「つかれたー」
獏良が椅子の上で大きく伸びをした。
勉強に加えてTRPGというインドアな趣味があるせいで、獏良は一日中机に向かうことが少なくなかった。
凝った肩と首を解すために大きく回す。
本当なら食事を取る時間だが、既に面倒臭くなっていた。
一人暮らしの短所は生活リズムが崩れるところだなと、獏良は他人事のように思った。
ふらふらと立ち上がってベッドに直行する。
重力に任せるままにベッドにダイブすると、優しく布団が受け止めてくれた。
――このまま寝ちゃいたい……。
このまま惰眠を貪れば、どんなに心地良いだろうか。
瞼がゆっくりと下りてくる。
しかし、もう一人がそれをさせなかった。
「宿主ー、飯食ってないぞ」
バクラが空中からベッドを見下ろして声をかける。
「ヤダ」
獏良は布団に顔を埋めたままですっぱりと答えた。
眠りを妨げられては、温厚な獏良でもさすがにムッとしたのだ。
その愛想のない答えにバクラの方も眉をしかめた。
そして、獏良の腰の上に無遠慮に乗りかかった。
「お前なァ、あんまり引きこもってると、本当にモヤシになっちまうぜ」
「うるさいなぁ」
身体を持たないバクラに乗りかかられても痛くも痒くもない。
しかし、うるさいのは煩わしい。
獏良はこのまま無視を決め込んで寝てしまいたかった。
顔を見ようともしない獏良に、バクラはさらに詰め寄ろうと上半身に体重をかけた。
「あ」
「は?」
唐突に獏良が声を上げ、バクラは仰け反った。
「ねえ、マッサージしてよ!マッサージ」
「はぁッ?!」
4 コミュニケーション過剰
「これ、意味あんのかよ」
不服の声を漏らしながらも、バクラは獏良の肩を丹念に揉んでいた。
二心同体の二人にとっては何の意味のない行動に思える。
「いや、なんか癒されるよ。気持ちいいー!」
獏良はうつ伏せのまま枕を胸の下に入れて腕で抱え込み、すっかりマッサージモードだった。
バクラは肘を獏良の右肩に乗せて体重をかけた。
「あー!効くー!」
効果のほどは分からないが、自分のマッサージに歓喜の声を上げる姿を見ることは、バクラにとっても悪くはなかった。
首と肩が終わり、徐々に背骨を伝って下がっていく。
時々ツボに嵌まるらしく、獏良は気持ち良さに震えていた。
腰は親指の付け根に体重をかけて押してやる。
「あーっ!そこー!」
ずっと座っていただけあって腰も硬くなっていた。
手で特に硬くなっている場所を念入りに探す。
「んー!」
心地良いところに当たる度に獏良がとろんとした声を上げ、付き合ってやっているだけのつもりだったバクラも遣り甲斐を感じつつあった。
今度は太股に手をかける。
運動不足で血液が滞り、足もぱんぱんに張っていた。
手で肉を押し上げるように揉み込む。
「足も気持ちいいっ」
揉みながら太股を下がっていき、ふくらはぎに辿り着く。
太股同様にだいぶ浮腫んでいる。
「ふひゃ」
獏良の身体がびくんと揺れた。
バクラは特に気にせずに手を動かし続ける。
「くっ……ふっ……」
吐息を洩らしながら、
「もうダメ!くっ、くすぐったいよー!」
獏良は耐えきれずに足をジタバタと動かし始めた。
バクラの手でも押さえきれずに、蹴飛ばされそうになってしまう。
「おい、そんなに暴れるなよ」
「だってッ、くすぐったい!」
獏良は毛布を掴んで必死に堪えようとするが、意味がないようだった。
「そんなに足弱かったか?」
仕方なくバクラはふくらはぎから手を離した。
代わりに足首を軽く持ち上げ、足の裏を指の腹で押してやる。
獏良の身体から力が抜け、再び気持ちよさそうな声を上げた。
土踏まずも甲も丁寧に解してやる。
「ん、気持ちいい……」
指の先も一本ずつ軽く押していく。
「ふぁ」
完全に無防備になった獏良の姿に、バクラは沸々と悪戯心が湧き上がった。
ぺろりと唇を舐めると、足の親指に吸いついた。
「んっ」
獏良は突然の感触に驚きのあまり起き上がろうとした。
しかし、バクラはそれ以上動かないように足を押さえつけた。
指全体を吸ってみたり、指の間を舐めてみたり。
見えなくても何をされているか察した獏良の顔が赤くなる。
「だ、だめっ!汚い!」
バクラは拒否の声には耳を貸さず、より丹念に舌を足に這わす。
ぬるぬるとした感触が足の末端を行き来する。
獏良には未知の感覚だった。
「ひっ……ンッ……」
ただ足を弄られているだけと思おうとしても、日常ではありえない感触にそれも叶わない。
時折、背後から聞こえる水音が艶めかしくて、また羞恥心が煽られる。
もちろん、バクラはわざと聞かせるように吸っている。
「ヤダぁ……」
毛布を強く握って上半身を突っ張るが、足の感触を逃すことはできない。
ぴくぴくと動く足の指を愛おしそうにバクラは口づけをする。
「……あ、んっ」
思う存分に獏良の足を堪能したところで、バクラはやっと口を離した。
獏良は髪をベッドに散らして、ふうふうと荒く息をしていた。
それを見てバクラは満足げに口角を上げて笑った。
「宿主」
バクラの呼び声に頭だけを動かして獏良が振り返った。
髪の隙間から潤んだ目が覗く。
「ダメだって言ったのに……」
獏良の声は少し掠れていた。
「悪ぃ悪ぃ、ちょっとしたイタズラだろ」
全く悪びれていない口調でバクラが言った。
少しばかり調子に乗りすぎたのかもしれない。
獏良の足の上に跨って機嫌を窺う。
「宿主、また揉んでやるからさ」
腰に手を当てると、
「だめだめだめ!」
急に獏良が勢いよく首を振った。
「なんだよ?」
「ちょっと待って……」
布団に突っ伏したままで顔も見せずに手だけでバクラを制す。
不思議そうにバクラが獏良の顔を覗こうとすると、辛うじて見える耳が赤くなっている。
「どうした」
答えを聞く前にバクラは獏良の腰が引けているのに気づいた。
それを見てにんまりと締まりのない笑みが浮かぶ。
「なー、宿主。今度はお前がマッサージをしてくれよ」
ちゅっと耳に軽く口づけをしてやる。
ふるふると首を振る獏良に猫撫で声で覆い被さった。
「やだぁ!」
獏良の甘い声が部屋に響いた。
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多分、お題の意味を履き違えてます。
身体の末端を触るのはリラックス法の一種なので、色々持ち込みたい人にはこの行動は合ってます。