「神様なんて信じないよ」
唐突に獏良がそう呟いた。
テーブルに向かって黙々とTRPG用のシナリオを書いていたのに急に顔を上げたので、さすがにバクラも数回目を瞬いた。
しかしすぐに、息抜きの言葉遊びか何かを始めたのだろうと思い、
「宿主様は無神論者なのかい?」
少しおどけた調子で返した。
獏良は無表情でどこか遠くを見つめている。
「そんな大層な考えは持ってないけど」
声にも感情がこもっていない。
これでは独り言だと錯覚してしまいそうだ。
どうやら、暇潰しや討論をする気ではないらしい。
バクラは肩透かしを食らったような気分だった。
次は何を言い出すのかと、じっと獏良を見つめる。
それに対して、獏良は決して視線を動かそうとしない。
「あの娘がいなくなったから。どんなに祈っても駄目だった」
酷く不親切な回答だが、元々いちいち言動の説明をし合うような関係でもないので、特にバクラは口を挟まない。
「あの娘」とは恐らく妹のことを指しているのだろう。
そして、その妹はこの世にはもういないことをバクラは知っている。
だから、もう神には祈らないと、そう言っているのだろう。
どうにもならないことがあると、早くに知ってしまったから。
テーブルの上に転がっているダイスを獏良は軽く指で弾いた。
それは小さくその場で踊るように回る。
何回もダイスは弾かれ、無機質な音を刻む。
「僕ね、ダイスロールは好きなんだ。どこまでいっても確率は同じじゃない?1が出て欲しいとかは思うけど、結局出る結果は公平だし。安心して任せられる」
だから、ダイスの目の吉凶も受け入れるということか。
バクラは同じ確率なら良い方に当たるように仕向けたいし、負けたら納得はいかない。勝利しか意味がないのだから。
それでも、獏良の言っていることは、何処かの誰かに自分の命運を託すより遥かに理解が出来る。
「オレ様は端から神サマなんて信じてねえし、祈るよか自分で勝ち取りに行くけどな」
それはずっと以前、獏良と同じように感じた喪失感。
結局は頼れるものなんて、自分自身の力のみと悟ったあの日。
それから今日までその考え方が揺らいだことはない。
獏良が初めてバクラの方を向いた。
「僕の流儀からは外れるけど、そういうの、好きだよ」
そう言ってバクラを見つめ、柔らかく微笑んだ。
不意打ちに戸惑って、バクラは目線を外した。
なんて無垢な顔をするのだろうか。
本来は自分に向けられるものではないだろう。
「お前はもうちょっと闘争心を持った方がいいんじゃねぇの」
思わず憎まれ口を叩いて動揺を誤魔化した。
「んー……考えとくよ」
獏良はいたずらっぽく唇を上げる。
「じゃあ、何が出るか賭けてみない?僕は9」
掌にダイスを乗せて見せた。
もう、感情の無い顔はそこにはなく、いつものけろりとした顔だった。
「いいぜ。0」
お互い正反対の数字を賭けると、獏良の掌からダイスが躍り出た。
勢い良く回るダイスを二人は見つめた。
どこの目に止まろうと、後悔はしない。
自分で出した答えなのだから。
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休日の午後のひととき。