*これは別所で書いていた続きものです。パラレルとはいかないまでも、とんでも設定です。
「遊戯王」とは一切関係ない人も出てきたりします;それでも、大丈夫な方は↓へドウゾ
その日は光が全て遮られていた。
厚い雲が空全体を包み、地に叩き付けるように雨を吐き出していた。
私は部屋の中で他愛のない本を機械的にめくり続けた。
これといってすることもない。
そして、無理に何かをする必要はない。
これは休養なのだから。
雨の降る音以外、何も聞こえない。
この屋敷には私しかいないのだから、当たり前だ。
雨が降ってくれたのは幸いだと思う。
長雨は憂鬱な気分にさせるので好まないが、雨音は静寂を掻き消してくれる。
私以外誰もいない、この広大な屋敷の静寂はうるさすぎる。
がんがんと鼓膜に鳴り続けるのだ。
ここは全くもって不必要な大きさだ。
二階建てでへたな旅館より立派な佇まいなのだ。
現所有者の私も全室を把握していない。
これを建てた祖父の気が知れない。
起業して一代で世に名を知らしめた祖父。
力の象徴として、この屋敷を建てた。
趣味で収集した骨董品を隅々まで、ごてごてと飾り立てた。
さすがに父も人里離れたこの屋敷に住まうことはしなかったが、よく幼い私を連れてやって来たものだった。
私はというと、残念ながら祖父から性格は微塵も受け継がなかったようで、立派な屋敷や骨董品には一切興味が湧かない。
私にとって、この屋敷は宝の持ち腐れにしかならなかった。
ほとんどここに来ることはないが、一族を繁栄に導いた祖父への尊敬の念をこめて専門の業者に管理を頼んでいる。
住む者がいなくても清潔に保たれている。
そして、私の代になっても危なげなく経営をし続けているので、充分祖父に顔向けが出来るはずだ。
珍しく私がここを訪れているのは、休暇を利用した療養の為だ。
元来人嫌いの傾向があるので、たまにこうして人から離れた環境に身を置かなければ精神が参ってしまう。
仕事で無理に人と関わるようにしているのだから尚更だ。
身の回りを世話する者がなくても、長期間ここにいるわけではないので一人でも何とかやっていける。
私は読み掛けの本を閉じ、窓から空を見上げた。
雨が止む気配はない。
窓からの景色は都会とは違い、時の流れを忘れさせてくれる。
見渡す限りの木々が、私を「現代」から覆い隠しているようだ。
そのまま窓から目を逸らしたら、気付くことはなかっただろう。
景色の中に小さな白い点が飛び込んできた。
林道をこちらに向かって人影が走って来る。
ここら辺は散策にもってこいの場所だ。
大方、急に降られて目についたこの屋敷に雨宿りに来たのだろう。
居留守を使っても良いが、暗色の広がるこの世界に舞い込んだ「白」に興味が湧いた。
後から追い出すことなんていくらでも出来る。
私は軽い気持ちで玄関に向かった。
戸を開けてその人物が私の目に映り、息を飲んだ。
髪も服も濡れてぺしゃんこに肌にまとわりついているというのに、その端正な顔立ちに目が眩んだ。
「あの、すみません。勝手に入ってきたりして」
高くもなく、低くもない、不思議な声音。
「いや、良いんだよ。大変だっただろう。いま拭くものを持ってきてあげよう」
私の嗜好のせいもあったかもしれない。
他人と関わることが嫌だった私でも彼をすんなりと中へ入れた。
バスタオルを渡すと、彼は礼を言って髪を拭き始めた。
「こんなところまで一人で来たのかい?」
「そうです。夏休みを利用して、一人旅をしてみようかなと。けど、何も考えずにうろうろしていたのでこんな所まで……雨も降ってきたし」
「こんな所」ではっと彼は口を押さえた。
その様子がおかしくて、久しぶりに私は吹き出した。
「良いんだよ。人も寄り付かないところさ」
彼と話していると、自然に会話が溢れてくる。
いつもより饒舌な自分に驚いた。
「ええっと、君は……」
呼び掛けようとして、まだ彼の名前を知らないことに気付いた。
「獏良 了です」
変わった名字だなと、相槌を打つ。
「夢を食うバク。けもの偏の。それに『よい』の良で、ばくらと読ませます」
指で彼の言う通りに描く。
やはり変わった名前だ。
礼儀に則って私の名も伝えると、彼は多少なりとも驚いたようだった。
近頃の物を知らない若者と違って社会に疎くない。
私はますます彼が気に入った。
「道理で……立派なお屋敷だと」
感銘を受けたらしく、嫌味なく彼は廊下を見回す。
「祖父の趣味だよ。私には分からないのが残念だが」
絵画や壺をしげしげと見つめ、
「どれも値打ちのあるものだと思うんですが」
うっとりと呟いた。
「興味があるのかい?」
「ええ、これとは少し違いますが、大学では考古学を専攻しています」
「ほう」
私の専門とは畑違いなので話し合えないのは残念だが、祖父のコレクションはまだまだ沢山ある。
それを述べると、彼は嬉しそうに目を細めた。
機会があれば、見せてあげたいものだ。
もしかしたら、私が思った以上に、祖父のコレクションは価値のあるものなのかもしれない。
こんなところで腐らせるより、然るべき場所へ寄贈でもした方が良いのではないだろうか。
そうこう話しているうちに、私たちは空き部屋の前へ辿り着いた。
とはいっても、ほとんどが空き部屋になるのだが。
私がちゃんと状態を把握しているのがこの部屋なのだ。
使うのには差し支えない。
「この部屋を好きに使うと良い」
彼が遠慮をする前に、使わないより使った方が部屋も喜ぶと付け加えた。
「雨が上がったら、すぐに出て行きますから」
「明日まで上がらないと思うよ」
「え……!」
まったく……しっかりしているのか、抜けているのか分からない。
私はさっきから笑いを噛み殺すので精一杯だ。
「食事はレトルトになってしまうが用意するよ」
私は家事の才に恵まれなかったらしく一切出来ない。
ここに籠る前に、大量にレトルト食品を買い込んできた。
もう一人の食事くらいどうってことはない。
人に干渉されたくなかったとはいえ、なんて怠惰な生活を私は送っているのだろう。
「きちんと整備をしているはずだから水道に問題はないと思う。風邪を引くといけないから風呂で暖まると良い。私はこの廊下の突 き当たりの部屋にいるから」
気遣いの言葉が意識せずにすらすらと口から出る。
本当に私は彼に魅せられてしまったのだろうか。
「何から何までありがとうございます」
彼は申し訳なさげに何度も何度も頭を下げた。
そんな彼を制し、部屋へ入るように促した。
「そうだ……」
戸をくぐったところで、彼は軽やかに振り向いた。
薄紅色の唇が小さく動く。
「ゲームは好きですか?」
何を突然……?
年齢にそぐわない、艶めかしい表情に、声を失う。
ゲームというのは、どういう意味で言っているのだろう。
この年頃なら、テレビゲームやアーケードゲームのことだろうか。
それなら全くといっていいほど、触ったことがない。
チェスやカードならお遊び程度にやるし、スポーツのことをさすなら、乗馬やアーチェリーを嗜んでいると言えよう。
彼に尋ねれば良かったのだが、自然と私の口から、
「好きだよ」
と飛び出した。
まるで魔力か何かに操られたようだ。
「良かった」
にこりと彼は優雅に微笑んだ。
『良かった』
何がだ?
口が縫い止められたように動かない。
彼の背中が部屋の中に消えるまで、私はその場に立ち尽くしていた。
雨は何か得体の知れないものを呼び出したに違いなかった。
「間違いないね」
「ああ。お前も感じるか?」
「凄く反応してる……」
「無駄足にならなくて良かったぜ。久々の仕事だな」
「乱暴にしちゃダメだよ」
「あの野郎次第だな」
暗い部屋の中で、二つの影が笑った。
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オリジな感じの人を出すのは抵抗があるんですが、名前入れてないからセーフということで…。
そこはかとなく「館」っぽいですけど(比べたら失礼;)、殺人事件は起こりませんよー。