ばかうけ

*この話は『ある雨の日に』『盗賊遊戯』の続きにあたります。
原作終了後の捏造話です。「遊戯王」とは一切関係ない人も出てきたりします;それでも、大丈夫な方は↓へドウゾ


草木も眠る丑三つ時、二人の男女が廃墟にやって来た。
郊外にあるその建物は、鬱蒼と生い茂る樹木に囲まれ、近くには民家もない。
聞こえてくるのは、虫や夜行性の鳥の鳴き声くらいだ。
地元民でも近寄らず、車やバイクがないと訪れることは出来ない場所だ。
そんな場所に来るのは――。
「ねえ、もう帰ろうよ……」
「いいじゃん。もっと奥まで行こうぜ」
不良たちか肝試し目当ての連中だけだった。
男は楽しげに、女は怯えた様子で、暗い廊下を懐中電灯の明かりのみで歩いていた。
女は男の服の端を掴み、おどおどと辺りの様子を窺っている。
それが男には嬉しいらしい。
「ここが病院になる前には何があったと思う?」
廃墟は使われることのなくなった総合病院だった。
三階建てで広すぎず狭すぎず、心霊スポットとして密かな人気を博していた。
今でも多くの道具や設備が残されているので臨場感たっぷりだ。
「えー……分かんない……」
男の問いに不安を感じ、女は口元に手を当てた。
先を聞きたいような、聞きたくないような、相反する感情に揺らぐ。
「ここは、昭和の中頃に建ったんだけどさー」
男はそこでピタリと話すのを止めた。
黙って歩みを進める。
女はその様子に続きが気になってしまい、恐る恐る尋ねた。
「なんだったの?」
「……旧日本軍の軍事施設だよ」
低い声で囁く男。
「ヤダッ!」
女の口から小さく悲鳴が上がった。
「病院になる前は、戦争中にここでたくさんの軍人が死んだらしい。
今でも死んだって気づかずに、夜になると軍人たちがうろうろしてるんだってさ……」
廃病院であるだけでも近寄りたくなかったのに、軍事施設という前歴も加わると一般人にはもう手に負えないような気がする。
「もうやだ!帰ろうよー……」
女はぐいぐいと男の袖を引っ張り、泣き出す寸前だった。
「まあまあ、もう少しだけ中を見ていこうよ。俺がついてるんだから平気だって!」
にやけ顔を悟られないように男は口元を引き締めた。
聞き齧っただけの噂を便りに訪れたのだが、効果はてき面だったようだ。
普段は少し気の強い女が完全に怯えている。
もう少し脅かしてやりたいという気持ちが、むくむくと男の中に湧き上がってくる。
「おー。ほら、こっちが入院棟かな?」
少しばかり早歩きにすると、女が慌てたように腕にしがみついてくる。
その柔らかい感触と頼りにされているという優越感が心地よい。
懐中電灯の明かりは、足元を薄らと照らすだけで心許ない。
元々病院にあった物や侵入者に廃棄された物が、あちらこちらに落ちていて注意が必要だ。
さすがに能天気な男も念入りに足元を照らす。
だから、突然明かりの中に足が現れた時は驚いた。
素っ頓狂な声を上げて、男が後ろに下がった。
「え?え?」
状況が分からない女は困惑した顔で男を見つめる。
「いま、何か……」
男は震える手で懐中電灯を持ち直して再度床を照らした。
先を照らすのが怖い。
でも、確かめたい。
ゆっくりと足の見えた方に光を向けていく。
見間違いであって欲しいと祈りながら。
祈りも空しく、再び明かりの中に一組の足が現れた。
「ヒッ!」
今度は女も共に叫び声を上げる。
逃げ出すことも忘れ、正体を確かめるように徐々に上へ光を照らしていく。
細く長い足、凹凸の少ない胴体と腕――どうやら男のようだ――白い首。
そこから上に進むのが恐ろしくて光が小刻みに震えた。
女は後ろから固唾を呑んで見守っている。
とうとう光の中に足の持ち主の顔が照らし出された。
ゾッとするほど深い色の瞳と綺麗な顔立ちに二人は叫び声を上げた。
男は尻餅をつき、女は男に首にしがみつく。
対照的にその人物は、
「まぶし……」
落ち着いた声で不平を漏らした。
眩しさに顔をしかめる。
男は動けない二人に向かって前屈みになった。
「大丈夫?」
手に持ったランタンを掲げて二人の安否を気遣った。
その人物が持つランタンは、安物の懐中電灯とは比べ物にならないしっかりとした光を放っていて二人に安心を与えた。
よく見ると、目の前の男の顔は真っ白ではあるものの生気があった。
二人はほっと胸を撫で下ろす。
落ち着きを取り戻せたところで男は立ち上がり、まじまじと目の前の男を凝視する。
体型から男だと分かったが、白い長髪と細面の顔が女のようだった。
背は高いものの、町中で見たら女と勘違いしてしたかもしれない。
「お前、一体……?」
「僕?獏良……じゃなくて、こんなところにいたら危ないよ」
場違いにのんびりした調子で獏良は二人に語りかけた。
「せめて、ライトはちゃんとしたものにしなくっちゃ」
ホラースポットにいることを忘れさせるような口調に男の中に活力が戻る。
目の前の男は存在感が危ういほどの美人だが、立ち振る舞いは普通の人間に違いはなかった。
「いやいやいや、お前こそ一人で何やってるんだよ」
その問いかけに獏良は顎に手を当てて唸った。
「えーっと。……大学のレポート提出のため?かな?」
なぜ疑問文?!そう男が問い返す前に、
「君たちは?」
逆に聞き返されてしまった。
ちらりと男と女は目を合わせた。
「俺たちは肝試しに……」
獏良はぽんと膝を打った。
「あー!雰囲気あるもんね」
納得したように何度も頷く。
「そうだろ。軍事施設跡の病院。何度も出たって噂がある」
「ん?へえー」
獏良は男の話に興味深げに耳を傾ける。
話が長くなりそうなことを悟り、女が男の腕を引っ張った。
「ねえ、もういいでしょ。帰ろうよ」
「その方がいいよ。僕の方が先に来たんだと思うけど、特に面白いものもなかったよ」
女の言葉に獏良が同調して見せた。
せっかく二人きりで盛り上がっていたところに水を差され、男は少しばかり不機嫌になった。
二対一では分が悪い。
「あー、分かった分かった。あと十分くらい見て帰るからさ」
女の手を握り、さっさと獏良から離れようとした。
暗くて今まではよく分からなかったが、ここはナースステーションの前で廊下は十字に分かれていた。
男が直進しようと歩きだしたところで獏良が止めた。
「そっちには何もなかったよ。僕はこっちとそっちを見たんだけど」
男から見て右手の廊下と奥の廊下を獏良は指差した。
「そうか、じゃあな!」
さっさと二人きりになりたいがために、男は言われるがままに左手の廊下を進んだ。
「気をつけてね」
男の背中に向かって獏良は手を振った。
女は物珍しそうに何度か後ろを振り返っていたが、男に引かれて廊下の奥へと消えていった。
「さてと」
一人になった獏良は男の進行を止めた奥の廊下へ迷わず足を進めた。


「ねえねえ、さっきの子なんなのかなあ」
女の方は獏良に対して悪感情を持たなかったようで、しきりに気にする素振りを見せた。
その態度に男の苛立ちが増す。
「男の子なのに綺麗だったね」
廊下の先には目新しいものはなく、とうとう行き止まりになってしまった。
そこは今では動かなくなったただのエレベーターホールだった。
「なんだよ」
男が忌々しげに悪態をつく。
「何もなかったでしょ。じゃあ帰ろうよー」
男の中で何かが切れた音がした。
「お前なあ、そんなにあの男が気になるなら、今からでも追っかけてこいよ」
「はあ?何言ってんの?!私はずっと帰りたいって言ってるじゃん!」
乱暴な口調で喚く男に、女も負けじと言い返す。
ホラースポットで女を驚かしていい雰囲気になるという当初の目的を忘れ、いつの間にか怪奇現象を探すことに目的がすり替わっていた。
男の自分勝手な言い分に、女は我慢の限界に達した。
「勝手に連れてきて、なによ。帰らないならあんたこそ一人で見てくれば?私は外で待ってるから!」
先程まで怖がっていたのは何処へやら、女は自分の携帯の光を頼りにずんずんと来た道を戻っていってしまった。
「あ、おいッ!」
男の呼びかけはもう聞こえてないようだった。
「なんだよ……!」
途中まではいい雰囲気だったはずだ。
獏良が現れるまでは。
男は大きく舌打ちをした。


獏良は脇道に逸れることもなく、廊下を真っ直ぐ突き進んでいた。
キャンプ用のカンテラの明かりは頼もしく、暗がりでも周囲のものがよく見える。
それにしても、先ほどは驚いてしまった。
誰もいないと思っていたのに、カップルに遭遇するとは思わなかったのだ。
明かりが見えた時は不審者だと思って姿を隠したが、何も知らない一般人だったようなので帰宅を促した。
――上手く嘘つけてたかなあ。
「バレバレだろ」
笑いを含んだ声が獏良の隣で聞こえた。
他人には見えないもう一人の姿が現れる。
かつては、千年リングに宿る魂だったが、今ではリングにから解放されて獏良の中に居住を構えるバクラだった。
消滅してしまったと思われたが、とあることをきっかけに獏良の元へ戻った。
それから二人は各地の様々な怪奇を探し回っている。
目的はバクラの魂を冥界に送り届けることだった。
「宿主のさっきの驚きっぷりは、なかなか面白かったぜ」
「もー!」
慌てて身を隠した時に頭をぶつけたり、右往左往したことがバクラのツボに嵌まったらしい。
尚もくすくす笑っていた。
「それにしても、ホラースポットだって」
獏良は男の発言を思い出していた。
「噂になってるとは聞いていたがな」
「出ないのにね」
獏良はこの廃墟について予め調べていた。
調べるといっても、所有者とこの土地についての二つだけだったが。
男が言っていた軍事施設はデタラメだった。
恐らく、噂に尾ひれが付いたものなのだろう。
この廃病院は何の因縁もない場所にただ立っているだけだ。
その土地で過去に何が立っていたのかは、図書館にある古い地図を見ればすぐに分かる。
それを軍事施設だのホラースポットだのと言ってしまうことに獏良は笑いを堪えていた。
ちなみに、雰囲気のある廃墟であることは確かだが、持ち主が取り壊し費用を惜しんでいるだけだ。
「幽霊とやらに宿主様がかどわかされない内にさっさと済ませちまおうぜ」
廊下の先は広いスペースになっていた。
雰囲気から察するに、入院患者用のコミュニティルームのようだった。
今はほとんど何もないが、当時は椅子やテーブルが並べられ、テレビなども置かれていたのだろう。
カンテラで部屋の隅々まで照らして目的のものを探す。
「あった!」
獏良が指差したのは、部屋の隅に置かれている大きな時計だった。
値段の張るものや大きな設備はあらかた運び出されてしまっているので、残ったままというのは珍しい。
今では珍しい振り子付きの柱時計で、獏良の背丈よりも大きい。
獏良は振り子扉の埃を手で払い、優しくその窓に手を置いた。
十二時の手前で針は止まっている。
時計はもう動いていない。
文字盤の下には小窓が付いているのが見える。
時間になると仕掛けが動くようになっているのだろう。
時計が動かなくなっている今では、その仕掛けも見られない。
「これも違うみたい」
残念ながら二人の求めているものではなかった。
かつては寂しい入院患者の心を癒すべく不思議な力を宿していたのだろう。
今では死んでしまったように動かない。
どんな音を奏でたのだろうか。
「どうしようか?」
「このまま放っておけば朽ちるだろ」
廃墟の中にあるのだから、人に悪さをすることもない。
「そうだね、このまま眠らせてあげよう」
獏良は手を置いたまま、黙祷を捧げるように目を瞑った。
その横顔を見てバクラは思う。
物を作ることを趣味の一つとしているせいか、無機物に対して獏良は慈悲深い。
バクラにとっては、物は物でしかないが、獏良にとっては違うらしい。
常人とは違うその感性にバクラは惹かれる。
獏良は目を開けてもう一度動かない文字盤を見上げ、
「帰ろっか」
バクラに向かって笑みを溢した。
「いまムラッときた」
唇を三日月のように開いてポツリとバクラが洩らした。
「なんでッ?!」
獏良は悲鳴を上げて飛び退いた。
「絶対こんなところでは嫌だからね!」
身体を庇うようにして手を前に出す獏良とその腕を掴んで剥がそうとするバクラ。
「絶対ダメだから!」
人には見えない一進一退の攻防は続く。
端から見たら獏良が一人で踊っているように見えるに違いない。
「家に帰ってからー!」
「お前、そう言っていつも逃げるだろ!」
その時、こつんと足音がした。
「見つけたぞ……」

二人が揉み合っている間に現れたのは、先ほどの男だった。
挨拶もなしにズカズカと獏良の方へ歩み寄ってきた。
「道に迷ったのかな?案内するけど……」
その行動に驚きつつも、獏良は努めて親切に声をかけた。
「お前ッ!」
男は乱暴に獏良の両肩を掴んで揺さぶった。
その勢いで後頭部と背中を壁に打ち付けられた。
「お前のせいだ!」
近くで見ると男の目が据わっている。
「場に呑まれやがって……」
バクラが舌打ちをする。
「デタラメばっかり抜かしやがって!なにが何もないだ!」
喚き続ける男の言葉は、獏良には一割も理解出来なかったが、力任せに身体を揺さぶられるのは勘弁して欲しかった。
打ち付けられたせいで頭がくらくらとする。
「やめ……」
男の手を振り払う前に、勝手に獏良の右足が動いた。
躊躇なく男の土手っ腹に蹴りが飛ぶ。
男は堪らず腹を抱えて咳き込んだ。
「てめえ、オレ様の宿主に何してくれてんンだ!」
男の目には突然に豹変した獏良が映っていた。
無害そうな雰囲気はどこへやら、険しい目付きと堂々とした立ち振る舞いは別人のように見えた。
バクラは尻ポケットから携帯ナイフを取り出し、男の顎に突きつける。
「ブチ殺すぞ」
その瞳は氷のように冷たい。
頭に血が上っていたはずの男は身震いをした。
「あ?」
バクラは視線を男から真横に移して何事か呟いた。
男から見れば、何も見えない空間にバクラの視線が注がれていた。
得体の知れないものを感じ、男はカチカチと歯を鳴らした。
「チッ!分かったよ!仕方ねえな」
バクラは携帯ナイフの刃を収めた。
ホッとしたのも束の間、バクラがニヤニヤと笑って言い放った。
「なあ、ゲームしようぜ」
男は恐怖で動けずにバクラを見続けるしかない。
バクラは左手首に付けた腕時計を男の目の前に見せつけた。
デジタル製なので時間が数字ではっきりと表記されている。
「三十秒だ。てめえが三十秒を寸分違わず言い当てられたら、てめえの勝ち。出来なかったらてめえの負けだ。
どうだ簡単だろう?一分にしなかったのには感謝しなァ。ヒャハハハハッ」
バクラは楽しくてたまらないというように高笑いを上げた。
圧倒された男は怯むしかない。
「勝ったら何もしないでやらァ。もし、負けたら……」
バクラの目が見開かれ、その視線で男の身体を射抜いた。
やりたくないと言える雰囲気ではなかった。
男に残された道はきっかり三十秒を言い当てて、バクラから逃げ出すことだけだ。
震えながら男は頷いた。
「よし、合図と同時にタイマーを作動させるからな」
バクラは右手で時計全体を覆い、側面のボタンに指をかけた。
これで男に文字盤は見えない。
「行くぞ。――スタート」
ピッという電子音が鳴った。
バクラの手の中でカウントが始まった。
――1、2、3……。
男は丁寧に頭の中で数字を数える。
たった三十秒なのだ。 落ち着いたら出来る。
バクラは腕時計を構えたままの姿で男を監視している。
そのプレッシャーに数える早さが分からなくなってしまう。
――10、1……1、12……。
早くないか、遅くないか。
一秒はどんな早さだっただろうか。
口の中が渇く。
この得体の知れない男は自分に何をするのだろうか。
先ほどまでは温厚そうな男だったのに。
今目の前にいるのは、まるで死者の世界に片足突っ込んでいるような男だ。
まるで、人間の生気というものが感じられない。
殺されてしまうかもしれない。
男はカラカラになってしまった喉を鳴らした。
――じゅ、18、じゅう……9、にじゅう。
あと、十秒だ。
合っているのか、いないのか。
もう既に三十秒経ってしまった……なんてことはないだろうか。
――にじゅうしち、にじゅうはち、にじゅうく、さんじゅう……。
男は宣言するために口を開いた。
目の前のバクラの笑みが一層深くなる。
慌てて男は口を噤んだ。
――間違えた?!
確かに焦っていたのでカウントが雑になっていた気がした。
それにしても、コンマ数秒だろう。
念のために一拍置いて、男は再び口を開いた。
「す、ストップ」
バクラは無言でスイッチを押した。
手の中にあるタイマーは止まったはずだ。
息をするのも忘れて男は腕時計を凝視した。
ゆっくりとバクラの右手が腕時計から離れる。
文字盤に浮かんだ数字は――。
――31。
「あああ……」
躊躇わずに宣言すれば正解だったはずだ。
「く、クククッ」
口を押さえてバクラが笑い声を零した。
ギ……ギギ……。
バクラの背後から何かが軋む音がする。
ガチン
動かないはずの時計の針が12時を差した。
ボーンボーンボーン……。
ぎこちないが耳の奥まで届く重厚な音色が辺りに響いた。
「ヒャハハハハッ!」
バクラは高らかに笑い声を上げた。
「ひぃっ!」
男は地べたに這いつくばってその場から逃れようと、バクラと時計に背を向けた。
「おい、待てよォ。罰ゲームがまだだろ?」
それが合図だった。
何事か分からない叫び声を上げて男は一目散に逃げ出した。
「やめてくれぇ!」
バクラはその後ろ姿を見て笑い転げていた。
「コラ!脅かしすぎ」
コツンとバクラの後ろ頭に拳骨をするポーズを獏良がした。
「いや、だってよォ。オレたちの邪魔をしただけでなく、宿主様に手ェ出したんだぜ」
全く悪びれない様子のバクラに獏良はため息をついた。
もう千年リングの力がないとはいえ、性根は昔と全く変わっていない。
獏良にとってはそれが厄介なことでもあり、また嬉しくもあった。
身体の主導権が戻ったところで、獏良は柱時計をいま一度見上げた。
「なんで動いたんだろうね」
「しらねー。宿主が好かれたんじゃねえの」
よく見ると、文字盤の下の仕掛け扉が開いていた。
さすがに、からくりまでは昔通りに動かなかったようで、人形が出っ放しになっていた。
白い鳥が二羽、羽を暖め合うように寄り添っている。
昔はこの二羽の鳥がくるくると踊って時間を告げていたのだろう。
獏良は優しく中へ押し戻してやり、小窓の扉を閉めた。
「綺麗な音色だったよ。聞かせてくれてありがとう」
帰ろうと踵を返したとき、獏良は胸ポケットに違和感を覚えた。
不審に思って中を探ると、見覚えのない運転免許証が入っていた。
顔写真をよく見ると、先ほどの男によく似ていて……。
「ば、バクラッ!!」
「つい昔のクセでよォ」
額に手を当てて我慢の限界と言わんばかりに、バクラは廃墟に響き渡るような声で笑い出した。


『怪奇!!廃病院に棲みついた美青年の霊』
雑誌に小さく載った記事を目の当たりにして獏良が肩を落とした。
「噂になっちゃったじゃないかあ……」
あの後、道で拾ったということにして運転免許証は交番に届けた。
速やかに持ち主の元へ返っていることだろう。
後に残ったのは、廃病院の怪談話だけだ。
「そういう話が一つや二つねえとつまんねえからな」
噂などどこ吹く風で、テレビを眺めながらバクラが呟いた。
「まあ、お前と一緒の噂なら悪くないかもしれないけどね」
その言葉にバクラは獏良の方へ振り向き、にかっと歯を見せて笑った。

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テンションの高いバクラ大好きです。
見所はやたら容姿を褒められる宿主様。

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