この話は一般にある『プレゼント』の十八禁版になります。
今日も獏良は空想に耽る。
背中に翼を生やして大空を自由に飛ぶ。足を尾ひれに変えて広い海をどこまでも泳ぐ。ラベンダーやサルビアなどの香り立つ花が咲く草原を駆ける。
この狭い部屋にはどれもないものだ。頭に思い浮かべるだけで幾分か気が紛れる。
あるのは、味気ない天井と窓のない四方の壁とベッドのみ。一辺の壁にはドアがついているものの、内側からは開けられない。あっても意味のないものと化していた。
ベッドの上で寝転がることしか選択肢がないのだから、 やることといったら夢を見るだけ。
ごろんと寝返りを打つと、金属の擦れ合う音がした。
シャランシャラン――。
金属が触れ合う涼しげな音。
獏良はこの音を聞くのがたまらなく嫌だった。聞きたくなくとも、身体を少しでも動かせば聞こえてしまう。音は獏良の全身から奏でられていた。
数えるのも億劫なほどの、すべて金で統一されたアクセサリー。全身に隈なくつけられている。
ヘッドチェーン、イヤリング、チョーカー、バングル、二の腕や太股にチェーン、アンクレット、トゥリング、指にも複数の指輪。胸の先端には二匹の蛇が絡みつき、双方の尾は細長いチェーンで繋がっている。そして、他のどのアクセサリーよりも存在感を放つ千年リング――。すべてバクラからの贈り物だ。
衣服を身につけることすら許されず、シーツを身体に巻きつけて過ごしていた。薄布が擦れるだけで金属たちが囀ずってしまう。この贈り物からはどうにも逃げられない。
ある日、獏良は心の深層にあるこの部屋に閉じ込められた。抵抗は意味を成さず、外の様子を確かめることもできない。部屋から出ることなど夢のまた夢。延々とベッドの上で時間を潰す毎日。
変化といえば、時折バクラが部屋を訪れることくらいだ。間隔は不定期で、長く放って置かれることもある。その間に悪事を働いていないことを獏良は祈るのみ。
バクラが姿を現すときは――獏良にとっては苦痛でしかないのだが――暇潰しか生存確認でもしているのだろうと思うことにしていた。
アクセサリーは一つずつ増えていく。バクラが部屋を訪れる度に獏良に贈られた。他に何をされるわけではない。
拒絶すれば報復が待っているが、じっとしていれば、必要以上に触れられることはない。それでも耐え難い時間だった。
身体を飾り立てるのはアクセサリーという名の枷。一つ一つがとても重く感じるのだ。増えていく度に身体の自由が奪われていく気がした。
外すことは許されず、身勝手に増やされていく。まるでマーキングのよう。
獏良の身体に金色の枷を押しつけ、飾り立てた出来映えを隅々まで見る。一つずつ確認するために指で弾いて鳴らす。
羞恥心に苛まれながらも、獏良はじっと動かずに耐えるばかり。
恐らく、玩具かオブジェのつもりなのだろう。それ以上触れられることはなかった。
バクラが獏良の存在を忘れさえすれば、この部屋を訪れなければ、屈辱を受けることもない。だが、そんなことはありえなかった。同じ肉体を共有している限り、切っても切れない関係は続く。忘れることなどないはずなのだから。
ドアが開く音と共に、束の間の平穏は破られた。
獏良はびくりと震えてから身体を起こし、身にまとった薄布をさらにきつく巻きつける。
バクラは無遠慮にベッドへ上がり込み、青褪める顔をじっとりと見つめた。
その表情からは感情は読めず、視線だけが肌に突き刺さる。
上向きに突き出された人差し指が触れるか触れないかの距離で小刻みに揺れる身体をなぞり、顎先へと突きつけられた。
獏良は指から顔を背け、微かな抵抗を示す。
途端に強い力で身体を前に引かれる。バクラが服代わりのシーツを引いたのだ。バランスを崩して前のめりになった獏良の肌が露出する。
金属たちが悲鳴を上げた。ベッドに倒れ込んでしまうと身構える前に、今度は身体が引き起こされた。
胸の先端を飾る二つの蛇を繋ぐ細いチェーンを引かれて。ビン、と淡い鴇色とその周辺が形を変えて突出する。
「イッ……!」
強く引かれたのは初めの一回で、あとは肌が突っ張る程度の力で何度も繰り返される。
「くっ……やめ……アッ」
獏良の身体が揺れる度にジャリンジャリンと音が奏でられた。力を加えられた二粒は膨らみ、噛みついた蛇にさらに締めつけられる。
「ンッ…………」
獏良は髪が舞うほどに首を激しく横に振った。これ以上辱しめを受けたくない。ただでさえ既に自尊心を嫌というほど傷つけられているというのに。
バクラの口元には薄っすらと笑みが浮かんでいた。口端が僅かに吊り上がり、嗜虐的な表情が垣間見える。
「だめ……ッ」
獏良が何度目かの否定の言葉を口にしたとき、チェーンから手が離れた。それと同時に体勢が崩れて上半身が大きく傾く。
弄ばれた胸の突起と周辺は色づき、白い肌の上で本人の意思に背いて主張する。
執拗に続いた刺激は肌を伝い背骨へ、背骨から雄茎へと集まり始めていた。
「ほら、また同じ目に遭いたいのか?」
休む暇も与えられず、冷たい瞳に見下ろされる。獏良は膝立ちになり、最早腰に絡みついているだけのシーツを震える手で剥いだ。
全身に絡みつく金の装飾品。肌が白いだけにどれもが輝いて見える。
反対に一つも飾りがつけられていない部位が不自然に目立つ。そこは性器だった。茂みから垂れ下がった雄茎も膨らみも手つかずのまま。
どんなに全身を飾り立てようが、そこだけは通り過ぎるばかり。
バクラは満足げに目を細めると、かすみ草を模したヘッドチェーンに唇を近づけて鳴らす。
その後は、イヤリング、チョーカー、アームレット――順に下がっていく。
アクセサリー越しに唇で撫でられる感触は決定的な刺激に及ばず焦れる。焦れていることがバクラの思惑に嵌まっているような気がして恥じた。
太股に巻きつくレッグチェーンまで辿り着いたときには、逃れようのない熱が足の付け根を揺り起こそうとしていた。
「おや?どうしたんだ、これは」
ピクンピクンと反応を見せる雄の象徴を嘲笑混じりの声が指摘する。
「ここは、触ってねえはずなんだが」
「違……これは!」
弁明しようと獏良が口を開くと、レッグチェーンを乱暴に引き上げられた。
「あうッ」
太股のみならず、尻の柔肉に細い金具が食い込む。
「なんだって?」
バクラが力を入れる度に肌に赤い線が刻まれていく。
「……ッく……やめて」
雄茎は抵抗も空しく硬さを帯びて緩く起き上がってしまっている。
「なんでこうなっちまうンだろうなァ?」
太股に菱形格子状の模様の痕がついたところでバクラの手が離れた。
「躾がなってないな」
金具越しの愛撫で肌は粟立ち、胸の先端はぷっくりと膨らんで甘い痺れを感じる。中途半端に勃ち上がったものは、刺激が足らずにもどかしい思いをしている。
獏良は内股を擦り合わせ、勝手に潤みだした瞳でバクラを見つめた。
本当は自らの雄を両手で包んで無茶苦茶に扱きたくて堪らない。考えれば考えるほど、意識が足の間に集中し、それしか考えられなくなる。
「う……っ……ぁ……」
肌に擦れる冷たい金属の感触を敏感に感じ取り、それすらも刺激になってしまう。
間接的な方法ではなく、もっと強く直接的に全身を弄って欲しい。獏良は自然と腰を突き出す姿勢を取っていた。
「せっかくお前に似合うのを用意したっつーのに、これじゃあ……」
バクラがジーンズの後ろポケットを探る。
「どうにかして、ここ、つらい」
とうとう辿々しい懇願の文句が獏良の口から滑り出した。熱に浮かされたように、「ここ」と繰り返す。
そんな獏良の両肩にバクラの手が乗り――次の瞬間、強い力で後方に向かって突かれた。獏良は受け身を取る余裕もなく、ベッドに横倒しになる。ジャラン、と激しい音が鳴った。
「望み通りに――」
崩れた体勢を建て直そうと、四つん這いになった獏良の後ろから押し殺した笑い声が聞こえた。無防備に曝け出した尻に硬い何かが押し当てられる。
「まって…………!」
獏良が言い終わる前に、
「――ズブズブと突き立てて奥深く挿し込んでやるよ」
一気に太い杭が身体にめり込んだ。
「う、ぐっ、ぅあ、ぁああ」
喉から言葉にならない悲鳴が漏れる。息を吸うことを忘れ、背中を反らし、顎を上げ、歯を食い縛る。
「お、締まるッ」
「くう……っ」
獏良はベッドに爪を立て、大きく頭を振った。準備もしないまま突き立てられた太いものを受け入られるわけがない。
内側で蠕動が繰り返され、ぎゅうぎゅうと異物を押し出そうとしている。
獏良が藻掻いていると、突然ずるりと引き抜かれ、
「はっ、ん」
再び奥まで打ちつけられる。
「ハッ、どうにかして、やろう、ってんだから、もうちょい、努力、してみろ……ッ」
容赦ない抽挿が続き、獏良の啜り泣きと場違いなシャランシャランという金属音が混ざり合う。
当人の意思とは無関係な行為も、繰り返されれば感覚が麻痺していくように、ゆっくりと身体が受け入れていく。ただ、切ない昂りをどうにかして欲しかっただけなのに。
「うぅ……。ふっ、ん、くっ」
白い肌の上で金の装飾品が舞い踊る。バクラにはこの上なく淫靡な光景に見えた。
絶え間なく続く泣き声は嗜虐心を誘い、肌から匂い立つ甘酸っぱい香りは頭を痺れさせ、全身を飾る金属は征服欲を満たす。
すべてが自分のために用意されたもののように感じた。そうでなければ、こんなに快感を得られることなどない。
陰茎をしっかりと咥え込んで搾り取らんばかりに締めつける。体温はひやりと冷たいのに、中はすべてを包み込んで温かい。
「ん、はあ、ひっ、ん」
肉体を貫かれる痛みに耐える声すら求められているように感じる。
ほら、こんなに欲しがっている。ならば、もっと。もっと、悦くしてやらなければ。
挿入を続けながら竿先で中を探る。
「ヒッ!ぁ、ああぅ」
ある一点を掠めたとき、獏良がベッドに爪を立てて大きく身を反らせる。
「うぅ、うそっ、くぅ、ぁ、や、やだァ」
萎えてしまっていた茎がビンと腹まで持ち上がった。
「なぁ、なんで、やぁあ、ンっ」
勝手に先端からつゆが溢れ、獏良自身もシーツも濡れていく。
「ほら、なん、とか、して、やった、ぜ……ッ」
バクラは反応があった箇所を集中的に責め立てる。意識的にか本能的にか、逃げようとする腰を捕まえ、強く打ちつけた。
「で……でちゃ……あぁあああッ」
まだ染まっていない薄い色の鈴口からビュッと乳白色の飛沫が上がる。続いてパタパタとベッドを汚す。そこで獏良は力尽き、身体が前へと倒れ込んだ。
俯せで動かなくなった前からも後ろからも婬水が滴っている。
獏良は果てた気怠さに朦朧としていた。それなのに、まだ手が身体を這い回っている。
「も……やめて……」
ヒヤリ、と熱を失った雄に何かが押し当てられた。
「えっ?やっ、なに?!」
慌てて起き上がろうとしても、腰に力が入らない。腕を使い苦心して上体を捻ると、バクラが歪んだ笑みを浮かべて見下ろしていた。
「お前に似合うと思ってたんだよ」
手の中にあるのは金色の太いチューブ状の金具。それが何か獏良には理解ができなかった。
しかし、背筋に悪寒が走る。なぜ、それを大事なところへ当てているのか。
「や、やだっ!」
仰天して手足をばたつかせるも、いとも簡単に押さえつけられる。
バクラは太股を掴んで足を大きく開き、頭を垂れた性器に金具を嵌め込んだ。
見るも禍々しい金具は、性器を丸ごと覆い隠す。根本には小さな南京錠がついていて、鍵をかけると、見ることも触ることもできなくなった。
金具自体が大きく下向きにカーブしているため、中身の形を変えることは不可能。
バクラはすっかり収まった獏良のものを指で弾き、
「思った通りだ。よく似合ってる」
喉の奥で低く笑った。
「外して!嫌だ、こんなの」
足の間に恐ろしいものが存在を誇示している。獏良は血相を変えてバクラに縋りついた。
「まあ、慌てるなって。ちゃんと後でオレが外してやるし、全部面倒見てやる」
妙な猫撫で声。話す内容は考えれば考えるほど恐ろしい。「ちゃんと」「後で」「全部」「面倒」。どの言葉も不安を掻き立てる。
「何言ってるの……」
震える獏良に向かって、
「これは躾だ」
にたぁ、と口が三日月型に歪む。
「言うことを聞けば、外してやるからな」
今日も二人しか知らない部屋で冷たい音色が鳴り響く。シャランシャラン。カチャン。キンキン。演奏の合間に、糸のようにか細く、それでいて甘ったるい声が漏れ聞こえる。
「お願い、して……」
----------------------
すべて思うままに。