事件に巻き込まれない限り、獏良了の日常生活は平凡である。
学校に通い、せっせと授業のノートを取り、休み時間には他愛のないことを友人たちと喋る。
今日もそんな学校生活を終え、帰り道に遊戯たちとゲームセンターに寄った。
新しく入ったゲームをチェックし、和気藹々と遊ぶ。
格闘ゲームで城之内が遊戯にボロ負けをした。
獏良がパズルゲームで眉一つ動かさずにハイスコアを叩き出した。
本田がレーシングゲームに熱中しすぎて、危うくゲーム台のバイクが壊れかけた。
UFOキャッチャーに幾ら注ぎ込んでも目当てのものを結局取れなかった獏良が落ち込んだ。
ひとしきり遊戯たちと遊んだ後、意気揚々と帰路に着く。
こんな普通の毎日が続いてくれたら良いのにと獏良は思う。
しかし、ふとした瞬間に日常から非日常が顔を出す。
自宅に向かう途中で、ぷっつりと獏良の記憶が途絶えた。
「???」
気付くと、いつの間にか自宅のリビングルームに立っていた。
「えーっと」
記憶の糸を手繰り寄せるが、家に帰った記憶はない。
「えー……」
困り果てて立ち尽くす獏良の胸に硬い感触があたる。
一つだけ心当たりがあった。
「またお前か」
制服の上から"それ"に手を置いて獏良が囁いた。
以前ほどではないが、今も時々記憶が途絶えることがあった。
身体の主導権を取り戻した時には、身体チェックは欠かさない。
それと、金品の確認。
向こうも向こうなりに気を遣っているらしく、今のところ悶着はないが、勝手に身体を使われるのは気持ちが良いものではない。
「ずっと閉じこもっているのがイヤなのは分かるけどさ」
本当は理解してはいけないのにと、獏良は甘い自分を諫めた。
自分の中に異物がいるという感触は大分薄れてしまっている。
向こうがあの一件から滅多なことでは顔を出さなくなったせいではある。
獏良に干渉しないと決めているのだろうか。しかし、慣れてはいけない。
獏良は堅く唇を結び、身体チェックを始めた。
腕-OK
前-OK
背中-OK
足-OK
身体的外傷なし。
次は持ち物チェック。
鞄を開けて財布を取り出そうとしたところで手が止まった。
「これ……」
鞄に無造作に押し込められたぬいぐるみを持ち上げる。
先程ゲームセンターで何度も挑戦して取れなかったものだ。
最近ブームになりつつあるキャラクターで獏良も気に入っていた。
城之内と本田には男の趣味じゃないと笑われたが。
「お前なの?」
信じられないといった口調で獏良が呟く。
まともな返答は期待していない。
「お前なの」
無言をイエスと判断して、今度は確認の意味で呟いた。
あれからもう一度ゲームセンターに戻って取ってきたのだろうか。
メリットなど何も無いのに。
「お前、僕のこと好きなの?」
自分で言って、呪文のような言葉だと思った。
再び沈黙。
――何か言い返せよ。じゃないと、認めることになるんだぞ。
「困ったな」
結局答えはなかった。
どうしろというのだ。
獏良は行われてきた所業を知っているが、一方で後ろから斧を振り下ろすことができないことも知っている。
いつから牙を折られたのだろうか、この悪魔は。
さっきの言葉が真実であったとしても、さほど嫌ではない自分に気づいた。
「困ったな」
非日常は日常になりつつあった。
-----------------------
バクラをラブラブにッ!と意気込みつつも、バクラのバの字も出てきません。
少女漫画チック(いやいやいや;)に。
強気な了さん。