「うーん、やっぱりあんまり見えないなぁ」
望遠鏡から目を離し、残念と獏良が息を吐いた。
星を見てみようと、せっかく風流な気分になったのに肝心の星空が見えない。
雲が一つもない夜だというのに。
街の明かりが強すぎる、空が濁りすぎている。
幼い頃の方が星が沢山見えていた気がする。
夜空から目を離していた間に、どれだけ空は汚れたのだろうか。
「バクラー、バクラも見る?」
姿無き同居人に声をかけてみる。
返答は無かった。
それでも獏良は再び望遠鏡を覗く。
バクラに見せてやる為に。
自分の目を通して、もう一つの目が夜空を見ているのを感じた。
「……何も見えねぇよ」
「でしょ」
「星なんぞ見て、楽しいかぁ?」
相当飽きているらしい。
さっさと部屋に入れと言わんばかりだ。
「んー。今日は見たい気分だったんだ」
「はー。それはそれは」
獏良がバクラの横暴さに慣れているのと同じく、バクラは宿主様の変わった気まぐれに慣れていた。
掴みどころがなく、振り回されて一人相撲をするだけ無駄だということを知っていた。
「本当はいっぱい星があるはずなのにね」
「ああ」
遠い昔、遠い地で、夜空中に広がる星々を見たことがあった。
その時は当たり前すぎて、気にも止めなかったが。
「星はいっぱいあるんだ。僕たちみたいに」
地上を映す湖面のように。
人の灯を映し、瞬く。
時に弱く、時に力強く。
死人は星になるとはよくいったものだ。
「僕はどの星かなぁ」
「さぁな」
ぶっきらぼうにバクラが返した。
少なくとも今の夜空に獏良はいない。
もっと大きく、輝いているはずだ。
そこらへんのちんけな星と一緒にしては困る。
口には出さなかったが、強くそう思った。
「バクラはどうやって沢山の中から僕を見つけたの?偶然?」
数えきれない星々の中で出会った二つ。
「奇跡?」
人はそう呼ぶ。
「はっ、オレ様は奇跡なんて信じねぇよ」
どんなに願っても、それが起きたことはなかった。
バクラは自分の力で突き進んできたのだ。
奇跡があるとするなら、奇跡を起こすのは――。
「オレ様がお前を探したから、見つけたんだ」
当たり前なことを言わすなと、バクラが鼻を鳴らした。
「そうだね」
くすくすと獏良が笑った。
予期していない答えとはいえ、バクラらしい。
「僕も……僕もお前を待ってたから、出会えたんだね」
真似すんなと、照れた口調で愛しい人の声が返ってきた。
幾つもの星の中から必ずお前の光を見つけるから。
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星空を眺める映画の1シーンに感化され。