ばかうけ

お前は何が好きなんだろう。
お前は何が欲しいんだろう。
お前に何をしたら喜ぶんだろう。

いつかみたいに、無理矢理なやり方では駄目だ。
「友達とずっと一緒に遊んでいたい」
あれは宿主の為にやったんじゃない。
でも、自分だけが報われたり、他人を犠牲にするような選択は好まないことは分かった。
私利私欲に飲まれるような奴なら、千年リングの邪気に取り憑かれて無事では済まないだろうから、当然といえば当然か。
何をすると宿主が嫌がるのか、どう接すれば無難なコミュニケーションが取れるのか、形だけの共存の為にそんなことを考えるようになった。
そのうちにいつの間にか、どうしたら喜ぶのかと思考が切り替わっていた。
全く以って無意味な話だ。
必要以上に媚びを売ったところで、得があるわけじゃない。
分かってはいるが、簡単に止められるものじゃなかった。
例えば、部屋で塞ぎ込んでいる時に何か声をかけるべきか悩む。
外でトラブルに巻き込まれそうになれば助けに入るべきか悩む。
こいつは何をしてやれば笑うのか……。
このオレ様がそんなことを考えるなんて頭がどうにかなったとしか思えない。
でも、こうなったのは自然な流れだった。
これじゃあ……この気持ちは、「人間」みたいじゃねえか。

「お前だって人間だろ」

大昔、「人間」だった頃、多くの感情が胸の内で渦巻いていた。
人並みに喜び、笑い、怒り、悲しみ、本当に忙しかった。
それが段々と悲しみや怒りで埋め尽くされていき、最後は負の感情がごちゃ混ぜになって気づいた時には全く別のモノになっていた。
人間はとても愚かなもの。
自分の欲に忠実で、自分さえ良ければ他人の事などは構わないと思っている。
表面上は善人の仮面を被っていても、ちょっと突いてやればすぐに本性を剥き出しにする。
そうして、千年リングに近づく人間たちを数えきれないほど滅ぼしてきた。
多くはオレの意志とは関係なく、千年リング自体が持つ邪気に当てられたんだが。
人間の手から手へ渡り歩き、最後に辿り着いたのが獏良了だった。
千年リングの持つ力に屈しない稀有な存在。
オレの待ち望んでいた宿主。
まあ、オレの力まで跳ね退けたのは計算違いだったが……。
今まで見てきたどの人間とも違って興味を引かれた。
あくまで器として。
それが、いつの間にか獏良了自身を見ていた。
新しく生まれた感情には少なからず戸惑った。
そんな感情を持つ余地がまだ自分にもあったのかと。
ありえないことだった。
思い返せば人間だった頃も、一人の人間に固執したことなんてなかった。
おかしい話だ。
人間じゃなくなった今、新しい感情を覚えるとは。

「人間は脆い。不便な生き物だ」
「お前だって人間だろ」
ある時、宿主は不快感を隠そうとせずにそう言った。
オレはただアホみたいに黙って宿主を見つめることしか出来なかった。
このオレ様が人間だと?
人間だと認めるのかお前が。
宿主のお前が。
「なんなの?」
黙ったままのオレを訝しげに宿主が見つめ返した。
「今なんて言った?」
「お前だって人間だって言った。あまりにも他人事のように言うから。お前だって、くだらない生き物だよ」
ムスッとしながら言うもんだから、腹が立たなかったわけじゃない。
それよりも……
「なに?ニヤニヤして気持ち悪いんだけど」
お前といれば不自由だった頃の自分を思い出してむず痒くなる。
それが案外悪くなかったりする。

--------------------

バクラの内面を書くのはちょっと難しいです。

前のページへ戻る