ナイチンゲール
ナイチンゲール
どうかその声を聞かせておくれ
どうかお前のその美しい歌を
夜にお前が鳴くのならいつまでもそばにいてあげる
だからその声が枯れるまで私に歌を聞かせておくれ
ナイチンゲール
ナイチンゲール
私の可愛い人よ
一人目は粗暴だった。
だから、乱暴を働けないように全身を燃やしてやった。
二人目は強欲だった。
だから、他人を食い物に出来ないように呪いで病にしてやった。
三人目は愚かだった。
だから、浅はかな行動で身を滅ぼさないように心を砕いてやった。
四人目、五人目になると、もう覚えていない。
自分が意識する前に、常人ならば身に付けただけで命を落とす。
幾人も目の前に現れては、その身に耐えられず消えていく姿が目に焼き付いている。
もはや記憶は朧気で、しかし己の存在感だけは強烈にあって、自我と存在意義がせめぎ合った。
何の為に生きているのかなんて愚問だ。
何故いまだに生きているのか。
いや、「これは」、生きているのか。
自問自答を繰り返し、自分が分からなくなる。
本当は分かっている。でも、分からなくなる。
しかし、抗うことはしない。
このままやがて、一つの結末に辿り着くことを知っているから。
遠い昔に結び付けられた運命の環は簡単には解けない。
いずれ必ず同時に目を覚ます。
七つ全てが集まる。
数百人もの命を犠牲にして出来た因縁はまだ切れていない。
最後に手にしたのは、冴えない男だった。
また、呪ってやろうと手ぐすねを引いて待つが、一向に身に付けようとしない。
大概の人間はその魔力に惹かれて、身に付けてしまうのに。
その理由は後に分かった。
それは、息子の手に渡った。
今までは財力のある者たちの手から手に渡っていたので、比較すると少々若い所有者だった。
見覚えのある髪の色だけが印象的だった。
少年がそれを首からかけると、一瞬で心の奥まで見透かすことが出来た。
透明色。
表現するならそうなるだろう。
少年らしく純粋な色を残し、その純粋さゆえに陰がある。
「面白い」と、思った。
何より、身に付けても少年は影響を見せなかった。
その内に自由に手と足が動かせるようになった。
喋れる、走れる、呼吸が出来る。
こんなに素晴らしいことはない。
やがて、とうとう、少年に声が届くようになった。
三千年ぶりの対話に、心が歓喜する。
そこで初めて運命だと知った。
ロマンティックな意味ではない。
もっと、傲慢な意味で、だ。
全てはここに辿り着くためだったと感じた。
最初で最後の宿主だった。
しかし……
一つ誤算をした。
まさか、戒めを解き放って抵抗されるなんて。
初めて心を覗いたときに気付くべきだった。
純粋な心は危うさと同時に強さを持つのだと。
腹も立つが、得るものもあった。
勝っただの負けただの駆け引きをするのは今じゃない。
何よりこの宿主は大事なものだ。
失うわけにはいかない。
いつ、気付くのだろうか。
魅せられて、離れられないことに。
それとも、気付かないふりをし続けるのだろうか。
この胸の内を。
捕まえられたのは……
ナイチンゲール
ナイチンゲール
麗しい声に引き寄せられて
出会った夜は孤独だから
二度と離れたくなくて
何度も歌い上げる
どうか私を選んで下さい
選ばれるのは私の方だから
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小夜啼鳥(ナイチンゲール)は夜に雄が雌を歌で呼び寄せるそうです。
ワイルドの「バラの木とナイチンゲール」がイメージでした。