ばかうけ

「あっ!あー!!」
教室内で子供特有の甲高い叫び声が上がった。
「どうしたの?」
クラスメイトが口々に心配をしながら集まってくる。
「……こわれた」
涙を目に溜めて訴えたのは、普段は活発が自慢の少年。
手には夏休みの自由工作で作った空き箱製のロボット。
無惨にも足がひしゃげて自立できないようになってしまっている。
ちょっと直そうとしただけなのだ。
ずっと教室の後ろに飾ってあったのだが、どうしてもバランスの悪いように思えた。
だから、胴体と足を繋いでいるセロテープをそっと剥がして、ちょっと格好良くしようとしただけ。
それなのに、指に力が入りすぎてしまった。
ぐしゃ!

哀れにも少年の手の中で、ロボットは破壊されてしまった。
集まったクラスメイトは少年に同情しつつも、どうしようも出来ないでいた。
足の部分の厚紙はベコベコに皺が寄っていて、直そうにも直せなさそうだった。
もうロボットは立てないだろう。子供でもそんなことは分かった。
「先生呼んでこよっか……」
誰かがそう言った。
そうだ。そうした方がいい。
ロボットを直すことは大人にだって出来ないが、少年を慰めることはしてくれるはずだ。
その場にいる全員がその提案に頷いた。

「ちょっと見せて」

ざわつく教室の中、優しげな声が響いた。
声の主にクラスメイトたちは少しだけ驚く。
いつもは目立つようなことをしない少年だったからだ。
少年は今まで読んでいた本を机に置き、椅子から立ち上がった。
活発自慢の少年も呆気に取られた顔で少年を見ていた。
壊さないように優しくロボットを受け取ると、少年は自分の席に戻っていった。
後ろにロボットの持ち主とクラスメイトたちがついてくる。
そして、少年は机の上にロボットを背面が上になるように置いた。
「少しだけ弄っていい?」
訳も分からずに持ち主が頷く。
この場にいる全員が、「もう壊れてしまっているのに何を言っているだろう」といった面持ちだった。
「ごめんなさい」
誰に向けてでもなくそう言うと、少年は教室に置いてあったティッシュ箱を掴んだ。
自分の道具箱からカッターを取り出し、箱の側面を器用に切り抜いた。
赤い模様の箇所だけを切り出したので、小さな赤い厚紙が出来た。
それをさらにカッターで形を整えていく。
ひしゃげてしまったところを伸ばし、ロボットの背面に厚紙で作ったパーツを当てる。
小さな紙でも上手くボンドを付け、丁寧に貼っていった。
そうして、足の付け根から足元まで、赤い厚紙で補強をしていったのだ。
最後に地面と接する足の部分を、全体的に厚紙で包んで安定するようにした。
作業が終わり、少年がロボットを立たせると、真っ直ぐに自立した。
ひしゃげた部分は目立たなくなり、元々の白色に新たに足された赤色がくっきりと映え、前よりもずっと見映えが良くなっている。
「うわあ!かっけー!」
ロボットの持ち主が表情を明るくして歓喜の声を上げた。
クラスメイトたちもその魔法ような技に湧き立った。
「すごい!」
大人でも出来なかったであろうことを少年が簡単にやってのけたのだ。
今まで目立たなかった少年に対し、クラスメイトの視線が羨望の眼差しに変わる。
「獏良くんって器用なんだね!」
そう褒められて、獏良は顔を赤くした。
「こういうの好きなだけ……」


それから、主に図工の時間では獏良はちょっとした主役だった。
上手く出来ないところや、分からないところをクラスメイトたちが、獏良に相談をするようになったのだ。
行事で物作りをする時も同様だ。
言葉控えめながらもアドバイスが適切なので、その時はクラスの人気者になれる。
獏良も悪い気はしないし、クラスメイトたちも偉ぶらない獏良を気に入った。
頼りすぎない、出しゃばらない、いい関係だった。


それを輪の外から見ていたのは、獏良の中に宿るバクラだ。
「ふーん。器用だとは思っていたが、想像以上じゃねえか」
まるで自分のことを誇るような言い方をする。
「お友だちにも好かれて結構なことだ」
元々はもう少し活発な少年だった。
家庭で色々あったせいで、あまり自分を表に出さないようになってしまっただけなのだ。
こうして、何かきっかけがあれば以前のように明るい表情を見せられるようになる。
友人に向けて優しく微笑む幼い獏良を見て、バクラは唇を引き歪めて笑いを浮かべた。
獏良は人に嫌われるタイプではないので、このままクラスメイトと接していれば、もっと大勢の友人が出来るだろう。
「良かったなァ、宿主様」
バクラは両手の親指と人差し指をL字型にして組み合わせ、指フレームを作った。
そのフレーム内に獏良を中心に複数のクラスメイトを収める。
それはとても穏やかで優しい光景だ。
「いいよな。でも……」
バクラはさも愉快そうに笑った。
「いらねぇよなァ、そんなの」
作ったフレームを自ら押し潰すように、両手を上下にぱちんと合わせた。

「ぐしゃ!」

それは彼が真実を知る前の話。

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ちょっと映画要素も含みつつ…。
過去話は色々想像出来ますね。これで独り占め。

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