる。
だだっ広い校庭を玄関口までゆっくり進む。
ライトブルーの制服たちの中に、獏良はすっかり溶け込んでいた。
そこに全く違和感はないが、獏良だけが知っている。
部外者が一人だけ紛れていることを。
正確にいえば、元関係者だが。
ここは、獏良が以前通っていた高校だ。
転校を繰り返していた頃の中の一つ。
騒動が起きるまでの短い間だけここで過ごした。
取り立てて大きな思い出はない。
今でも着ている制服が、唯一ここにいたという証だった。
何か用があるわけではなかった。
ふとした思い付きで、偶然に出来た学校間の休みのずれを利用してやって来ただけだ。
面白いくらいに上手くいった。
獏良が他校生などと疑うものは誰もいない。
下駄箱でわざわざ持って来た上履きに履き替える。
記憶を頼りに廊下をうろつく。
放課後だけあって人影が疎らであるとはいえ、校内になるとちょっとしたスリルがある。
目立つ風貌をしていることを獏良は自覚している。
通っていた日数は少ないとはいえ、たまたま獏良を覚えている連中に見つかる可能性は充分にある。
適当な言い訳はいくらでも出て来るが、足止めをくらうのは煩わしい。
――最悪なのは元担任(せんせい)に見つかることかな。
ミニゲームでもやっているような気分になって、忍び笑いを洩らした。
普段ならバクラが「なにアホなことやってんだ」などとちょっかいを出して来るはずだが、今日は不気味なほど静かだ。
その理由を獏良は薄ぼんやりと悟ったので何も言わなかった。
この学校を去る原因はもちろんバクラである。
しかし、それを反省するような殊勝な性格はしていない。
やったことに対しては負い目を感じることはないが、触れられたくない獏良の過去であることは充分に理解しているので、接するのを控えているのだろう。
なぜここにやって来たのか、訝しんでもいるのかもしれない。
――遠慮をする必要がないとわざわざ教えなくてもいいや。
少しだけ意地悪をしたくなった。
人気のない教室の戸を開ける。
獏良のクラスだった部屋だ。
過ごした時間は短かったが、懐かしい。
席は確か……あそこだ。
窓際の机に視線を投げ掛ける。
短い間でも友人はできた。
事件が起こるまではそれなりに楽しく過ごした。
その頃は転校を繰り返すことになるとは思っていなかったので、まだ人と深く関わるのが恐ろしくなかった。
こうしていれば、自分はまだこの学校の生徒に見える。
現に誰も獏良の存在に疑問を持たない。
けれど……
けれど、それは制服を着ていることによって、「この学校の生徒」としか認識されていないからだ。
ここでは名前を持たない大勢の中の一生徒であるだけ。
誰よりも希薄な存在になってしまう。
ここに在ってないのと同じ。
己が霞んでしまうのは、本来は人間にとって恐ろしいことだが、獏良は不思議と安堵の表情を浮かべた。
「バクラ、帰ろう」
この町に来てから初めてバクラに向けて口を開いた。
「ん、もういいのか?」
姿も見せずに、静かにバクラがそれに答える。
「うん、終わったよ。僕の居場所はここじゃない。帰ろう」
それだけ言うと、行きとは反対に脇目も降らずに学校を後にした。
獏良は一度も振り返らなかった。
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了くんの昔の学校生活を想像すると楽しいです。
絶対最初の学校はブレザーのお坊ちゃん男子高校だと思ってます。勝手に。
あの制服は二、三校目じゃないかなあと。あとはそのまま…。
いつものことですが、これでもバク獏なんです。