2 キスが足りない
人の体温って苦手だ。
僕は人とベタベタするのがあまり好きじゃない。
潔癖症とまではいかないけど、過剰なスキンシップはちょっと躊躇ってしまう。
周りの友だちも今までそういったタイプだったから、自然とそうなっていったのかもしれない。
だからといって、希薄な友人関係だったわけじゃない。
それが僕たちにとって当たり前だったんだ。
今ではすっかり環境が変わって、以前だったら仲良くなっていないようなタイプの友人たちと出会った。
ちょっとしたことで小突かれたり、肩を組んだりして笑い合う。 不思議と嫌じゃない。
むしろ、もっとこんな日が続いたらいいなと思う。
自分からするのはまだ照れ臭いけれど。
あと、変わったのは友人との間だけじゃなかった。
「やどぬし」
いつになく甘い声が僕を呼ぶ。
ぎゅっと目を瞑って、身を竦める僕に唇が降りてくる。
普段の様子からしたら笑ってしまうくらい優しい。
身体中がくすぐったいような気がして身を捩る。
本当なら嫌がってもいいはずなのに。
バクラの体温が感じられなくてもどかしい。
たまらずに自分の指を噛んだ。
いくら唇を重ねても通り過ぎていくだけ。
「もっと、して」
どうしても、僕らは触れ合うことが出来ないから。
心が切なく泣いた。
「お願い、もっと」
不安を拭い去るくらい。
身体が無理なら、僕の心に消えないくらい刻みつけて。
「もっと」
こんな僕はおかしいけれど、こうするのが一番自然なんだと思う。
言われるがままに、バクラは無数のキスを僕にくれる。
これをすべて受け入れることができたら、僕はどんなに満たされたのだろう。
現実は、されればされるほど心が乾いていって、もっともっと欲しくなる。
「バクラ」
僕は真正面からバクラを見つめて、初めて自分から口付けをした。
今までで一番長くて熱いキス。
やっぱり感触はなかったけど、これが僕の気持ちだ。
やがて顔を離すと、バクラが静かに微笑んでいた。
今度は僕の首筋に吸血鬼のように吸いつく。
「もっとしてくれよ」
ああ、僕らはどこまでも貪欲なんだ。
触れたい。
触れられたい。
まだ足りない。
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ずっと放置してました;
ちゅっちゅするのは好きですが、バク獏だと難しいよねというお話です。