ばかうけ

1999年7の月。
空から恐怖の大王がやって来る。
世界を終わらせるために。


その頃、世間は大昔の予言のことで騒いでいた。
世紀末という特殊な時期だったこともあるんだろう。
20世紀が終わると同時に、世界も終わってしまうかもしれないと思う人たちがいたんだ。
決して、一つの時代が終わることを悲観していたわけじゃない。
100年に一度の特殊な状況に、みんなで熱狂していたんだ。
ある日を境に世界が終わってしまうなんて、非現実過ぎて騒ぎたくなるだろう?
その予言を書いた本人は、とっくの昔に死んでしまっているのに、ああでもないこうでもないと、大人も子供もただの短い文章で弄り回したんだ。


僕も例に漏れず、ワクワクしていた。
世界の終わりなんて望んでなかったけど、その日に何か特別なことが起こるんじゃないかって期待をしてたんだ。
普通じゃありえないことが起こって、世界ががらりと変わるかもしれない。

動物たちが喋りだすかも。
おやつの時間が増えるかも。
ああ、早く恐怖の大王、来ないかなあ。

そんな子供じみた想像をしてた。
いきなり世界が終わるなんて言われても、ピンと来なかったということもある。
僕の世界は小さくて、
父さんと母さん、天音、それに友だち――。
それ以外に思いつかなかったんだ。


だから、呆気なく予言の日が過ぎて、いつも通りの日常がやって来たとき、僕は少しガッカリした。
『なあんだ。恐怖の大王は来なかったんだ』って。
でも、確かに恐怖の大王はやって来ていたんだ。
「世界に」でなく、僕の元へやって来ていた。
その日、僕の世界は終わった。
父さんも、母さんも、天音も、友だちも。
みんないなくなった。


「それで?後に残ったのは、このオレ様だけってワケか」
そいつはなぜか嬉しそうに笑って、身体を前後に揺らした。
自分が恐怖の大王とでも思ってるんだろうか。
「いやいや、子供の頃の話だからね。もう、そんなこと思ってないから。お前とか関係ないし」
僕はもう予言も、恐怖の大王も、信じてない。
そんな子供の時代は終わった。
何も出来なかった子供ではないけど、失ったものはもう取り戻せない。
手元に残ったのは、千年リングだけだった。
そう考えてみれば、こいつの言っていることは、ある意味正しいのかもしれない。
そんなこと言っても、喜ばせるだけだから言わないけど。
僕を自分だけのものだと思っている節があるからな……。
いまの僕には、遊戯くんや城之内くんたちがいる。
もう一人きりじゃないんだ。
それを勘違いしてもらっちゃ困る。
僕は態度で負かされないように、腕を組んで胸を反らした。
目の前の、僕と同じ姿をしたこいつは、ますます嬉しそうに目を細める。
何がそんなに楽しいのか分からない。
初めて話しかけられた時から、こいつはずっとこうだ。
「世界なんて簡単に変わるぜ」

確かに、あの日から僕の世界は変わったんだ。
終わった世界が、また始まった日。
その日のことは、絶対に忘れられない。

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良い意味でも悪い意味でも、了くんの世界を変えたのはバクラだといいなー。

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