ばかうけ

半分ファンタジーです。細かいことは気にせずに、ノリでお読み下さい。


幼少期編


あるところに盗賊見習いの少年がいました。
名前はバクラ。同じ年頃の子供とは比べ物にならないくらいしっかりしていますが、ひねくれ者でもありました。
親兄弟はなく、誰からの庇護も受けられない身の上では、そうなるしかなかったのです。
子供らしさなど、とっくに無くしていました。
世間はクリスマスという一大イベントに沸き立っていましたが、バクラは興味を持てませんでした。
一緒に過ごす家族もいなければ、プレゼントも貰ったこともありません。
サンタクロースという存在は知っていましたが、そんなもの子供だましの空想の住人だと決めつけていました。
だから、プレゼントのための靴下も吊るさずに、クリスマス・イブの夜はベッドにさっさと入り込みます。
天井を見つめながらバクラは考えました。
――サンタクロースがいるわけないと証明してやる。いたらいたで、ふん縛って身ぐるみ剥いでやる。
布団を首まで上げ、サンタが現れるのをじっと待つことにしました。
時計の針が天辺を過ぎ、さすがのバクラも眠たくなってきた頃、窓の外で物音がしました。
こんな時間に人の家にこそこそとやって来るなんて、泥棒かサンタクロースしかいないはずです。
半分閉じられていた目がぱっちりと冴えました。
息を潜めて何者かの動きを待ちます。
もし、ただの泥棒なら、盗賊見習いの家に忍び込むとはいい根性だと、返り討ちにしてやるつもりでした。
窓の錠がゆっくりと独りでに回り始めました。
錠を開けようとする手は見えません。人間の泥棒にこんな芸当が出来るはずはありません。
では、一体何者なのでしょうか。
バクラの緊張感がピークに達しました。飛び上がって様子を見に行きたい気持ちを抑えます。
完全に錠が下がりきると、窓が静かに開きました。
冷たい夜風がバクラの部屋にひゅうと入り込みます。
白い手が窓枠を掴んだかと思うと、するりと中へ人が入ってきました。
その人物は赤と白の配色が目立つ姿をしていました。髪も真っ白です。
――サンタだ!実在してやがったッ!
バクラは慌てて目を瞑りました。油断させて捕まえてやろうという魂胆です。
サンタの気配が徐々に枕元に近づいてきます。
その顔を拝んでやろうと狸寝入りをしたままで、バレないように薄目を開けました。
ベッドの脇に立っていたのは、若いサンタクロースでした。
てっきり髭もじゃで恰幅のいい老人を想像していたバクラは声を殺して驚きました。
もっと驚いたのはサンタの容姿です。
赤い服に赤い帽子、裾には白の縁取り、服の上にはこれまた赤色のケープを羽織っていました。これは想像通りのサンタの姿です。
想像と違っていたのは、サンタが女性と見間違えるほどの美貌の持ち主だということでした。それに優しい顔立ちです。
バクラの動揺にも気づかずに、サンタはポケットから何やら紙を取り出しました。
「んーと、バクラ……。ああ、今年も駄目だったか」
残念そうに息を吐くと、その場に膝を揃えて座り、ベッドの中のバクラに顔を近づけます。
バクラは気づかれては困ると、ぎゅうと目を瞑りました。
「ごめんね。君は悪い子だから、プレゼントはあげられないんだ」
ふわりと甘い香りがバクラの鼻をくすぐります。なんて優しい声なんでしょうか。
「来年はいい子になってね」
ちゅっ。
柔らかい何かがバクラの額に触れました。顔にはさらさらとした細い絹糸のようなものがかかります。
――これは、なんだ?
もしかしたら、と思います。バクラは家族の温もりなど知りません。
だから、親愛のキスも当然されたこともないのです。
サンタを捕まえることも忘れて、布団の中で固まってしまいました。
「バイバイ」
真実を確かめる前に、カタンと音がして、サンタの気配が部屋から消えてしまいました。
バクラは慌ててベッドから跳ね起きましたが、もう窓はきっちりと閉まっていて、サンタの影も形もありませんでした。
窓を乱暴に開き、外を見回します。
やはり、サンタはもういませんでした。
「チクショー!」
真冬の夜空に向かって叫びました。
サンタに触れられた額がじんじんと熱を持っているかのようです。
「来年は捕まえてやるからなッ!」
小さな盗賊見習いの少年は胸に誓いました。


思春期編

「いい加減に放してくれないかな?」
クリスマス・イブの夜、サンタが子供の部屋でぐるぐる巻きに縛られているという異常事態が起こっていました。
サンタは縛られたまま床に正座をしていました。
「紐を解いたら逃げんだろォ?」
14歳にして立派な盗賊となったバクラは、サンタの前に仁王立ちになっています。
毎年毎年バクラの部屋で行われている捕物帖に、やっと進展があったのです。
今まではサンタにひらりひらりとかわされ、触ることすら出来ませんでした。
今夜やっと罠に嵌めることに成功したのです。
「今年こそお前をモノにすることが出来るんだぜ」
指をわさわさと動かし、サンタににじり寄ります。
「わあ、待って待って!僕なんかで貴重な青春を無駄にしないでよ。君ならすぐ彼女出来るよね?!」
説得が功を奏したのか、サンタの胸の手前でバクラの指が止まりました。
「いねえよ」
声の調子を落とし、バクラがぼそりと言いました。
「え?」
「だから、彼女なんていねえって言ってンだろうがァ!あのなあ、毎年毎年てめえみたいなヤツにデコチューかまされたら、性癖が歪んで当然なんだよォ!」
サンタに指を突きつけ、一度に心の内を全て吐き出しました。
言い終わった後は、ぜえぜえと息を荒く息をします。
サンタの影を振り払おうと躍起になり、女子と遊んでみたこともありましたが、全て一夜限りで終わっていました。
結局は温もりを初めてくれたサンタの幻影を追いかけるだけなのです。
張本人であるサンタは、バクラの勢いに目を白黒させていました。
「ご、ごめんね。えーっと、性癖?よく分からないけど、僕のせいなんだね。プレゼントはあげられないけど、償いはするよ」
「オレ様のモノになれッ!」
「それはダメなんだー。サンタだからね」
あくまでも自分のペースを崩さないサンタに、バクラは頭を掻き毟りました。
口で言っても無駄なら、やはり実力行使しかないのかもしれません。
バクラは険しい眼差しをサンタに向けました。
「それにサンタ協会の規約で、君に会えるのは十八歳までって決まってるし」
「は……?」
サンタの言葉にバクラの時が止まりました。
「サンタに会えるのはね。子供の時だけなんだよ」
サンタは言います。
サンタが訪れるのはサンタを信じる子供の元だけ。サンタを信じなくなった子供のところへは行けない。
例え、信じていても、十八歳――大人になれば、もう二度と会うことは出来ない。
「だからね、長くてもあと四年しか君には会えないんだ。サンタは子供のものだからね」
サンタの顔は少し寂しげでした。

『会えるのは十八歳まで』
『子供の時だけ』
『あと、四年しか会えない』

バクラの頭の中でサンタの言葉が断片的に繰り返されました。全てが否定的な言葉です。
「……プレゼントなんざ、いらねえよ。一生分のプレゼントをくれてやるから、オレのモノになれよ」
否定的な言葉全てを吹き飛ばしたくて、バクラは思いの丈をサンタに向かって叫びました。
その姿を呆気に取られてサンタは見ていましたが、ゆっくりとその場に立ち上がります。縛られた身体でよろよろとよろめきながら。
バクラの額にこつんと自分の額をぶつけ、
「縄、ほどいて」
静かに言いました。
いつの間にか、身長はほとんど同じ高さになっていました。
そんなふうに頼まれては、言うことを聞くしかありません。
バクラはそのままサンタの背中に手を回し、縄をほどいてやりました。
はらりと縄が床に落ちます。
「ありがとう。今年は一つだけいいことをしたね」
サンタはバクラの頬――唇に近い場所にキスをしました。
その背中にバクラの手が触れようとしては離れます。
今なら抱きしめることも容易いのです。
しかし、それは出来ませんでした。
してしまったら、二度とサンタに会えなくなってしまうような気がしたからです。
唇を離すと、サンタは一歩後ろに下がりました。
「君が十八になったら、僕は……」
首を少しだけ横に傾け、柔らかそうな髪がさらりと肩から落ちました。
「少し寂しいかも、ね」
それだけ言うと、サンタは窓へ歩いていきました。
両開きの窓を開け、枠に手をかけます。
「捕まえてやるッ!」
その背中に向かってバクラの決意に満ちた声が飛びました。
「絶対お前を捕まえてやるからなァ!」
「待ってる……」
サンタは後ろを振り向き、小さな微笑みを残して去っていきました。


??編

毎年クリスマスになると、バクラは僕に一年分のプレゼントをくれる。
甘いお菓子や夢のような香りのする花束、見たことのない面白いゲーム。
普段はプレゼントなんかしてくれないけど、今日だけは特別。
わくわくしながら、プレゼントの包みを開けるのが毎年の楽しみ。
そんな僕をバクラは頬杖をついて見ている。
僕からはプレゼントはない。ご馳走は作るけどね。
これは昔の約束なんだ。
テーブルの上にご馳走とプレゼントを並べて、カチンとシャンパンの入ったグラスを鳴らす。
そうそう、プレゼントはないけど、一つだけしてあげられることはあるんだ。
マナー違反とは分かってる。
僕はテーブルに手をつき、精一杯身を乗り出して、向かい側に座っているバクラのおでこにキスをした。
「知ってる?昔、僕はサンタだったんだ」
そう言うと、バクラは大声で笑い出した。

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久々にクリスマスものを書きました。
クリスマスはまったり過ごして欲しいので、ファンタジーですけどまったりです。
タイトルはもちろん有名クリスマスソングのもじり。

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