ばかうけ

心の部屋の中で、二人は何も身につけずに抱き合っていた。
それまでの行為の痕は、お互いの肌に残っている。
何度も何度も、口づけを交わしては肌を合わせる。
そんなことをずっと繰り返していた。
「……好き。大好き」
キスの合間に熱のこもった言葉が、獏良の唇から零れ落ちる。
バクラもそれに応えて、
「宿主、お前は俺だけのものだ」
優しい眼差しで獏良を見つめる。
二人だけの優しい時間だ。
こんな関係になってから、随分と経つ。
始めは利用し、利用されるだけの間柄だった。
いつの頃からか会話をするようになり、獏良が少しずつ頑ななバクラの心を溶かしていった。
ほんの少しずつの変化だったが、バクラにとっては大きな変化。
転機となったのは、やはりバトルシップでのやりとりだ。
獏良の命を救ったことで、バクラは少なからず動揺した。
利用していたはずの器に、情が移っていたことに気づかされたのだ。
獏良の方も深い感銘を受けた。
最初に手を差し出したのは獏良の方だ。
戸惑いながらも、バクラはその手を握り返した。
一度手を取ってしまえば、後は流れるようだった。
初めからそこにあったように、お互いがお互いの心の隙間にピタリと嵌まった。
元々、千年リングに導かれて出会った二人なのだ。
当然といえば、当然だった。
身体の関係を持つのに時間はかからなかった。
バクラは緊張しきりの獏良をリードしてやった。
何しろ唯一無二の存在なのだ。
なるべく優しく壊れないように扱った。
愛撫一つ一つに反応をする獏良のことを心の底から愛しいと思った。
誰にも知られるわけにはいかない。
隠れて二人は愛を囁き合った。
ずっとこの時が続けばいいのにと、獏良は思った。
永遠に一緒にいられることはないと、二人とも知っている。
あくまで、バクラの目的は一つ。
それが果たされるのかは不明だが、どう転んでも離ればなれになる。
分かりすぎるほどに分かっている二人は、先のことは口にしないようにしていた。
時折、獏良はその境界線に触れない程度の疑問を口にする。

「世界が闇に染まると、どうなるの?」
「どうなるかだと?……光がなくなって闇一色になるな。平等に」
「それっていいこと?」
「お前にとっていいことではないな。何もかもなくなっちまうんだぞ」
「シュークリームの店も?」
「はっ!シュークリームの店は残しといてやるかァ」

お互いに核心には触れない。
ぎりぎりのところを確認するように言葉を交える。
笑い合っては、「まだ大丈夫だ」と安心するのだ。
二人の儀式みたいなものだった。
「バクラ、抱いて」
確認の後は、どちらかが求めて、思いきり抱き合う。
どちらも突っぱねることはしない。
服を脱ぎ捨てれば、不安も恐怖も忘れられた。


「やっと完成か」
バクラから頼まれ、少しずつ作っていたジオラマが完成した。
獏良は額の汗を拭い、自分の作品を改めて眺める。
本でしか見たことがない古代エジプトの町並み。王宮や遺跡もある。
学校に通わなければならないし、だいぶ時間はかかってしまった。
それだけに、今まで一番の傑作だ。
完成させた自分のことが誇らしく思える。
バクラはこれを見たら何と言うだろうか。
想像するだけで心が弾む。
息をすることも忘れるくらい集中していたので、少し足元がふらついた。
――いったん帰って一休みしたい……。
その前に、道具や材料が散らばったままなので、片付けなければならない。
よろよろと床に起きっぱなしになっているスプレー缶を拾おうとして、バクラが姿を現していることに気づいた。
完成したジオラマの縁に手をかけ、古代エジプトの町並みを見下ろしている。
「起きてたの」
獏良はいつもの調子で話しかけた。
「よく出来てるな」
後ろも振り向かずに、ジオラマを見つめたまま、バクラが口を開いた。
想像した通りの誉め言葉に、獏良は満足げに胸を張る。
「僕の本気を思い知った?」
「これで最後のゲームを始めることが出来る」
まるで、獏良の声は聞こえていないかのように、バクラは言葉を続けた。
意味は分からなかったが、獏良は「最後」という言葉だけは、聞き逃すことは出来なかった。
「最後って……。どういうこと?」
二人の間では、今まで決して残された時間のことは口にしなかったはずだ。
「言葉通りの意味だ」
バクラの声には抑揚がなく、壁に向かって話しているかのようだった。
「ねえ、どうしたの?急に変だよ」
いつまでも背中を向けられていることが無性に寂しい。
どうか、こちらを見て話して欲しい。
バクラの顔を覗き込もうとして、ぎくりと硬直した。
同時にバクラが振り向いたのだ。
その瞳には何も映っていなかった。
恐ろしく無感情な瞳。
元々バクラは鷹のように鋭い目つきの持ち主だ。
それが今では、獏良に対して何の興味も抱いていない眼差しを向けている。
獏良は気圧されてしまい、話しかけたくても口が上手く開かなかった。
「こんな肉体なんて必要ねえってことだ」
心臓を鷲掴みにされたようだった。
昨日までのバクラなら絶対にこんなことは言わなかった。
ならば、今日ここに立っているバクラは……。
「うそだ……」
呆然とした獏良の口から、ぽろりと零れ落ちる。
「なんでそんなこと言うの!」
震える手を握りしめて、バクラに詰め寄った。
対するバクラは眉一つ動かさずに答える。
「なァ、なんで器ごときがオレにそんな口を聞く?」
息が止まるとは、このことを言うのだろう。
獏良は口を薄く開けたまま血の気を失った。
「あまりうるさいと、その口を利けなくするぞ」
目の前にバクラの手が突き出される。
バクラがゆっくりと爪を立てるように指を折り曲げると、
「うっ……!」
獏良の胸が急に締めつけられた。
どうしようもない痛みに、獏良はたまらず床に崩れ落ちる。
そんな獏良を冷たい目が見下ろす。
「それ以上、痛い目に遭いたくなければ、大人しくしてるんだな」
打ち解けてからは、見ることがなくなった目だ。
まるで、童実野高校に転入した頃に戻ってしまったようだった。
打ち解ける前でも、ここまで乱暴にされたことはなかったので、あの頃以上かもしれない。
「お前以上に大切なもんなんかねェよ」と囁いてくれたバクラは、どこに言ってしまったのだろう。
獏良は顔を覆い、嗚咽を漏らした。
泣きじゃくる獏良に、何も言葉は掛けられなかった。


それから、会話を交わせないまま数日が過ぎた。
バクラはまるで獏良の姿が見えないように振る舞い続けた。
獏良が話しかけようとしても、刺すような目つきで睨まれたら、言葉が出てこなくなる。
また、獏良の記憶がふっつりと途切れることが増えた。
今に始まったことではないが、頻繁に身体を勝手に使われるのは非常に困る。
ましてや、今の状況では不安が尽きない。
自分の感覚では何もしていないのに、身体に疲労が溜まっていくのだ。
このままでは倒れてしまうかもしれない。
以前までは、バクラが配慮して身体を動かしていたことに改めて気づかされた。
倒れてしまったら、お互いに困るはず。
今日こそバクラに訴えなければと、獏良は決意して、バクラの心の部屋の前に立った。
もちろん、言いたいことは他にもたくさんある。

「どうしちゃったの?」
「お別れなの?」
「今までのは……嘘だったの?」

どうしても、頭の中がネガティブな言葉で埋め尽くされてしまう。
慌てて頭を振り、それらを打ち消した。
しっかりと話さなければならないのだ。
深呼吸をしてからドアを開けた。
部屋の中はほとんど見えないほど、薄暗くなっていた。
獏良はゆっくりと中に足を踏み入れる。
いつもより、ひんやりとした空気が身体を包み込む。
暗さといい、温度といい、今までのバクラの心の部屋とは全く違っていた。
獏良の知る部屋は、決して明るくはないものの、もっと暖かい。
臆さずに前へ進むと、奥の壁にバクラが背をもたれて座っていた。
何もない場所に片膝を立て、その上に両手を乗せて、じっとしている。
ただ座っているだけなのに、無言の圧力があった。
それでも、獏良は話しかける。
「あの……最近、何をしてるの?」
答えはない。
「怒るつもりはなくて、気になってるだけなんだ。あまり外出が多いと、身体が辛くて。体調を崩しそうなんだよ」
出来る限り言葉を選んで口にする。
バクラは少しも動かない。
「……だから、外出を少し控えてくれると嬉しいんだけど」
あまりに無反応なので、最後の方はバクラの顔色を窺っていた。
獏良が黙ると、重苦しい沈黙が二人の間を流れる。
言うべきことは言ってしまった。
どうしたらよいのかと、獏良が戸惑っていると、初めてバクラの視線が獏良に向けられた。
「……そうだな」
ゆっくりとバクラはその場に立ち上がる。
口元には薄い笑みが浮かんでいた。
反応があったことで、獏良の緊張が少しだけほどける。
が、次の言葉で頭から冷水を浴びせられたような気分になった。
「全く使えねえ身体だ。うんざりするぜ。もう、用なしのクセによォ」
ひたひたとバクラが歩み寄り、獏良の肩にぽんと手を乗せる。
友人相手にするような気軽さだった。
しかし、向けられたバクラの瞳は、井戸の底を覗き込んだように暗い。
「あ……」
乗せられた手は、しっかりと獏良の肩を掴んでいる。
「でも、一つだけあったなァ。使い道」
バクラが歯を剥き出して笑った。
獏良の視界がぐるりと回る。
次の瞬間には、天井を見上げていた。
床の冷たさを背中で感じ、身体を引き倒されたことに気づいた。
獏良の足元に立つバクラは、にやにやと不気味な笑いを浮かべている。
目だけが鋭くぎらぎらと光り、獏良を怯えさせた。
「思う存分、役に立ってくれよ」


抵抗するも空しく、獏良は服を剥ぎ取られた。
知っているはずの手が冷たく感じ、撫でられる度に身体に震えが走る。
それでも、身体が反応してしまうのは止められない。
腰を掴まれ、身体をまさぐられている最中も声が漏れてしまう。
獏良に快楽を教え込んだ相手が、獏良の身体に乱暴に押し入る。 皮肉なことだった。
身体中に受けたキスも、優しく撫でた手も、身体が覚えている。
同じ相手のはずなのに、別人のようだ。
しかし、身体は反応してしまう。
早く終わって欲しいと、獏良は願い続けた。
「随分と慣らされているんだな。誰に教えられたんだか」
後ろから獏良を押さえつけながら、バクラが耳元で囁く。
「君じゃないか……全部君が……」
抵抗できないのも、身体が反応してしまうのも情けなくて、獏良の頬に涙が伝う。
「全部、君が……」
ずくんと身体の中を深く抉られる。獏良の口から言葉が消え失せ、息だけが漏れた。
「ああ?うるせぇなァ。なに言ってンだ。てめえは」
バクラは獏良のことを気遣うこともなく、自分本位に身体を打ち付ける。
獏良の言葉を打ち消すように、何度も何度も。
「き……ヒッ……、君が全、部、教えて……くれた、んじゃないか……」
それでも、獏良は声を絞り出して訴えた。
二人の心が繋がっていた時のことをなかったことにはしたくない。
「君が……ッ!」
「はあ?」
バクラから返って来たのは、無情にも嘲笑混じりの言葉だった。
「ワケ分かんねーこと言ってんじゃねェよ。しっかり腰を上げろ」
ピシャリと尻を叩かれる。
「うう……」
バクラが飽きるまで耐え難い責め苦は続いた。
そんな中でも、獏良に釈然としない気持ちが生まれていた。
バクラの態度は、なかったことにしたというより、まるで今までのことを忘れてしまったかのようなのだ。
――どうして?
考えても考えても、答えは出てこなかった。


獏良が大人しくしていれば、バクラは乱暴なことはしなかった。
獏良の存在がないかのように振る舞い続けたのだ。
無視をされるのは心がちくちくと痛むが、暴力に出られないだけましだ。
ただ、思い出したように抱かれることだけは耐えられなかった。
抵抗しても勝てるはずはない。
涙を流して時が過ぎ去るのを待つしかなかった。
やはり、バクラには二人で過ごした時の記憶がないようだった。
身体に触れる手つきが別人のようなのだ。
獏良の身体のことはよく知っているはずなのに、初めて触れるような反応を見せる時もある。
肌を重ねることで、それが分かるなんて皮肉でしかない。
獏良はベッドの上で抱き枕をきつく抱きしめた。
「二人のこと」だけなのだ。
バクラが忘れているのは。
獏良にはバクラが為そうとしていることは分からないが、その目的を見失っているわけではないことは見ていて分かる。
遊戯を――千年パズルだけを見つめている。
今のバクラには、それだけしか映っていない。
獏良のことなど、少しも入る余地がないのだ。
抱き枕に顔を押し付ける。

優しく触れられるのが嬉しかった。
手を止めてまで気遣われるのが嬉しかった。
獏良だけに向けられる微笑みが嬉しかった。

じわりと抱き枕に水滴の染みが広がる。
もう、今までの彼はいないのだ。
その事実が獏良の胸を締めつける。
最後のゲームだと、バクラは言っていた。
そのゲーム相手のことは、想像するのに難くない。
「必要ない」とは、まさしくそのままの意味なのだろう。
獏良がバクラに出来ることは全て終わったのだ。
だから、全てなかったことになった。そういうことなのだろう。
何か別のモノに突き動かされているような心地だった。
バクラではない。別の何かに。
――でも、僕は……。
獏良の脳裏に優しい眼差しのバクラが浮かんだ。


バクラは黒のコートを羽織り、美術館の隠し部屋に再びやって来ていた。
完成したジオラマに何かを仕込んだり、椅子や棺を運び込んだり、淡々と作業をこなしていく。
最後の仕上げなのだろう。
身体の操縦権を奪われた獏良は、横でそれをぼんやりと眺めていた。
大方終わったのであろうタイミングでバクラに声をかけた。
「それで終わり?」
「そうだ」
計画が滞りなく進んでいるように見えて、バクラの機嫌はいい。
素直に返事が返ってきた。
黙っていれば、今日は何もされないだろう。
しかし、恐らく今日しか時間はないのだ。
これから獏良が話すことは、バクラを怒らせるだろう。
しかし、絶対に伝えなければならないのだ。

「君は負けるよ」

部屋に獏良の静かな声だけが響いた。
バクラはその言葉に目を剥いて怒りを表した。
「遊戯くんは絶対に負けない。君は完膚なきまでに負かされるんだ」
今度は力を込めて言い放った。
すぐにバクラの右手が伸び、獏良の首を掴んだ。
同じ身体を共有するもの同士、実際に首を締めつけられているわけではないが、獏良は息苦しさに見舞われる。
「うるせえこと言ってると、黙らせるって言ったよなァ?!」
ぎりぎりとバクラの爪が立てられる。
「ぐう……」
獏良は両手でバクラの手を掴むも、引き剥がせそうもない。
喘ぐように空気を吸い込み、
「ま、ほ、う」
辛うじてこれだけ声を出せた。
「あ?」
この状況に似合わない不可思議な言葉に、少しだけバクラの手が弛む。
その機を逃さずに、獏良は大きく息を吸い込んだ。
そして、海の底のように静かな眼差しでバクラを見つめる。
「君に魔法をかける」
唐突な言葉に今度こそバクラは声を失った。
あるいは、獏良の雰囲気に呑まれてしまったのかもしれない。
「僕のことを忘れてしまった薄情な君は、絶対に遊戯くんに負ける」
「負ける」という言葉に、バクラの眉が跳ね上がる。
「そうしたら、僕は元の生活に戻って、君なんかのことは綺麗さっぱり忘れて幸せになる」
「てめえ……」
再びバクラの手に力がこもる。
ギリギリと歯を噛み、額には青筋を這わせ、今にも獏良を殺さんとしていた。
「……その後に君は思い出すんだ。僕とのことを。そして、イヤというほど後悔する」
ぽたりとバクラの手に涙が一粒落ちた。
涙で濡れた獏良の瞳が、月光を浴びた海面のように輝いていた。
なぜ泣くのか、バクラには理解が出来なかった。
その上、呪いの言葉のようなのに魔法と言う。
「何の魔法だ、それは」
バクラは半ば呆然と尋ねた。
「愛の魔法、だよ」
獏良の右手がバクラに差し伸べられる。
「好きだよ。君が僕を必要としなくなっても。『君の中の何か』が僕を邪魔に思っても」
獏良は優しくはにかんだ。
「大好き」
今日でなければ言えなかったこと。
獏良は全身全霊を持って全て吐き出した。
――あとは好きにしたらいい……。
身体の力を抜いて、バクラに虐げられるのを待つだけ。
何もかも終わった後で、バクラの心に少しでも残れたらいい。
しかし、いつまで待っても、バクラの手がきつく締まることも、こぶしが飛んでくることもなかった。
バクラは目を開き、獏良の顔を凝視していた。
それが次第に歪み、怒りとも戸惑いともつかない表情に変わっていく。
「てめえがオレのことを忘れるだと?」
獏良の首を掴む手が震えている。
「そんなこと許すはずがないだろッ!」
それは獣のような咆哮だった。
剥き出しの感情をぶつけるだけの行為。
「てめえは永遠にオレのことを忘れられずに、一生屈辱に苛まれるんだよ!」
殺気だった目で獏良を睨みつけた。
にも関わらず、獏良はころころと笑い声を上げた。
「なにそれ。僕と一緒だね。結局、二人とも忘れられたくないんだ」
バクラの毒気を吸い取っていく微笑みがそこにあった。
「……調子が狂う」
ゆっくりとバクラの手が獏良の首から離れた。
その手を獏良が両手で包み込む。
「君にはたくさん愛されたんだ。だから、今度は僕が返す」
バクラにもう殺気はなかった。
あるのは、戸惑いと少しの驚き。
「バクラ、抱いて。今の君のやり方で」
服を脱ぎ捨てれば、何もかも忘れられる。
そして、その後のことは、絶対に忘れない。
無我夢中で二人は抱き合った。
かつての壊れ物を扱うような優しさはなく、荒々しくはあったが、獏良は一つ一つ心に刻んでいった。


「明日、ここに遊戯たちと来る約束をしてるんだろ?」
「うん」
獏良は床に転がったまま、バクラを見上げた。
バクラは既に上半身を起こし、真っ直ぐに前を見ている。
「……こいつが」
バクラは胸の上の千年リングに手を置き、
「お前を殺そうとするかもしれない。それだけは食い止めてやる」
穏やかな口調で誓いを述べた。
「うん」
獏良は静かに頷く。
「ただし、それだけだ。それに、勝つのはオレだ」
「どうかなあ、それは」
今度は、バクラは何も言わなかった。
代わりに喉の奥で笑い、獏良に視線を送った。
二人の間に静寂が満ちる。
それは全てのしがらみから解き放たれた、とても優しい時間。
やがて、バクラが再び口を開いた。
「またかけてくれよ。さっきのアレ」
「いいよ」
獏良は立ち上がり、バクラの目の前に回って跪いた。
二人は指を絡ませて手を握り、見つめ合う。
「もう君は僕のことを忘れない。最後まで一緒だよ」
今のバクラの目には、しっかりと獏良が映っていた。
絶対に目を離してはいけない。
もう一人の自分がそう言っているようだった。
「そして、僕は……」
獏良は自分の正直な気持ちを言葉に乗せる。
二人だけしか知らない魔法の言葉に。

「僕は、君のことをずっと好きでいる」

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DMの王の記憶編でバクラが身体を捨ててゾークに融合するシーンを見返して、自分なりに形にしてみました。
今でも受け入れ難いシーンで(最後の最後なら分かるんですが)、放送当時も物凄くショックを受けたものです。
だから、今回あえて取り入れてみました。

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