ばかうけ

幼い頃、獏良と天音は揃いのものをよく宛がわれていた。
玩具や食器、筆記用具など。
色違いのものもあったし、全く同じものもあった。
服にしてもそうだった。
年が近いために同じような格好をしていれば双子のように見え、両親や周りの大人たちから可愛いと持てはやされていた。
当時の獏良は妹と同じものを着ることに抵抗がなかった。
幼いこともあったが、服にあまり関心がなかった。
それに周りの人間が喜んでくれるし、なにより天音が大好きなお兄ちゃんとお揃いだと嬉しそうだったので何も言わずにいた。
物心がついて服を選ぶようになってから、自然と「お揃い」ではなくなっていった。
獏良自身も記憶が不確かなくらい前のことだ。


1 ペアルック


いつも綺麗に片付けられている獏良の部屋だが、今日に限っては様子が違っていた。
床に物という物が広げられ、まだ猶そこに新しい山が積まれていく。
当初の予定は大掃除だったはずで、散らかすつもりは毛の先ほどもなかった。
普段手を付けていない場所を引っ掻き回せば、失くしたと思っていたものや懐かしいものがざくざくと掘り出される。
これが大掃除の罠。
懐古の情に浸っている間に、懐古の情に浸っている間に、部屋の状況は片付くどころか悪化する一方だった。
目下のところ古い雑誌を堪能し終わり、棚の奥から見つかったアルバムを開いているところだ。
「どうしてこんなところにしまってんだろう」
獏良が弾むような声を上げた。
ゆっくりとページを捲っていき、目を細めて写真一枚一枚を辿る。
その後ろでバクラは不満顔で立っていた。
神経質にも今や少なくなった床が剥き出しの箇所を選んで足場にしている。
もともと綺麗好きな獏良のことだから、すぐに元通りの部屋になるだろう。
それでも縄張りを荒らされたような不快感は拭えない。
そんなことを少しでも口に出したら、「誰がお前の部屋だって?」などと獏良の機嫌を損ねるに決まっているので黙っていた。

「あれ?」
獏良が突然素っ頓狂な声を出した。
小型の段ボールの中を覗いたまま目を丸くしている。
見たことのある数着の服が中に押し込められていた。
どうやら引っ越しをしたときに荷解きを忘れていたらしい。
見当たらなかったので、獏良は大方実家に置いてきたのだろうと思っていた。
元々自分のものなのに、ないと思っていたものを発掘すると、少し得をした気分になれるから不思議なものだ。
中に入っていた黒のトップスを手に取って広げてみる。
問題なく着られるだろう。
「ねえ」
それまで「宝物探し」に夢中だった獏良が、初めてバクラに視線を投げ掛ける。
「ん?」
「これ、着る?」
獏良は座ったまま服を差し出した。
「お前が着るんなら、そうなるんだろうな」
人格交代をしたときに、どんな服を着てようがバクラには興味がない。
「いや」
獏良が駆け寄り、服の両肩辺りを掴んで広げてバクラに合わせる。
「うん、似合う似合う。あげるよ」
「あげるってなんだよ。お前も着るんだろう?」
「着ないよ。お前専用にするの」
事も無げにそう言った。
獏良の真意を掴み取ることができないままバクラは口を開いた。
「いちいち着ろってことか?めんどくせえな。なんだって……」

「お前と揃いの服なんてイヤだもの」

妙に低い響きの声がバクラの耳に届く。
「は……?」
イヤ?
何気なく呟かれた言葉が重くのしかかる。
バクラの表情が険しくなった。
獏良にしてみれば、そう思うのも当然なことで、バクラにも十二分に理解はできる。
それでも、他の何処でもない、たった一つの居場所から突き放されるのは気持ちの良いものではない。
今のバクラは獏良に対して執着ともいえる感情を抱いている。
少し前ならそんなことを考えもしなかっただろう。
そんな自分自身の感情に戸惑いながら、獏良から視線を外す。
「どうかした?」
獏良は変わらず、やんわりとした調子で首を傾げる。

天音と「お揃い」でなくなったところで、獏良は何の感情も抱かなかった。
ただ、変化を受け入れただけだった。
ペアに興味はないが、好意を持つ人間同士が物を通して繋がりたいのだろうと、獏良なりの見解は持っている。
同じ物を持っているという一体感。
大切な人を近くに感じられる安堵感。
その感覚を想像すればするほど、獏良の心は沈んでいく。

「だって……どうすればいいの?」
獏良は胸の前で服をくしゃりと握る。
「僕らは最初から一緒だもの」
違う人間だから惹かれ合って愛し合えるのに。
普通とは違う関係が、どうしようもなく不安定に見えてくる。
「僕らはちゃんと違う人間だよね」
獏良の瞳が悲しげに揺れる。
「あー……」
バクラが唸り声をあげて後頭部を掻いた。
ようやくバクラは朧気に獏良の言葉の意味を察した。
「んなバカなこと気にすんな」
できるだけ穏やかな声で話しかけつつ、獏良の線の細い顔を覗きこむ。
その顔がくしゃくしゃに歪んだ。
「……ッ!そんな顔すんじゃねえよ」
「う……うん」
返事とは裏腹に、服を胸に抱いて鼻を啜る。
「あんまり困らせるな」
「うん……」
バクラは慣れない手つきで獏良の背中を数回叩いた。
「かたちはどうであれ、お前はお前、オレはオレだろ」
「アリガト」

「だから、そんな顔すると困るっつてんだろ!」

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やっと取り掛かることが出来ましたv
このお題を見たときに、一番目が一番難しそうだと思って、どうしようかと思ってたんですが…書けてよかった。
いつもペアルック(?)というか、それしかありえないので、特別な意味ってないのかなーとか色々考えてました。
甘々のお題なのに甘くないので、次からそこんところを目指していこうと思います(笑)。

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